生理や妊娠、更年期…。女性の身体にはさまざまな悩みがつきものだ。女性の社会進出が当たり前となった今、多くの人たちが身体の変化と付き合いながら生活している。こうした社会情勢を反映するかのように、世界中でフェムテック産業が急成長している。
最近ネット上で話題の「吸水ショーツ」も、フェムテックの一環として生み出された。経血を吸う特殊な生地を使ったサニタリー用ショーツで、下着メーカーを中心に販売されている。そうしたなか、豊島株式会社(以下、豊島)は「Hogara(ホガラ)」というブランドを設立。オーガニックコットンを使用した吸水ショーツを開発し、2023年にはフェムテックジャパンアワードも受賞した。
女性社員たちが「女性が今ほしいもの」を追求し、"ほがらかな明日を過ごすため"に立ち上げたというHogara。ブランド誕生や商品開発の経緯、使いやすさへのこだわりなどについて、豊島 東京二部二課の大川侑穂さんに話を聞いた。
■社内の女性たちの悩みから誕生した「Hogara」
創業183年の歴史を持つ豊島。老舗の繊維商社がフェムテック開発に乗り出したのは、社内で働く女性たちの声がきっかけだった。
「私たちが今欲しいものを作らないか。その一言で立ち上がったのが、このHogaraというブランドです。独立した部署があるわけではなく、社内のさまざまな課から有志の女性社員が集まって成り立っています」
自分たちが主体となって新しいものを作りたい。Hogaraスタートの裏には、女性社員が増えてきたOEM企業ならではの理由もあった。
「消費者としての悩みを、作り手として形にしたい。モノづくりをしてきた私たちが欲しいものはなんだろうと話し合ったとき、話題に上がったのが生理でした。男性社会で働く私たちは、生理中に移動時間が長い出張や会議があっても、『ナプキンを変えたいからトイレ休憩させてほしい』と言えなかった。一方で、言えなくて我慢しているという感覚もなく、それが当たり前と思っていたんです」
今まで「仕方ない」と割り切っていた生理の悩み。しかし「女性だけで集まって話すことで顕在化していった」と大川さんは語る。
「自分ひとりだったら悩みと思っていなかったことでも、皆で話すと『これって本当は悩みだったよね』と言語化されていったんです。同じように生理について悩んでいる人は、きっとたくさんいる。それをモノづくりやサービスで解決できないかと、想いを強くしていきました」
■生理は恥ずかしくて隠さないといけないもの?
女性の課題や悩みを解決できるアイテムとは何か。消費者と作り手双方の視点から検討を重ねていった結果、吸水ショーツの開発が決まった。事業化の過程で明らかになったのは、女性自身が抱える生理への偏見だった。
「本来であれば、生理は恥ずかしいものではありません。でもお店で生理用品を買うと、中身が見えないように銀色や黒色などの袋に入れられて渡されます。つまり、世間一般では"隠さなきゃいけないもの"という認識があるんです」
もともと大川さんは、生理用品が隠されて渡されることに疑問を抱いていたそうだ。しかし、隠さなきゃいけないという意識を自分自身も持っていることに、企画段階の話し合いで気づかされたという。
「直属の上司たちに事業化の相談をするとき、『全員男性だから、フロアのオープンスペースではちょっと話せない』と思ったんですね。個室に呼んで話をしたところ、『女性の生理ってそんなに大変だったんだ。それはプロダクト化したほうがいい』と、意外にポジティブな意見をもらって。逆に私たちのほうが、生理だから恥ずかしいという意識を持っていたんだなと」
生理は秘めておかなきゃいけない恥ずかしいこと。そうした潜在的な意識が女性側にあるからこそ、生理の悩みがあっても言えなかったのではないか。その気づきは、プロジェクトを進めていくうえで大きなものとなった。
「隠すものじゃないからこそ、かわいいお洋服と同じようにお店に吸水ショーツが置いてあってもいいんじゃないか。もちろん『そんなもの売れない』といった声もありましたが、応援してくれる上司や社員がほとんどでした。ただ、資金繰りの面では苦労しましたね」
売上高2000億円を超える大企業であっても、新規事業に大きく予算は割けない。そこでクラウドファンディングを利用し、第一弾の商品を限定販売することに。その結果、2カ月間で803人が購入するという大きな成果を出した。
■「Hogara」の製品へのこだわり
クラウドファウンディングからスタートし、現在では日本全国のロフトやcosme kitchenなどで購入できるようになったHogaraの吸水ショーツ。そのこだわりを大川さんに聞いた。
「トレーサブル(※生産から加工まで追跡可能なこと)なオーガニックコットンを使用しているため、肌触りのよい製品に仕上がっています。また、弊社独自のリピュール加工を用いて、マチ部分だけでなくショーツの表面にも抗菌・消臭・防臭機能を付けています。部屋干しに効果的な加工なので、部屋干しをしても生乾きの嫌なニオイがしないのは弊社ならではの強みですね」
マチの部分は「吸水速乾シート」「吸水シート」「防水シート」「ショーツ生地」の4層レイヤーになっており、素早くパワフルに吸収しながらもサラサラの肌触りが持続するように作られている。
「弊社は日本でいち早くオーガニックコットンの取り扱いを始めた会社でもあります。なので、地球環境や生産者さんのことを考えながらオーガニックコットンを使っていこうという強いこだわりがあり、それが履き心地も含めて商品に反映されています」
カラー展開は17色。そのうち10色は廃棄食材を用いて染められているそうだ。
「弊社では、廃棄予定の野菜の成分から染料を抽出するフードテキスタイルという取り組みを実施しており、その過程で余った生地を使用しています。吸水ショーツは無理して履くものでも、誰かに見せるためのものでもありません。自分のためのアイテムだからこそ、履いたときに心が躍るようなデザインや機能性を意識しています」
身体について考えるきっかけを作ってもらうだけでなく、社会や環境問題についても思いをはせてほしい。オーガニックコットンやフードテキスタイルを用いた商品づくりには、そんな気持ちも込められている。さらには、寄付プロジェクトも行っているそうだ。
「Hogaraの商品が1枚購入されるごとに10円を、国際NGOのプラン・インターナショナルに寄付しています。この寄付金は、世界中の女の子を応援する活動に使われます。このような活動を行っていることも、弊社の特徴のひとつですね」
■生理の前後も快適に。吸水ショーツの活用法
女性たちの支持を集めている吸水ショーツだが、なかには「これ1枚で本当に大丈夫なの?」と不安を感じ、手を出せない人たちもいる。実際にHogaraの販売開始当初も、女性消費者から疑問の声が寄せられたそうだ。
「イベントなどに出店した際、『これって絶対に漏れないんですか』『大丈夫なんですか』といったお声をいただくことが多くて。"多い日でも漏れない"といったメーカー側のメッセージが、ユーザーの使い方に影響しているんだなと感じました。Hogaraの吸水ショーツは生理が始まるころや終わりかけの時期に使ったり、多い日はナプキンやタンポンと併用したりしていただくことを想定しています」
女性であれば、「そろそろ生理が来そうだからナプキンを付けておこう…」といったシチュエーションを一度は経験しているはず。生理不順の人であれば、いつ来るか分からず、突然始まってしまって困ることもあるだろう。吸水ショーツは、そういったタイミングで使うのがベストなんだそう。
「おりものの多い日や、軽い尿漏れ対策にも気軽に使っていただけるよう、吸水量は35~40ミリで設定しています。『生理の日のお守りになったらいいな』という想いから、“おまもりショーツ”というコミュニケーションワードを使い、数量限定ではありますがお守り型ポーチをパッケージにしています」
実際に筆者もタンガタイプの吸水ショーツを使用してみたところ、マチの部分がごわつかず、不快感もなく快適に過ごせた。生理用品のかぶれが気になる人にも最適かもしれない。
■成長するフェムテック産業の今と、Hogaraが目指す未来
女性の健康課題を解決すべく、急速に発展しているフェムテック産業。経済産業省によれば、世界のフェムテック市場は2025年には年間5兆5億円に上ると予測されている。日本では2023年度時点で700億円を超えており、今後ますます成長する分野だ。
競合他社がひしめく中、豊島のHogaraチームは今後どう進んでいくのか。
「フェムテック分野に関しては、まだ言語化されていないニーズや需要があると考えています。たとえば、更年期で悩んでいる人はとても多いものの、日本では病院に行ったりケアしたりしている女性って少ないと言われているんですね。『更年期は当たり前に来るものだから仕方ない』などの固定観念があるからでしょう。それって問題ですよ、きちんと治療しましょうとサービスや製品を通じて伝え、議論を重ねていくことが、フェムテック産業を活発化させるのだと感じています」
大川さんは、「今はフェムテックと呼ばれていないアイテムでも、女性の悩みが浮かび上がっていけば、フェムテックになりうるでしょう」と語る。
「私たちHogaraのゴールは『ほがらかな明日になること』です。そこに向けて、いろんなチャレンジをしていきたいと考えています。今は女性の課題解決に注力していますが、ゆくゆくは男性も含めた”ほがらかな明日”に向けて、プロダクトやコミュニティを構築していきたいですね」
「これくらい当たり前」で我慢していたことと向き合い、悩みを言葉にして議論する。その風潮が社会に広がっていけば、女性の生きやすさや活躍につながるかもしれない。
取材・文=倉本菜生(にげば企画)