東京・中目黒にあり、コーヒー豆の焙煎工房をもつス―ターバックスの旗艦店「スターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京」(以下、ロースタリー 東京)。コーヒーやティーを五感で楽しむ体験を届ける場所としてはもちろん、日本の文化や伝統、職人たちの技を発信する役割も担っている。そんな同店で、2024年11月1日から日本ワイン2種類が楽しめるようになった。登場するのは今注目の高い北海道・余市のワイン。そこでロースタリー 東京の商品開発担当者と共に、そのワインを生産する平川ワイナリーを訪ねた。
■ロースタリー 東京をきっかけに、日本ワインに触れる
ロースタリー 東京で日本ワインを楽しめるのは、3F「アリビアーモ(TM) バー」(以下、アリビアーモ)。アリビアーモはコーヒーやティーを使った独創的で芸術性の高いカクテルが楽しめる場所だ。これまでも日本のウィスキーなどがラインナップされてきているが、今回あらためて日本ワインをフューチャーする。その意図を「日本には良いお酒のつくり手がたくさんいます。ロースタリー 東京を入り口に日本ワインに触れていただき、興味を持たれたお客様が専門店に足を運ぶ、業界全体の活性化の一端を担えれば」と語るのは、スターバックスのビバレッジ商品開発チームの石村正樹さん。
提供されるのは、余市にある平川ワイナリーの「Blanc de Yoichi Cuvée Gastronomique (ブラン・ド・ヨイチ キュベ・ガストロノミック)」(店内利用グラス¥1,800、税込)と「Rosé de Yoichi Cuvée Gastronomique (ロゼ・ド・ヨイチ キュベ・ガストロノミック)」(店内利用グラス¥1700)の2種類。ブラン・ド・ヨイチは、充実した果実味と華やかなアロマに、しっかりとした酸のフレッシュ感が楽しめる白ワイン。ロゼ・ド・ヨイチは、果実味と引き締まった酸の中にほのかな塩味を感じるロゼワインだ。
石村さんと共に平川ワイナリーを訪れたのは、9月中旬。ちょうどブドウの収穫が始まったころ。穏やかな丘陵地に広がるブドウ畑で、代表取締役で醸造家の平川敦雄さんが出迎えてくれた。
■産地固有の味わいを表現する
ヌッチ川近くの南斜面に畑を有する平川ワイナリーは、自社農園のブドウのみを使い、年間約5万本のワインを生産。農業者であり、醸造者である平川さんは、フランスをはじめとする名ワイナリーなどで12年間、ブドウ栽培、ワイン醸造を学び、同時に美食レストランなどでソムリエとしても従事してきたワインのエキスパートだ。
「この土地の風土をワインで表現したい」
これは、取材の中で平川さんが何度も口にした言葉だ。
海外で活躍してきた平川さんが、この余市にファームを開いたのは、2014年のこと。ソムリエの仕事で出合ったワインから余市に可能性を感じ、果樹園を営んでいた先輩農家から土地を譲り受けた。
「この場所を見た時に、素晴らしい土地だと思いました。一瞬で、ここでできるワインの味わいが想像できました。今、その通りの味になっています」
余市は北海道でも有数の醸造用ブドウの産地であり、近年では個性的なワイナリーも増え、現在、市内には16ほどのワイナリーがある。しかし、同じ余市でも場所によって異なる味が生まれると語る。
「平川ファームのある余市西部の澤地区は、ヌッチ川が長い時間かけて生み出した谷間の丘陵地になっており、風が吹き抜ける場所です。海の気候と山の気候が混ざり、日照条件の良い土地からは、糖度も酸度も高く、目鼻立ちのはっきりした高品質のワインが生まれます。 同じ余市でも東側の登(のぼり)という場所に優秀な醸造家がたくさんいますが、あちらは風の影響を受けにくい立地が多く、温暖で穏やかな気候なので、果実味の豊かな優れたワインができます。余市産ワインのブランドは何と言っても登が有名ですが、澤地区、仁木の旭台地区とともにいくつかの産地個性が明確になりつつあります」
全部で21ヘクタールある農園(ブドウ栽培面積は13.5ヘクタール)には、収穫期を迎えた白ブドウと黒ブドウがたわわに実っている。これらのブドウの品種は「非公開です」と平川さん。白ワインならシャルドネ、ケルナー、赤ワインならピノ・ノワールなど、ワインにはブドウの品種が明記され、それを見て購入されることが多い。しかし、品種を公開しないのは「先入観を持たずに、この土地のおいしさを味わってほしい」という平川さんのこだわりだ。「北海道のワインの魅力は、アロマの豊かさと酸味の美しさ、そして区画ごとのバラエティです」と、ワインを品種ごとに作るのではなく、農地の区画ごとに製造している。
「僕は品種のワインではなく、土地のワインを作りたいと思っています。同じ品種でも五区画あれば、全部味が違います。光の要素、土の要素、空気の要素…それぞれすべてがワインの個性になっていく。自然をどう解釈し、風土の味わいとしてどう表現していくのか。技術的になりすぎず、味わいを理解することから始まります」
■自然を受け入れて生産する
その土地を表現することを大切にしたワイン造りだが、温暖な気候が良いとされるブドウ栽培において、北海道には厳しい冬がある。
10月中旬に収穫を終えると、11月中旬まで醸造作業をし、積雪が厳しくなる12月までには剪定をして越冬に備える。海外には樹齢80年、100年にもなるブドウの樹は珍しくはないが、北海道では雪の重さで毎年5%ほどの樹が折れてしまうという。
そのため、樹をあえて雪の中に埋もれさせて冬を越す。雪の中は保温性が高く、氷点下にならないため、凍害を避けることができるからだ。
「化学肥料や除草剤もいっさい使いません。草生栽培を実施しており、植物と土との関係を大切にしています。土壌微生物の多様性の豊かさが、土壌の団粒構造を生み出し、土壌の通気性や肥沃度を高め、根圏を深く、地下120㎝まで広げます。ブドウに雨よけをかけたり、表土にシートを掛けて雨量をコントロールすることもしません。うちは自然を全て受け入れます」
こうした土地の豊かさは、平川さん一代で築かれたものではないと語る。余市は北海道の中でもリンゴをはじめとする果樹栽培が盛んだった地域。
「リンゴ生産の成功があり、そこから、洋ナシ、ウメ、モモ、プルーン、生食用のブドウが続き、そして40年ほど前に、醸造用のブドウへと挑戦してきた人たちが今のワインの基礎を作ってきました」
この土地を大切にする人から人へ、受け継がれてきたものが、その土地の味わいとなってワインに表現されているのだ。
■醸造用ブドウもコーヒー豆も農業。その土地や育てる人が大切
農園とワイナリーを案内してもらったあと、平川さんと石村さんに、今回のアリビアーモで提供されるワインや、日本ワインの魅力について語ってもらった。
----スターバックスというコーヒーチェーンで日本ワインが出されるのは、ちょっとした驚きがありますね。
【石村さん】日本にはワインはもちろん、焼酎など素晴らしいお酒があります。スターバックスというブランドを通して個々の業界を知らなくても来てくださるお客様がいますので、日本で作られているいいものを積極的に紹介していきたいというのが根柢にある想いです。
【平川さん】うれしいです。お店はコーヒーのアロマが強いので、そこでワインが勝てるのかなという心配はありました。でも、うちのワインも香ばしさを持っています。スターバックスさんがつくる、あの場所だからこそ生まれる環境なので、その中で味わうことも醍醐味だと思います。
アリビアーモで、ワインはどれくらい出ますか?
【石村さん】海外からのお客様も多いので、ワインを楽しまれる方は多いです。
【平川さん】僕、テラスでロゼワインを飲むってすごくいいなって思うんです。
【石村さん】以前、こちらに伺ったときにも、そうおっしゃっていて、ドンピシャだなって思いました。アリビアーモにはテラス席があって、しかもテラスから見える目黒川の桜が、ロゼワインの色に似ているんですよね。
【平川さん】ロゼ・ド・ヨイチは豊かな果実味とフレッシュ感を持っています。ガストロノミックな辛口ロゼワインであることを追求しており、美食店でのお取扱いも多い商品です。食中酒としてつくっているので、いろいろな食材に合わせられますよ。トマト、煮込んだお肉やお魚料理、さまざまなハーブ、地中海の食材ともよく合います。
【石村さん】店内にあるイタリアンベーカリー「プリンチ(R)」は、トマトを使ったものや地中海を彷彿させる食材も多いので、ペアリングという意味では相性がいいと思います。ブラン・ド・ヨイチもミネラルが強くて、塩味もけっこうストレートに感じられるくらいギュッとした白ワインなので、バゲット トラディツィオーネのようなシンプルなパンといったものがいいかな。
【平川さん】ブラン・ド・ヨイチは、フレッシュ感は強いのですがコクもあります。良いワインは、甘みがないのに甘さを感じたり、アルコールがあるのにそれを感じさせないフレッシュ感だったりと、ほかのもの感じさせるんですよね。食事との相性でより食の味わいを引き出せるのは、ワインの大事な役割です。今回お店で出していただくワインはどちらも「キュベ・ガストロノミック」というレストラン専用のワイン。それをスターバックスさんで使っていただけるというのは、すごくうれしいです。
【石村さん】平川さんは「味が分かる」「僕が土地から感じたこの味にする」というモノ作りをされています。僕も商品開発ではまず、つくりたい世界観があって、そのために必要なものを考えるというのを大切にしているので、平川さんの考え方にとても共感しました。最終的な完成度、人の心を震わすかどうかは全然違ってくると思うんです。平川さんのワインは、余市のテロワールをすごく表現されていて、きれいな酸、しっかり感じる塩味がいいなと思います。
----海外で経験を積まれた平川さんから見て、日本のワインの品質や可能性をどう感じていますか。
【平川さん】日本のワインは20年前に比べると格段においしくなっています。海外に出していけるワインもたくさんありますし、うちのワインも海外のレストランで使っていただいています。日本は雨の多いアジアモンスーンの気候下にあり、フランスのようなワインづくりに恵まれた環境ではありませんが、努力をして作り上げるという日本人の姿でもあると思います。北海道は、寒冷地特有の酸味やミネラル感の表現を生かしたワインづくりができるので、将来性豊かな産地のポテンシャルを持っていると思います。
【石村さん】近年、余市には個性的なワイナリーが増えていますよね。ワイナリーは現在16くらいあるとか。
【平川さん】余市はワインのブランド化も産地形成も盛んです。例えば、山の中にポツンと畑があっても、自然の力の方が強いので、ブドウ樹を育てることができても動物や鳥、昆虫たちに食べられてしまいます。だから周りに農業経営体があり、農業が継続していることが大事なんです。さまざまな獣害リスクがあっても、他に農業の場があることで分散される。それが“産地力”なんです。
産地はそう簡単にできるものではないので、余市は果樹をつくってきた先輩たちの努力が、今の私たちの品質に結びついています。ワイナリー以上に、畑をしっかり維持していく人たち、原料をしっかり作っている人が大事。うちは、この土に味わいがあります。
【石村さん】コーヒー農園のファーマーさんがおっしゃっていたことと同じですね。何よりも土が大事で、そこにあるものをいかに引き出すかが、おいしいコーヒーをつくること、そして代々つなげていくことにつながっていくとおっしゃっていました。
【平川さん】全く同じですね。嗜好品になればなるほど、より農業の特徴が農産物的な価値になります。土、光、水…そこがワインの源になっています。それはコーヒー豆でもブドウでも同じで、その土地に適してできています。すべてが調和して品質に結びついていく。そういうもろもろがお客様の喜びにつながっていくものなので、私たちは喜びと共に働いていると言えますね。
イベント情報
「Blanc de Yoichi Cuvée Gastronomique (ブラン・ド・ヨイチ キュベ・ガストロノミック)」と「Rosé de Yoichi Cuvée Gastronomique (ロゼ・ド・ヨイチ キュベ・ガストロノミック)」の発売を記念して、プリンチ(R)のパンとのペアリングを楽しむ会が、11月28日(木)に開催される。
当日は、今回訪ねた平川ワイナリーの平川敦雄様さんがゲストとして登場。ワインとプリンチ(R)を楽しみつつ、平川ワイナリーや商品に関する平川さんの話を聞きながら、ワインとプリンチ(R)のパンを楽しめます。プリンチ(R)のヘッドシェフ松田さんも参加し、ワインとともにもっとプリンチ(R)を楽しむ方法も伝授。下記の詳細をチェックして応募しよう。
●参加費:1人¥6600
※「Blanc de Yoichi Cuvée Gastronomique (ブラン・ド・ヨイチ キュベ・ガストロノミック)」と「Rosé de Yoichi Cuvée Gastronomique (ロゼ・ド・ヨイチ キュベ・ガストロノミック)」のグラスワイン各1杯、プリンチ(R)のパン2品を含む
●場所:ロースタリー 東京3階 アリビアーモ(TM) バー(一部貸し切り)
●日時:2024年11月28日(木)19:30~20:30
※イベント終了後は、閉店までロースタリー 東京の利用可能。
●参加可能人数:30人
●予約サイト:https://www.tablecheck.com/starbucks-roastery/reserve/experience/6715e1960634542eb189da08
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