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遺産を母親ひとりに相続させるため子が相続放棄!泣ける親孝行かと思いきや、まさかの落とし穴で大失敗【作者に聞いた】

  • 2025年1月17日
  • Walkerplus

知らないとヤバイ法律、知ったら知ったで悪用する人が出てきてしまう…それが法律です。弁護士をしながら、法律にまつわる4コマ漫画を日々、X(旧Twitter)で発信をしている【漫画】弁護士のたぬじろうさん(@B_Tanujiro)。意外と身近に存在する、法律にまつわる「ヤバイ」を漫画にすることで、法律を知ることの重要性を読者に投げかけています。



友人が相続放棄をせずに失敗した、という話を聞いたネズミ。父が亡くなったときに、彼は友人の失敗の二の舞にはなるまい、と自ら相続放棄を決断。しかし…その行動が家族を苦しめることになるとは…。

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8話P1-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P1-2
8話P1-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P1-3
8話P1-3 / 漫画=弁護士のたぬじろう

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8話P2-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P2-2
8話P2-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P2-3
8話P2-3 / 漫画=弁護士のたぬじろう


――借金の有無があやふやであることが、第三者ながら超不安でした。預金や財産、借金など親族が亡くなったときに確認するべき項目と、それを確認する方法を教えてください。

たぬじろうさん(以下、たぬじろう):プラスの財産については、まずは遺品等を手がかりに探し出すことが多いでしょうか。

たとえば、預貯金であれば、通帳や金融機関からの郵便物などからわかることが多いと思います。入出金履歴も金融機関に依頼すれば出してもらえるので、その履歴からさらに手掛かりを探すということもできます。

財産調査の方法は、ケースバイケースなので、一概に「これをすれば全部の財産がわかる」というものではありません。

一方で、借金については、調査方法はある程度決まっていると言ってよいと思います。それは、信用情報機関に開示請求をすることです。

ローンを組んだり、借り入れをしたり、クレジットカードを作ったりすると、信用情報機関と呼ばれるところに、その情報(信用情報)が登録されます。そのため、その信用情報を確認すれば、ある程度の借金の状況がわかります。個人間の借入とかはわかりませんけどね。

信用情報機関は、CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センターという3つの機関があります。信用情報を登録している範囲がそれぞれ異なるので、3つともに開示をかけるのがよいと思います。

3つともに開示請求をしても、手数料は数千円程度です。手続きもそこまで難しくはありません。「CIC 開示請求」等と検索してやり方を調べてみてくださいね。

8話P3-1
8話P3-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P3-2
8話P3-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう

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8話P3-3 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P4-1
8話P4-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P4-2
8話P4-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう


――相続放棄を弁護士に依頼する際、どれくらいの金額がかかるものなのでしょうか?

たぬじろう:事務所によりますが、10万円前後で受けている弁護士が多い印象でしょうか。

昔は弁護士の報酬は、(旧)日本弁護士連合会報酬等基準という基準で画一的に決まっていました。同基準では、相続放棄(簡易な家事審判)は10万円から20万円(税抜)の範囲内の額と定められていました。
同基準は現在では廃止され、自由に価格設定ができるようになりましたが、同価格を一つの目安としている法律事務所が多いと思います。

なお、この金額は弁護士に依頼した場合の金額です。

法律相談だけして、相続放棄は自分でする(法律相談の内容によって相続放棄を弁護士に依頼するか決める)という選択肢もあると思います。その場合、30分5500円が法律相談料の相場だと思います。

8話P5-1
8話P5-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P5-2
8話P5-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P5-3
8話P5-3 / 漫画=弁護士のたぬじろう


●「登記」とは?
その対象について、誰がどのような権利を有しているかを公示するための制度です。代表的には不動産登記があげられます。

不動産登記は誰でも取得することができ、不動産登記を見れば、その不動産は誰の物で、どんな担保権ついているかなどがわかります。

漫画では、チチネズミ所有の自宅の土地建物を、ハハネズミに名義変更(相続登記)をしようと、法務局に申請に行ったという状況ですね。

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8話P6-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

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8話P6-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう


●「遺産分割協議」とは?
相続人間で、誰が何を相続するか決める協議のことを、遺産分割協議といいます。

この遺産分割協議がされていないと、原則として、法定相続分に応じた共有状態になっていることになります。そのため、相続人の内の1人に不動産の名義を変えるためには、遺産分割協議書を作成する必要があります。

なお、遺産分割協議がなされていなくても、遺言があれば、その遺言に基づいて名義変更を行うことが可能です。

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8話P7-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

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8話P7-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう


――「おっと、預金がないなら自宅を売ってもらうしかないなあ」について解説をお願いします。法定相続人に繰り上がった父ネズミの兄弟に振り分けられる資産額が、預金を超えていた場合、家を売ってまでして現金を作り出す必要があるのでしょうか?

たぬじろう:漫画のケースでは、遺産は自宅不動産と「ほんの少しの預金」という設定でした。

仮に自宅不動産の価値が3100万円、預金が100万円だとすると、遺産の額は3200万円になります。

漫画の続きでも触れていますが、本件では配偶者が4分の3、兄弟は8分の1ずつの法定相続分があります。つまり、配偶者が2400万円、兄弟は400万円ずつの取り分を有していることになります。

この場合に、配偶者が自宅不動産を取得して、それで一切解決とするとどうなるでしょうか。本来2400万円の取り分しかない配偶者が、3100万円相当の不動産を取得することになります。700万円も得をしていますね。一方で、本来400万円ずつ取り分があるはずの兄弟は50万円ずつしか取得できないことになります。350万円ずつ損をしています。

このような不均衡を是正するために、配偶者は自宅不動産を取得した代償として、兄弟に対して350万円ずつ支払うことが多いのです(代償分割といいます)。

しかし、配偶者が兄弟に対して350万円ずつ支払うことができず、話し合いもまとまらない場合、最終的には自宅不動産をお金に換えて、そのお金を分配するという形式になる可能性が高いです(換価分割といいます)。その意味で、家を売ることになる可能性は十分あると思います。

とはいえ、配偶者としては、その自宅不動産を担保に金融機関から融資を受けるなどして代償金を工面するという方法もあります。兄弟が同意してくれるなら、代償金を分割で支払うこともあり得ます。また、全員が合意すれば、不動産を共有にしたうえで、兄弟には一定の使用料を支払う(または無償で使用させてもらう)という解決も可能かもしれません。そのため、本件において、自宅不動産を必ず売却しなければならないわけではありません。

8話P8-1
8話P8-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

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8話P8-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P8-3
8話P8-3 / 漫画=弁護士のたぬじろう


――相続放棄の放棄を取り消すことができない件について、解説お願いします。

たぬじろう:まず、相続放棄をなかったことにする方法としては、1.「撤回」と2.「取消し」という2つの方法がありえます。

撤回とは、簡単に言えば「やっぱりやめた」ということです。しかし、一旦相続放棄が家庭裁判所に受理されてしまうと、撤回をすることはできないことが法律で決まっています(民法919条1項)。撤回ができてしまうと、債権者等の関係者も困ってしまいますから、このようなルールになっているのです。

一方で、2. 取消しとは、その行為について一定の問題があり、法律上取り消すことが認められている場合を指します。たとえば、詐欺や強迫によって相続放棄をしてしまった場合ですね。撤回と異なり、取消しは相続放棄が家庭裁判所に受理された後でも行うことが許されています(民法919条2項)。

本件では、勘違いにより相続放棄をしてしまっていますので、考えられる取消原因は「錯誤」(民法95条)という制度です。これは、勘違いで行った法律行為(意思表示)について、一定の要件の下で取り消すことができるというものです。

本件では、相続放棄手続をする目的・動機に錯誤(勘違い)があります。このような場合に取消しが認められるためには、その動機が表示されていることが必要となります。本件で言えば、相続放棄の申請書に「母が単独で相続できるようにするため」等と記載されていれば、この要件を満たすことになります。

しかし、仮にそのような記載がされていたのであれば、裁判所が相続放棄を受理していたとは考えにくいです。相続放棄をしても同目的を達成できないのは、書類上明らかなのですから。そのため、裁判所が何も言わすに相続放棄を受理しているということは、そのような記載がされていなかったことが推認されます。そのため、本件では相続放棄を取り消すことができないと思われるのです。

なお、仮に、そのような記載があったにも関わらず、裁判所が漫然と相続放棄の申述を受理していた場合であっても、やはり取消しは認められない可能性が高いです。

錯誤による取消しが認められる要件の一つに、重大な過失がないこと、があげられます。子が全員相続放棄すれば、次の順位の相続人に相続する権利が移ることは法律上定められていることですし、ちょっと調べればすぐにわかることでもあります。そのため、そのような法律を知らなかったことは、おそらく重大な過失として認定されてしまうものと思われます。従いまして、やはり本件で取消しはできないものと考えられます。

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8話P9-1 / 漫画=弁護士のたぬじろう

8話P9-2
8話P9-2 / 漫画=弁護士のたぬじろう

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8話P9-3 / 漫画=弁護士のたぬじろう


●「法定相続分」とは?
相続人が2人以上いる場合の、各相続人の相続割合のことです。これは民法に定められています。相続人が
1. 配偶者と子どもの場合には、1/2と1/2(1対1)
2. 配偶者と父母等の場合には、2/3と1/3(2対1)
3. 配偶者と兄弟姉妹等の場合には、3/4と1/4(3対1)
が法定相続分となります。

同じ順位の相続人が複数いる場合には、その法定相続分をその人数で均等に分けます。たとえば、配偶者と子ども2人の場合には、配偶者=1/2、子ども=1/4ずつが法定相続分になります。

この法定相続分を一定の基準に、各種調整等を行い、遺産分割を行うことが多いと思います。

【もっと教えて!たぬじろうさん】
配偶者は特別枠で、常に相続人となります。そして、ほかの相続人については、
第一順位:子ども(孫など直系卑属)
第二順位:親(祖父母など直系尊属)
第三順位:兄弟姉妹(甥、姪)
という順で相続人になります。第一順位の相続人がいなければ(全員相続放棄した場合を含む)第二順位の相続人に、第二順位の相続人がいなければ(全員相続放棄した場合を含む)第三順位の相続人に、相続する権利が移ります。

本件では、第一順位である子どもが全員相続放棄してしまったため、後順位の相続人に相続する権利が移転してしまったという事案でした。
これが仮に、配偶者ではなく、子どもの内の1人に相続する権利を集中するという事案だったらどうだったのでしょうか。この場合には配偶者とほかの子どもが相続放棄をしたとしても、第一順位の相続人(子ども)が一人残りますので、後順位の相続人に相続する権利は移りません。そのため、このような場合であれば、相続放棄をしても問題なかったわけです。少し事案が違うだけで、全く結論が変わってくるんですね。


知らないとヤバイのが法律の世界ですが、中途半端に知っていることが逆にヤバイこともあります。本件では、コアラさんの話を知っていたが故に起きた悲劇です(ちなみにコアラさんの件については、【第3話】をご覧ください)。

本件に限らず、思いもよらない法律の落とし穴はよくあります。事前に弁護士に相談してくれれば防げた事案というのは、本当に(本当に!)多いです。

弁護士ではない人が、弁護士にしかできない行為(非弁行為)をしていることについて、弁護士が警鐘を鳴らしているという事態をSNS上ではよく見ます。中には、このような事態について、「弁護士が既得権益を守るために必死だwww」というようなコメントがつくこともあります。

しかし、弁護士ではない自称専門家が入って引っ掻き回された事件を処理することもある弁護士にとって、そのような消費者被害を生み出さないために警鐘を鳴らしていることをご理解いただけるとうれしいなと思っております。

皆様におかれましても、法律について気になることがあれば、弁護士に相談することを強くおすすめします。相談だけで落とし穴を回避できるのですから。


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