恋愛にまつわるショートテキストを添えたイラストをSNSで発信している、イラストレーターのふゅさん。兵庫・神戸で開催中の「シダレミュージアム2024 パワーワード展」(2024年11月24日(日)まで)に出展するなど、ふゅさんが描くキュートで強い女の子像は、恋愛に悩む女性や推し活を楽しむ層を中心に支持を集めている。
そんなふゅさんによる、描き下ろしイラストとコメントで恋愛のお悩みに答える連載「イラストレーター・ふゅの恋愛クリニック」が10月よりウォーカープラスでスタート予定!そこで、今回はインタビューで作品制作への思いやイラストやワードが生まれる裏側について話を聞き、その魅力に迫った。
■自分が恋愛しているよりも人の恋バナを聞くのが好き
――物心ついたころには絵を描いていたそうですが、どういう絵を描いていたんですか?
【ふゅ】落書きなのでいろいろ描いていましたけど、やっぱり女の子の絵とかも多かったと思います。
――6〜7年くらい前から、テキストと女の子のイラストを組み合わせた今のテイストで、SNSで作品を発表されるようになったそうですが、何かきっかけがあったのでしょうか?
【ふゅ】最初はたしか食べ物のシリーズを描いていたんです。言葉遊びみたいなのが楽しいなと思いはじめた時期で、思いついたセリフを女の子と組み合わせたらかわいいんじゃないかなと思って。そこから、セリフを描いた絵に言わせるスタイルが定着したと思ってます。
――言葉遊びを楽しむ感覚について、ルーツだと思うものや影響を受けたものは何かあったりしますか?
【ふゅ】昔から、どんでん返しがあるような話が好きで、最近だと映画『ユージュアル・サスペクツ』を観ておもしろいなと思いました。ルーツといえるのかはわかりませんが、昔から好きなのは、作家だと星新一さん。ミステリーも読んでいましたし、オチがつくような言葉が好きなのは、その影響もあるかもしれないです。
――基本的に恋愛をテーマにした作品を発信されていると思うのですが、恋愛系のものもお好きですか?
【ふゅ】それが、少女漫画を読んでたぐらいで恋愛モノってあんまり見ないんですよ。自分の体験もありつつ、友達にアドバイスをしたりする中で生まれた言葉が多くて。恋愛体質っていう感じでもないし、常に恋愛をしていたいというより、人の恋バナを聞くのが好きなんだと思います(笑)。そういうときに思いついたセリフを、スマホにメモしたりとかして。
――セリフが先に生まれて、イラストを描いていく感じなんですね。
【ふゅ】こういうことを言いそうな子、というイメージを膨らませてイラストを描きます。私自身、ファッションが好きですし、街中の女の子をよく見て、服装の参考にしたり、イメージをストックしたりしています。
■誰でも思いつくセリフだと、自分が描く意味がない
――やっぱり女の子を描くのが楽しいですか?
【ふゅ】そうですね。でも、自分の頭の中だけだと同じパターンになっちゃうし、けっこうネタ切れするので、似顔絵を描くときがいろいろ描けて楽しいなって思います。展示会のときなどに似顔絵を受け付けているんですが、例えばショートカットの子とかは作品ではあまり描かないので新鮮ですね。
――実は私も以前描いていただいたことがあるのですが、カラーでも15分くらいで仕上げていただいて。早いのにちゃんと特徴をつかんだ似顔絵を描いてくださいますよね。
【ふゅ】似顔絵はけっこう得意というか、上手になってきているかなと思います(笑)。でも、美術の授業は本当に苦手で成績も悪かったので、当時の先生がイラストレーターをやっているって知ったら、きっとびっくりします(笑)。マイペースなので、決まり事があったり、自分のペースでできなかったりするとダメなんだろうなって思います。
――逆に、作品づくりをするうえで、ご自身の中での決め事やこだわりみたいなものはありますか?
【ふゅ】こだわりはあるんだろうけど、あまり自覚していないかもしれないです。…セリフがよくあるような安っぽいものにならないように気をつけている、とかですかね。しっかり掘り下げたくて、例えば上の句と下の句みたいに分かれているときに、人が想像できないような下の句になるようなセリフを作れたらいいなとは思ってます。誰でも思いつくセリフだと、自分が描く意味がないなと思っちゃうので。
――特にお気に入りのセリフはありますか?
【ふゅ】ずっと人気なのは、「君って本当にかっこいいけど私のこと悲しませていいほどじゃないね」です。神戸の展示でもメインビジュアルに使っていただいたし、これで私を知ってくださった方も多くて、やっぱり代表作といえるのかなと。描いたのが2年前くらいなので、最近ではないんですけど。直近で7月に開催した展示に出したものなら、「世界を憎む隙がないくらい好きでいてくれ」っていうセリフなんですけど、人気はそんなになかったです(笑)。人気だったのは「強くなんてないよ かわいいだけ」とかですね。
――自分の手応えとファンからの評判というのは、けっこう違うものですか?
【ふゅ】違いますね。“これは私が好きだから出す”ものと、“ウケるだろうなと思って出す”ものの描き分けができるようになってきたかなと思います。ステッカーとか持ち歩いたりするグッズだと、強気なセリフが人気ですね。ただ、SNSのいいね数だと切ないものとかも共感系のセリフにいいねが多いときもあります。
■フォロワー1000人のころと感覚はあまり変わらない
――現在Xのフォロワー数は7万人を超えていて、この数年で一気に伸びたと思いますが、そのあたりはウケを狙ってやるようになった部分もあるのでしょうか?
【ふゅ】数字的な目標をもっていたことは特になくて。いいのができたら載せる、を繰り返すのが続いて、コンスタンスに投稿していたときにフォロワーが増えたかなっていう印象です。
――バズらせたいとかインフルエンサー的な位置を目指して戦略的にやっていた、というわけではないんですね。そうなると、今みたいな状況って想像はされてました?
【ふゅ】あんまり顔も出してないので、実生活で声をかけられるような変化がないじゃないですか。だから、あんまり実感がないです。ただ、今年だとパワーワード展とか化粧品のメインビジュアルを描かせていただいたりとか、お仕事をいただいたときにちょっと影響力が出たかもみたいなことは思います。とはいえ、フォロワー1000人のころとあまり変わらない感覚ではいますね。
――よくも悪くも数字には影響されないというか。
【ふゅ】そうですね。増えたらうれしいですけどね。展示などで見てくれる人が増えて、そもそも共感してくれる人がこんなに多いんだ、って思いましたね。共感目的で描いていたわけじゃないので、そこにびっくりはしました。
――実体験ばかりではないということでしたが、例えばご自身の恋愛がうまくいっているときといないときとで、作品に影響が出たりすることはありますか?
【ふゅ】幸せなときも、それはそれで描けます。ただ、やっぱり悲しいときとか悔しいときとか怒ってるときの方が筆は進む。そういうときの方が、共感してもらいやすい強い女の子的なセリフが思いつくかなっていう感じです。
――インスタグラムのストーリーズではけっこう日常的にファンの方と交流されていて、身近に感じられる距離の近さも魅力のひとつなのかなと思ったのですが。
【ふゅ】暇なんですよね(笑)。暇なときにファンに相手をしてもらっている(笑)。休みの日は寝るか、誘われたら出かけるか。あまり自分から積極的に出かけようとしないので、寝ているとき以外は暇です。でも、せっかちなので何かしていたくて、質問を募集したり、似顔絵の依頼を受けたりしています。
――いわゆる作家さんとファンのコミュニケーションとは異なる印象なのですが、ふゅさんにとってファンはどういう存在なのでしょうか?
【ふゅ】他人ではないし、でも友達でもないし…。人生の中で私の作品に触れてくれた一瞬に、共感したり、何かプラスに感じてくれたりしたらいいな、という存在ですかね。ファンでいてくれることはすごいありがたいです。ただ、ずっと一緒にいてほしいというよりは、人生のちょっとの間でも私の作品に何か思ってくれたらうれしいなっていう感じです。
■会社員との両立が共感につながっている
――エンジニアのお仕事をされていることも明かしていますが、本業との両立が大変でどちらかをやめたいと思うようなことはないですか?
【ふゅ】絵を描くのをやめたいと思うこともないですし、両立が大変だと思うこともないんですよね。作品を見てくれている人には学生さんもいらっしゃいますけど、会社員の人が多いと思うんです。自分自身も社会人をやっている中で思うことを描きたいし、それが結果的に受け手と同じ目線で作品を作ることになり、共感にもつながっているのかなと。
だから、大多数の人が過ごしているような生活ができているのは、プラスなのかもしれないですね。例えば上司がいて、先輩がいて、後輩がいて、社会で人と関わる中で思うことが、恋愛に限らず、しんどいことなんかもセリフのネタになったりするので、本業はこれからも続けていきたいなと思ってますね。
――ちなみに、ときどきプライベートっぽいポストはされていますけど、ご自身の恋愛についてあまり語らないのは意図的にですか?
【ふゅ】あいまいな方がいいかなとは思っていますね。例えば私に彼氏がいるとして、彼氏がいるって言ったら、彼氏がいない子が共感しにくくなるかなとか、そういうことは考えます。「最近作風変わったから、彼氏できたのかな」と言われたこともありますけど、全然いないときで(笑)。そういう風に印象で左右されるのも本意ではないですし。
作品はランダムに出してますし、セリフのストックから描いたりしているので、リアルタイムのものばかりではないです。でも、それこそインスタの質問箱やトークイベントみたいな、ふゅ本人に興味がある人がいる場では、こういう人が好きだったとか、最近フラれたとか言っちゃうときもあるので、そんなガチガチに決めてるわけじゃないです。フラれたのがネタになると思えば、フラれたってツイートします(笑)。
――作品を作るうえで、自分はこんな人間です、と出す必要がないということですかね。
【ふゅ】そうですね。ミスiD出身で顔出しもしているので変に隠さないけど、でも興味がある人は見てるし、ない人は知らなくていいと思います。
■ファッションやコスメ、ぬいぐるみのコラボもしていきたい
――ミスiDのオーディション参加については、もともと芸能のお仕事に興味があったんですか?
【ふゅ】そのときは肩書きが欲しくて。イラストレーターが出られるオーディションってあまりないので、ミスiDに出ました。そのころ、フォロワーが多分2000人ぐらいで大台を突破した感があったので、ここで何が必要かなと思ったら、賞みたいな後ろ盾が欲しいなと。
――会社員を辞めるつもりはないというお話でしたけど、絵をお仕事にしたいという気持ちも強いんですね。
【ふゅ】好きな絵だけを描いていきたいんです。絵だけで食べていくとなると、そうもいかないので、会社員と両立したいと思っていますね。
――では、今後こういうことをしていきたいという展望があれば教えてください。
【ふゅ】今のところ個展は東京だけなんですが、地方から来てくださる方も多いので、地方での展示ができたらいいなと思っています。関西での展示はパワーワード展があったのでひとまず達成として、東北とかにも行きたいですね。
お仕事としては、CDのジャケットとかファッション関係に興味があります。雑誌の挿絵をやらせていただいたことがあって、また機会があればいいなとか、化粧品関係のお仕事ももっとやりたいです。あと全然関係ないけど、ぬいぐるみが好きなので、イラストとぬいぐるみのコラボみたいなことができたらうれしいです(笑)。
イラスト=ふゅ
取材・文=大谷和美