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コーヒーで旅する日本/九州編|スペシャルティコーヒーを黎明期から。筑豊のコーヒーの顔、「このみ珈琲」

  • 2022年10月3日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第45回は、福岡県直方市にある「このみ珈琲」。JR直方駅から徒歩7分ほどの商店街。昔は多くの人で行き交っていたであろう長いアーケードは、現在は残念ながらシャッター街と化している。そんな商店街の一角、青いひさしに書かれた「KONOMI COFFEE」の文字。商店街の中でひときわ目立つファサードで、店内のカフェスペースも賑わいを見せている。2000(平成12)年に店のスタイルを一新した時からスペシャルティコーヒーにこだわり、筑豊エリアにコーヒーカルチャーを根付かせてきた同店。さびれてしまった商店街でも、生き抜く地力を「このみ珈琲」に見た。

Profile|許斐善隆(このみ・よしたか)
1970(昭和45)年、福岡県鞍手町生まれ。大学時代から学校の近くにあった自家焙煎の喫茶店に通い、コーヒーに関わる仕事に興味を抱く。一度はサラリーマンとして働いたが、コーヒーショップを開くという夢を忘れられず、1995(平成7)年、仕入れたコーヒーを販売するビーンズショップカフェを直方市にオープン。その後、コーヒーの知識を深めていく中で、スペシャルティコーヒーという特別な豆があることを知り、自家焙煎に興味を抱く。2000(平成12)年、自家焙煎に切り替えたと同時に屋号も改め、「このみ珈琲」に。

■筑豊におけるスペシャルティコーヒーの先駆け
福岡県直方市の殿町商店街に店を構える「このみ珈琲」。2000(平成12)年からスペシャルティコーヒーを扱っているというから驚かされた。2000年といえば、スペシャルティコーヒーという名前が出始めた時期で、その当時、ほとんど認知されていない状態。福岡県内でも数えるほどしか扱う店がないような時期、筑豊エリアでスペシャルティコーヒーの種を植え始めたのが、「このみ珈琲」の店主、許斐善隆さんだ。

「もともと、仕入れた豆を販売するフランチャイズのビーンズショップからコーヒーの世界に飛び込みました。店を営む中でコーヒーに対する知識が少しずつ深まり、そしてさまざまな情報に触れるようになり、スペシャルティコーヒーという特別な豆があることを知りました。仕入れたコーヒーを販売していた時期、やはり生豆自体の品質が悪い商品も少なからずあった。品質が良いコーヒーとは、どんなものかという純粋な興味から、先端が集まる東京のコーヒーショップを巡ってみたんです」と許斐さん。

東京でスペシャルティコーヒーを飲んだ許斐さんは、「正直なところ、当時は違いが明確にはわかりませんでしたが、“なにか、違うぞ”という印象は強く受けましたね。その中でも、堀口珈琲さんで飲んだコーヒーは特別おいしかった。ちょうどその時期、堀口珈琲さんでは開業する人向けに焙煎セミナーを開始した時期で、受講を即決しました。当時はスペシャルティコーヒーを仕入れたいという思いではなく、できるだけ品質の良い原料を仕入れて、それを自家焙煎してお客さまにお届けしたいというシンプルなものでしたね」と振り返る。

許斐さんはタイミングにも恵まれた。焙煎セミナーを受講していた時期、堀口珈琲は共同で生豆を買い付けるメンバーを募っており、許斐さんも迷うことなく、グループに加盟。それから20余年、「このみ珈琲」開業からずっと、堀口珈琲が運営する生豆の買い付けグループ、リーディングコーヒーファミリー(LCF)の一員というわけだ。

■生豆の品質の良さをただただ信じて
仕入れた豆を売るフランチャイズはやめ、屋号も「このみ珈琲」に改めた上で新たなスタートを切った許斐さん。ただ、最初は苦労も多かったという。

「屋号を変えて、自家焙煎にしたことも発信はしていたものの、店の場所は以前と同じ。5年間、通い続けていただいていたお客さまから『前のコーヒーの方が好きだった』、『以前のものと全然違う』というご意見も多くいただきました。今ではスペシャルティコーヒーといえば、品質の良いコーヒーという認識が浸透していますが、当時は言葉で説明してもなかなか伝わらない。それでも、生豆の品質の良さはもちろん、いつかはこれがスタンダードになると信じて前に進むしかなかった」

許斐さんは自身がスペシャルティコーヒーに初めて触れて感じた“なにか、違うぞ”という体験をとにかく信じた。例えばこれが福岡市内といったトレンドに比較的敏感な地域であれば、もしかしたら、もっと苦労は少なかったかもしれない。ただ、許斐さんは地元に近い筑豊エリアで、スペシャルティコーヒーのおいしさを発信し続けた。まさに信念の人だ。

■地域に根ざす理想的なコーヒー豆屋
そうやって少しずつ新たなファンを獲得してきた「このみ珈琲」。現在、店頭で販売している豆はブレンド7種、シングルオリジン14種とラインナップは多彩。コスタリカやグアテマラ、コロンビア、ブラジル、エチオピア、ケニアなど産地はさまざまで、焙煎度合いは中煎り〜深煎り。メインは中深煎りだ。許斐さん自身、酸味と苦味のバランスに秀でた味わいが好きなことが中深煎りが多い大きな理由だが、実際、常連のほとんどが、そのあたりの焙煎度合いを好んで買い求めるのだそう。

使用している焙煎機はフジローヤルの直火式。「直火式は中深煎り〜深煎りに向いていますが、できるだけ生豆が本来持っている特徴を残しつつ、すっきりとクリーンな味わいを引き出すような焙煎を心がけています」と許斐さん。その言葉通り、いただいた中深煎りのコスタリカは一口目は直火式らしいボディ感を感じられるが、フレーバーもしっかり主張してくる。さらに余韻に酸味由来の甘味を感じ、すっと消える後味も心地よい。

店は豆売りがメインだが、カフェ利用もOK。取材時も地元の常連と思われる人々でカフェは賑わい、地域に根ざした店という印象を強く受けた。この町の暮らしの一部になっているのだろう。客層も20代からご年配の方までと幅広いのがローカルのコーヒーショップらしくて良い。

全国的に問題になっている商店街のシャッター街化。「このみ珈琲」が店を構える殿町商店街も例外ではない。人通りが決して多くない商店街で日常的に地元民が集う場所、そして今では福岡市内、北九州市内など遠方からコーヒーを求めて来店するケースも多い。「このみ珈琲」が筑豊という地域に20数年前に撒いたスペシャルティコーヒーの種は、芽を出し、花が咲き、そして着実に実っている。

■許斐さんレコメンドのコーヒーショップは「MY珈琲」
「長崎県佐世保市にある『MY珈琲』の店主・山口さんは買い付けグループの仲間の1人。マスターの山口さんは、とにかくおしゃれでおおらかな方です。そんなマスターがいる『MY珈琲』はコーヒーのおいしさと、マスターの人柄が相まって地元で長く愛されています」(許斐さん)

【このみ珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式3キロ
●抽出/ハンドドリップ(KONO名門フィルター)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム756円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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