
呪われた!のに怨霊の姿をみても、怖いとすら思えなくなった / 画像提供:早々乃曜七(@kakesichi67)
好きなゲームをしていても、心を動かされることがない。楽しいことを楽しいと思えなくなってしまった。「これが噂の鬱状態か」と男はため息をつく。その背後にはぴったりと怨霊が張り付いていて…?早々乃曜七(@kakesichi67)さんの創作漫画「感情の死んだ男」はわずか3ページという短編作品。であるにもかかわらず、一言もセリフがないキャラクターに大きな評価がつく。今回は、本作の制作の経緯や見どころを聞いた。
■怖がらせるはずが…健気な怨霊の姿に癒やされる新感覚ホラー
感情の死んだ男(1) / 画像提供:早々乃曜七(@kakesichi67)
感情の死んだ男(2) / 画像提供:早々乃曜七(@kakesichi67)
感情の死んだ男(3) / 画像提供:早々乃曜七(@kakesichi67)
この作品では、怨霊が取り憑いたにもかかわらず、怖がる気力すらないほど弱った男性が主人公だ。精気を失った人間に対し、怨霊がどうにか驚かせようと奮闘する逆転の発想が面白い。
この作品が生まれたきっかけは「これまで楽しめていたことを楽しめなくなることが鬱の始まりだ」という話を聞いたことだという。恐怖も感情の一つなら、心に余裕がなければ怨霊も怖くなくなるかもしれないと考えた作者の早々乃さんは「ホラーを楽しめるのは、ある意味、健全な証拠ですよね」と語る。今回の着想には、現代のメンタルヘルスに関する視点も含まれている。
一方、怨霊は驚かせるという本来の役割を忘れ「健全なる恐怖は、健全な身体に宿る」をスローガンに、男性を元気づけるため甲斐甲斐しく働く。料理やマッサージ、さらにはお背中流しまで…。そのコミカルな描写に、読者からは「いい怨霊」「もう悪霊じゃない」といったツッコミが次々に寄せられている。
読者からの反応に「狙い通りです」と笑顔を見せる早々乃さん。「表情が読めないけれど愛嬌のあるキャラクターを描くのが好き」だと語ってくれた。セリフが一言もないのに「健気」「いい奥さんみたい」と情が湧く怨霊の魅力は、細部までこだわった設定にある。呪いを口実に有給休暇を取る怨霊や、料理の際にエプロンに着替えるなどのユーモラスなシーンが随所に散りばめられている。
「怨霊が男性のメンタルを回復させることに全力を注いでいるのが面白いんです。ぜひ、そうしたこだわりも見逃さず楽しんでほしい」と早々乃さん。ダークな設定でありながら、心温まるコメディに仕上がった本作。興味のある人はぜひ読んでみてほしい。
取材協力:早々乃曜七(@kakesichi67)