岸田政権の掲げる「異次元の少子化対策」が何かと話題だ。この少子化対策には結婚支援の強化もあるとされ、地方自治体によるさまざまな支援策も実施されているようだが、一体どんな内容なのだろうか。そこで、長年全国の自治体婚活イベントやセミナーで登壇している婚活コーディネーターの荒木直美さんに今の自治体婚活の傾向や成功例、課題点について聞いてみた。
荒木さんによると自治体の婚活支援は大きく分けて5パターンあるという。
1. 婚活イベントの企画運営
2. イベント開催や婚活者へのアドバイスができるサポーターの育成
3. ライフデザインセミナー開催など結婚に対する機運の醸成
4. AI婚活システムなど独自のマッチングシステムの導入
5. 民間のマッチングサービスの利用料金の負担
このなかで近年増えているのが4、5だ。補助金も増えたことで独自のマッチングシステムを導入する自治体が出てきたり、そこまで人や予算をつけられない自治体でも民間のマッチングサービスの利用料金を負担したりと変化を見せているとのこと。なかにはマッチングアプリ運営企業と提携する自治体も出てきている。
■「個人の自由に干渉しすぎ」と反発を避けることに必死な自治体も
新しい取り組みが進む一方で、自治体の婚活支援にはいくつか課題もあるとのこと。
「婚活をサポートする人材不足もそのひとつで、従来から活動している婚活サポーターの高齢化が進み新しいシステムを導入してもついてこれないとか、時代錯誤なアドバイスをするといったことも珍しくないのです。そのためシステム導入より婚活支援に関わる人材育成に注力している自治体もあります」
荒木さんとしては、民間のマッチングサービス利用料負担などはよい試みとして受け止めているものの、自治体の婚活支援は民間サービスではマッチングしない人のセーフティーネットの側面もあるので、自治体による何らかのサポートはあった方が望ましいそうだ。
「また、独自のマッチングシステムを導入したにもかかわらず、登録者が集まらず成果が出ないため出会いサポートセンターが閉鎖された自治体もあります。婚活支援を盛り上げたいという思いはあっても市民の反感を怖がる関係者が多く『これまでは“結婚”って言うとハラスメントになるので、ライフデザインと言ってください』と言われたこともあったそうで、システム登録の促進など、婚活支援よりも批判を避けることに一生懸命な自治体も珍しくなかったのです。
そうしたなか、福井県坂井市は今年「結婚応援都市宣言」をして市を挙げて婚活支援をする宣言をしましたが、このようにはっきり「結婚支援」をする姿勢をみせる自治体はこれまでありませんでした」
■そんなところまで!?婚活の手前からサポートする支援も
これまで自治体は「結婚」を明確に考えて相手探しをする人のサポートが中心だった。しかし、そうなると年齢層が高くなってしまったり、真面目に付き合える恋人は欲しいけれど、「婚活」となると身構えてしまうという声も多かった。そこで「出会いが欲しい」ぐらいのゆるいニーズに合わせ、若い人が気軽に利用できるようにしているのも近年の傾向のようだ。
荒木さんも、より若い年齢層からのサポートということで、県立高校と提携し、この先、結婚と向き合うことになる次世代の高校生にライフデザインを考えるワークショップを開催したこともあるんだとか。
「さらに一歩踏み込んだ婚活サポートをしている自治体もあります。婚活では、婚活パーティーに参加したり、マッチングシステムに登録したりするだけで簡単に恋人ができるわけではありません。当然のことながらライバルもいて比較検討されるので、部屋着のようなカジュアルすぎる服装で婚活パーティーに参加したり、自撮り写真でシステム登録しても選ばれないという厳しい現実があります。
そこで、専門家を呼んで似合う服を知るセミナーを開催したり、プロフィール写真の撮影をするといった出会いの土俵に上がる前の準備をサポートする内容を提供する自治体も出てきてます」
■独身男性が少ない県、独身女性が少ない県を救う手立て
一方で、自治体が頭を悩ませる課題には地域による婚活男女人数のミスマッチもある。
九州のある町では定員男性20人、女性20人の婚活パーティーが開催され、男性30人ほどの応募に対し女性は100人以上の応募が殺到。一方、東北のある町で開催された同じ規模の婚活パーティーは女性が5人ほどしか応募がなかったそうだ。
「地域によって結婚願望のある男女の人数が違うため、近隣の人が参加する婚活イベントだけでは未婚率の増加に歯止めがかからないのです。そこで注目されているのが、移住も視野にいれた婚活イベントです。10月には宇都宮市内での結婚、定住を促進する市施策の一環で、市内在住の男性と東京圏在住女性を対象とした婚活バスツアー『住替×婚活 宇都宮マッチングツアー』が開催されるなど課題解決のためのさまざまな取り組みがはじまっています。
移住婚活ではメタバースの活用も増えていて、どこに住んでいるかは関係なく、遠方に住んでいても家にいながら婚活イベントに参加できるところが特徴です」
山形県庄内町では、9月にメタバース婚活が開催された。男性7名(内訳:庄内町在住3名、庄内町以外の山形県在住4名)、女性5名(内訳:庄内町在住1名、庄内町以外の山形県在住3名、他県在住1名)が参加し、3組がマッチングしたとのこと。そのほかにも、京都市が11月にメタバースを活用したVR婚活を開催する予定だ。
京都市のVR婚活は、他県に住んでいて京都市に住んでもよいと思っている人なら性別問わず申込みができる。
■地方だけじゃない! 東京都も婚活支援に力を入れ始めた
これまで、婚活支援が盛んな自治体は若者流出が激しく過疎化が進むいわゆる「田舎」が中心だったが、「異次元の少子化対策」の影響か都市部も取り組みを強化している。
東京都では7月に有楽町駅前広場で結婚に対する機運を高めるイベントが開催された。内容は小池都知事も参加するトークイベントや、婚活セミナーや婚活写真撮影イベントといったもの。これまでも似たイベントは開催されていたが、今年はより規模を拡大した。さらにAIマッチングシステムの導入も発表している。
このように多くの自治体が人口減少対策の名のもと婚活支援への取り組みを強化しているのだ。これから婚活しようと考えている人はもちろん、単に「出会いが欲しい」という人でも、自分の地元にどんなサポートがあるのか注目してみてもよいかもしれない。
【荒木直美さんプロフィール】
婚活コーディネーターとして、約2000組のカップルを誕生させた実績を持つ。婚活の心構えやカップルになるための必勝法をレクチャーする、オリジナルの婚「喝」語録が話題に。テレビやラジオでも活躍する主婦タレント。
取材・文=菊乃