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中川紅葉のエッセイ連載!まだ消化しきれない、ほろ苦い記憶「音楽をやめたのは“逃げ”だった」/ココロすっぴん#35

  • 2024年8月7日
  • Walkerplus

青山学院大学に在学する現役女子大生で、演技やバラエティなどマルチに活躍している中川紅葉さんによるエッセイ連載「ココロすっぴん」。かなりの読書家で、大学生・タレント・インフルエンサーなどのさまざまな顔を持つ彼女が日々感じたことを、忖度なく書き綴ります。

■#35「なくなった右耳のイヤホン」
今まで何を思って何の音楽を聴いていたのかも覚えていない。それでも、早朝のロケバスで、何かを考えてイヤホンを耳に付けたことを思い出した。誰かを思い出す時も、考え事をする時も、落ち着きたい時も、音楽を離さなかった。

7月終わり、そんなことを考えながら朝早くに窓の外を見ながらイヤホンを突っ込んだ。久しぶりの感覚だった。
 
ワイヤレスイヤホンを自宅で片方落とし、なくした。音量を最大量にして、爆音で行方不明の片耳のイヤホンを探す。目の前のあたりでなっているその音を頼りに探しているが、嘘のように見当たらない。何かが心で引っかかって、答えに辿り着けないモヤモヤの感覚と似ていた。

去年の大事な日に決起として買ったものなのに。そう思いながら、同じ機種の色違いのイヤホンをその日に新しく買いに行った。その日以来、せっかく買ったのだからと音楽を意識的に聴くようになった。

音楽を聴かないようになってから、かれこれ半年以上が経った。12月にバンドを“個人の仕事を優先して”という理由で引退してから、そんなに経ったのかと感傷に浸っていた。何をしている時が1番幸せか、という質問に、真っ先にライブをしていた時と思い浮かんだのに言えなかったことが、一番の後悔だった。「バンド、やめたんですよね」と言わなくてはいけない場面に何度も遭遇して、その度に音楽を捨てたことに実感が湧いていた。

好きなものを手放すのも、何かに見切りをつけるのも、大人になったら簡単になってゆくものだと思っていた。なにより、自分は“仕方ない”と割り切ることが上手いとすら思っていた。(エッセイ本には書いたけれど、)大人にならざる得ないことが、人より多かったから。きっと自分はそんな大人だと信じていた。

それなのに、ライブに行っても素直に楽しめない。すごく心は躍るのに、どこか喪失感があった。やっぱりどうしても諦めたくなかったのだな、と。離れるのは簡単でも、すぐに忘れることはできない。なんか恋愛に似てるな、なんて今になって呑気なことを思った。

■体裁を保つための不純な気持ちがあった
好きならやめなければいいじゃん、もう一度やればいいじゃん。そう言われて、どこか納得していた。でも、他のメンバーまで道連れにして、自分の好きを強要させる自信はなかった。

高校生の頃、部活でバンドメンバーに「紅葉の熱量についていけない」と脱退させられたことがあった。今考えたら、それ言わせてしまったのも、私の強要とエゴが産んでしまった出来事で、何も反論すべきではなかったのだろう。

また、そんな風に好きなことを失いたくなかった。今度は、熱量を感じられないと言われるのではないかと、自分が終わりにしてしまうのが怖かった。

音楽をやめたことを、「逃げ」だと今は思っている。良い形で終わりにしたいからだとか、それこそ“去り際を考える”の中に、体裁を保つためのそんな不純な気持ちがあったことに気がつく。なんて我儘だったのだろう。でも今はそれ以上に、当時取るべきだった最良の策を、半年以上経ってもまだ見つけられていないことの方が悔しい。何のために芸能を目指したのか、何がしたくて人目につくことを選んだのか。自分にも、メンバーにも、それが間違っていないことだったのか、まだ分からない。

いつか、フェスに行っても、素直に音楽を楽しめる日がくるのだろうか。今はそんなことを考えている。

【ヒトコト】
7月から地方や国外にお仕事が多く、窓から知らない街を見る時に音楽を聴きたいと思うようになりました。今回はそんな中思いついたエッセイを書きました。

同じ環境に居続けると、凝り固まって、本心で何がしたいか分からないような気がして、最近はなるべく色んな場所に足を伸ばすようにしています。

いつも8月は、誕生日前ということもあり、最後の悪あがきをするのです。この年にここまで成長できたと自分で思いたいから。きっと私にとっての旅は、吸収を感じるひとつに今はなっているのかもしれないなと。そのおかげで、また音楽が好きだと気が付けたしね。

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