近年広く知られるようになった「HSP」。感受性がとても高く、繊細な気質がある人のことだ。漫画「新入社員がHSPだと言ってきた。」は、HSPの新入社員の一言から、職場における上司と部下のコミュニケーションの難しさを描いている。Instagramで公開された作品には、読者から意見やコメントが殺到。今回は作者のマミヤ(@mamiyang83)さんに漫画を描いたきっかけや、反響に対する思いを聞いた。
■HSPで仕事ができていないと言う新入社員。どのように対応すべきなのか…?
「新入社員がHSPだと言ってきた。」は、マミヤさんの夫が体験した出来事をもとに描いた創作漫画だ。
仕事命の真面目な性格であるマミヤさんの夫は、上司も部下もいる中間管理職。ある日、プロジェクトのリーダーを任せられ、そこに入社半年の村西君も加わることに。マミヤさんの夫は初対面の村西君に、2週間後の締め切りでデータ作成の仕事を依頼する。
その後、村西君からの質問や相談はなく、仕事は順調に進んでいるかと思われた。しかし締め切り前日、実は仕事ができていないと報告が。理由を尋ねると、HSPの村西君は、他の社員と世間話もせず黙々と仕事に取り組むマミヤさんの夫に話しかけることができず、どうしていいか分からなくなっていたという。困ったマミヤさんの夫は、「また明日話そう」と一旦話を切り上げる。
マミヤさんの夫は帰宅後、マミヤさんへ村西君のことを相談。話を聞いたマミヤさんは、「HSPであることは別にして、期限を守れない、質問ができないということは仕事上良くない。しかし、初めて仕事を任せる部下に一度も声をかけないのも良くないのでは?」と意見を言う。村西君、そしてマミヤさんの夫どちらにも、仕事を進めるうえでの改善点が浮かび上がってきた。
普段は自閉症スペクトラムの娘、しぇーちゃんとの日々を漫画にしているマミヤさんだが、今回「新入社員がHSPだと言ってきた。」を描こうと思ったきっかけは何だったのだろうか。
「夫に『今年も新入社員にHSPだという子がいるんだけど、それはメジャーなのか。昨年もそういう子がいて自分なりに対応したけど、それでよかったのか気になる。インスタでコメントとか読んでみたい』と言われたことがきっかけでした」
マミヤさんの夫は、今回の件を疲弊した様子で相談してきたそうだ。夫へ自身の意見を伝えていたマミヤさん。話を聞いたときはどのように感じたのか聞いてみた。
「夫とはよく仕事の話をするのですが、社員同士仲良くしよう!というタイプではなくて、いかに効率よく仕事を進められるかを重んじるタイプです。内容を聞いて夫の意見も相手の意見も分かるので、『夫に相手が求める気遣いは難しいかも…。仕事をするにも相性はあるもんね』と思いました」
■予想を超える数のコメントが殺到!仕事への姿勢に対し、上司と部下どちらにも厳しい意見が
漫画には、数多くのコメントが続々と寄せられている。当初は「HSPだから仕事ができないというのは理由にならない」や「それを言える図太さがある時点で、HSPではないのでは」という村西君への厳しい意見が。
一方で、仕事を任せきりにしていたのマミヤさんの夫の対応にも「旦那さんの意見も一理ある。けれど部下を気にかけない会社には若い人もつかない」「新人相手に2週間一度も声をかけないのは良くない」といった声が多く見られた。
マミヤさんと、「インスタでコメントとか読んでみたい」と言っていたマミヤさんの夫は、今回の反響をどのように感じているのだろうか。
「コメントの数には私も夫も驚きました。HSPのことをたくさんの方が知っており、皆さんの考えや意見を夫も真剣に読んでいました。夫は特に部下への接し方のコメントなどを読んで『やっぱりもっと気にかけなきゃいけなかったんだな…』と反省していました。上司になり、遠慮のない率直な意見をいただくこともなかったそうなので、ありがたかったと言っていました」
■HSPに限らず、問題ないと思っていた少しの対応が他の社員の心労になっているかも
村西君と改めて話す前、マミヤさんの夫は村西君の入社時の指導係だった雪川君に話を聞く。雪川君はコミュニケーション能力が高く、細かな気遣いのできる優秀な社員。マミヤさんの夫は、村西君が、雪川君のような対応が、他の社員にとっても当然のものと思っていたのでは、と気付く。
その後、マミヤさんの夫は村西君に、初めて同じ仕事をする上司として歩み寄る姿勢が足りなかったと謝罪。その一方で、会社ではHSPに理解を示さない人や、苦手でも耐えなければならない人がたくさんいると話す。そして『どんな理由であれ任された仕事をしないということがないように』と伝えたのであった。
今回の出来事は、マミヤさんの夫にとっては思いもよらないことだったそう。その後、マミヤさん夫婦で考え方が変わったこと、気を付けるようになったことはあるのだろうか。
「夫は自分が新入社員のときに、かなりパワハラに近い対応をされたことがあるそうです。そのため『自分は理不尽なことはしない』と決めて接していたそうです。なので、そのときまで後輩や部下の対応での不満は聞いたことがなく、まさに青天の霹靂だったとのことでした。ただ、今回のことがあり、HSPに限らず部下へのちょっとした対応が心労を与えると意識したみたいでした。また、私たち夫婦が改めて思ったことは、HSPと娘が診断を受けた自閉症スペクトラムは違うということです。夫婦で娘の将来を話せたこともよかったです」
今、春から社会人となり、早く仕事を覚え会社に馴染もうと頑張っている新入社員がたくさんいる。同時に、時代も環境も違うなかで育ち、考え方や価値観も異なる新入社員とのやり取りに難しさを感じる先輩や上司も多いはず。
HSPという切り口から始まったマミヤさんの漫画だが、誰にとっても考えさせられる内容となっている。ぜひ、職場でのコミュニケーションを振り返るきっかけとしてみてほしい。
取材・文=松原明子