サイト内
ウェブ

コーヒーで旅する日本/関西編|世界を巡った2人の道が京都で一つに。「Sentido」が提案する産地と日常をつなぐコーヒー

  • 2022年9月27日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第32回は、京都市中京区の「Sentido(センティード)」。店主の垣江逸美さん、遵也さんの夫婦が切り盛りするカフェは、京都市街でいち早くスペシャルティコーヒー専門店としてオープン。中学時代からのコーヒー好きという逸美さんと、和食の料理人からバリスタに転身した遵也さん。共に海外での滞在経験を経てコーヒーの世界へ進み、数々の生産国を訪れた2人に共通する思いは、コーヒーの魅力を広め、生産者に貢献すること。開店から10年を経た昨年から自家焙煎をスタートし、ロースターとして心機一転。小さなカフェと産地をつなぐ、日々の何気ない一杯は、ますますファンを増やしている。

Profile|垣江逸美(かきえ・いつみ)
1985(昭和60)年、京都市生まれ。学生時代にコーヒーにまつわる社会的課題を知ったことで関心を深め、コーヒーマイスター資格取得などの勉強を重ね、ブラジルに1カ月間滞在し産地を訪問。大学卒業後、ワーキングホリデーでオーストラリア各地のカフェで1年半修業。帰国後は京都のカフェタイムでの勤務を経て、2012年に「Sentido」開店。2021年には焙煎所を新設し自家焙煎をスタート。

Profile|垣江遵也(かきえ・じゅんや)
1985(昭和60)年、大阪市生まれ。高校卒業後、和食の料理人を志し寿司店で修業、カナダの寿司レストランでの勤務も経験。海外のライフスタイルに共感し、オーストラリアのレストランでも勤務。帰国後にスターバックスで4年間勤めた後、京都のカフェタイムでバリスタとして活躍。結婚を経て、2016年から「Sentido」でバリスタを務め、2021年から焙煎も担当。

■大きな転機となったオーストラリアの滞在経験
京都のメインストリートの一つ、烏丸通から東へ入った小路。オフィスビルに挟まれた小さな店には、早朝の開店からお客が入れ代わり立ち代わり。店主の垣江逸美さん、遵也さん夫妻が立つオープンキッチンを中心に、交わされる挨拶や何気ない会話、思い思いに過ごす人の気配が醸し出す、親密な空気が心地よい。「うちは開店が早いので、“朝”のイメージが強いですね。おいしいコーヒーで1日をスタートしてもらいたいという思いもあって。実際、お客さんは朝に集中していて、今は減りましたが、国内外の観光客の方も多いですね」と逸美さん。モルタルで塗った床と壁に、無垢板の天井やカウンターを組み合わせた、一見クールな店構えながら、足を踏み入れると大らかな雰囲気は、どこか海外のカフェを思わせる。

コーヒー好きの両親の影響で、中学生にしてブラックコーヒーを飲み始め、高校生になると自家焙煎の店を巡るようになっていたという逸美さん。「中学時代、デパ地下でコーヒーのいい香りと種類の幅広さに魅了されて、豆を端から順番に買っていくのを楽しみにしていた。高校生で、誕生日のプレゼントにコーヒーミルを買ってもらうような子でした(笑)。その意味で、コーヒーとの付き合いは長いですね」と振り返る。

地元のコーヒー会社の焙煎担当と縁ができたことで、コーヒーに関するセミナーや資格試験などの情報を得た逸美さんは、コーヒーの歴史や生産流通の背景を学び始める。これが今に至る原点にある。「今まで、何気なく飲んでいたコーヒーの背後に、貧困や環境などの課題があるのを知ったことで、“自分も何かしないといけない”という義務感に駆られて。コーヒーにまつわる問題をどうにかしたい、と思ったことがきっかけで今があります」

学生時代は、コーヒーの産地への関心は高まり、初の海外渡航で地球の裏側のブラジルへ。「やっぱり“コーヒーと言えばブラジル!”と思って(笑)、初海外、初農園、想像と違ったおしゃれなカフェやビルが立ち並ぶ華やかなサンパウロの中心街、日系人社会の歴史、濃すぎる40日間でした。サンパウロ新聞社の援助を受けてブラジルで菊農家を経営する日系家族の元でホームステイをしながら過ごしたのですが、その生活の中で日本にはない労使・貧富の格差をはっきりと感じました」と振り返る。

ただ、それ以上に痛感したのは日本語しか話せなかった自らの語学力不足。そのため、大学卒業後はワーキングホリデーを利用してオーストラリアへ。現地のカフェに勤務しエスプレッソの抽出技術やコーヒー文化に触れながら英語を学んだ。「オーストラリアの人達にとってコーヒーは生活の一部。毎朝、こだわりをもってコーヒーを求めるお客さん達でカフェが賑わっていました。バリスタ同士の交流も活発で刺激的でした」

片や遵也さんは、かつては和食の料理人を目指し、高校卒業後すぐに寿司屋で修業。後に先輩がカナダに出店した寿司レストランを手伝うために海外へ。「現地ではスターバックスが増え始めた頃で、立ち寄る機会も多かったですね」とはいうものの、当時の本業は板前。コーヒーとは無縁の場所にいた。帰国後、カナダと日本のライフスタイルにギャップを感じて一度、仕事を離れ、奇しくも逸美さんと同じオーストラリアへと渡る。

「自分の時間を大切にする海外の人たちの生活スタイルがいいなと感じて、メルボルンのレストランで働いていました。あえて日本人が少ない街を選んだだけでしたが、メルボルンは現地でも“コーヒーの街”と呼ばれるほどの場所。ここで初めて、カフェの仕事が楽しそうだと感じました」と遵也さん。帰国後は心機一転、スターバックスで働き、コーヒーや店舗運営、サー ビスについて経験を積んだ。

■スペシャルティコーヒーを通して交わった2人の道
世界的にもユニークなカフェカルチャーが根付いたオーストラリア。偶然にも、共にこの地を訪れていた。2人の進む道が交わったのは京都。日本のスペシャルティコーヒー専門店のパイオニアとして知られるカフェタイムがきっかけだった。オーストラリアから帰国した逸美さんは、自宅からも近かったカフェタイムでアルバイトを始める。オーナーの糸井さんとは、それまでにセミナーなどで会うことも多く、コーヒーに関する技術や知識もさることながら、産地の訪問や関係づくりにも熱心な彼女へ今も尊敬の念を抱いている。

さらに産地への関心は強くなり、コスタリカに渡り4カ月滞在。「産地の人を助けるために自分には何が出来るかが知りたい」と思っていた。コスタリカでは輸出会社での業務に携わったり、日本で知り合った政府機関の関係者と共に生産者との交流にも参加できた。「ここで自分がいかに無力か分かりました。『この日本人が客でないならあまり興味はない』と思う人もいて、生産者達が商売としてシビアに考えていることが分かりました。生活がかかってるのだから当たり前ですよね。今の自分には何もできないかも、と思いました。助けるなんていう考えが間違っていたと感じましたね」

それでも、ここまで積んできた経験を役立てることはできるはず、という信念はあった。自分が見てきた良い生産者達は高品質コーヒーの生産には労働環境や自然環境への配慮が必要なことを知っているように感じた。「それなら、おいしいコーヒーを飲んでもらいスペシャルティコーヒーを楽しむ人を増やすことで産地を応援しようという方向に意識を向けました。当時、京都でスペシャルティコーヒーを飲める場所は、郊外が多くて街中にはなく、自分がその場を作ろうと考えたんです」

学生時代に端を発し、世界各地での体験を経て、積み重ねた逸美さんの思いを形にしたのが、2012年にオープンした「Sentido」。エスプレッソマシンを置いたカウンターを中心に、多彩なコーヒーと軽食を揃えるフランクな空間は、かつて身を置いたオーストラリアのカフェスタイルがベースにある。

一方の遵也さんは、スターバックスでの4年間を経て、さらにレベルの高い場所でコーヒーに携わりたいと考えていた時に、カフェタイムに出合った。ちょうど、逸美さんと入れ替わるようにしてカフェタイムに入った遵也さんは、バリスタとしてコーヒーの抽出、提供に携わり、コーヒー産地の訪問も経験。さらに毎年、ジャパン バリスタ チャンピオンシップの競技会に参加し、2014年大会では準決勝に進出するまでになる。この時、競技の練習のため場所を借りることになったのが、カフェタイムの先輩でもあった逸美さんがいる「Sentido」。これが縁で、世界各地を巡ってきた2人の道のりが、一つに合流した。

■好みは誰もが違って良い。“ウシウマ”が示すコーヒーの多様性
「Sentido」開店4年後に結婚を経て、遵也さんはカフェタイムを辞し、 一時コーヒーを離れ料理人に戻ろうと思い立った。しかし、店を手伝いコーヒーを提供する中で、「すでにコーヒーがかけがえのない存在になっていたことに気がついた」と遵也さん。一転、自分のコーヒーを更に追求することを決意をする。

開店から長らく、カフェタイムから豆を仕入れていたが、10年目になる2021年に焙煎所を立ち上げ、自家焙煎をスタート。遵也さんは焙煎という新たな仕事に携わることになる。 現在、店頭に並ぶ豆は時季替わりで5~6種。逸美さんが選別をした生豆を、遵也さんが焙煎して2人でカッピングするというのが、一連の流れになっている。「カッピングについては前職で社長をはじめ、ロースターの実力者と共にカッピングする機会が多く、生産国でのカッピングにも参加する中で、感覚的な土台が身についたと思います。それでも、1人でやっていると煮詰まったりし、視野も狭まったりしますが、2人でやると味の評価に客観性が出てくるのがいいところ。原料選びに関しては、個性がしっかりとある豆が好みで、それぞれの酸や甘さのキャラクターが素直に出せるように焙煎しています」

今までに、2人が訪れた産地は合わせて6カ国以上。最近は産地も品種も多種多様になって、豆の個性もより多彩さを増してるが、実際に訪ねた産地への思い入れはひとしおだ。なかでも2人が一緒に訪れたルワンダのKivu Belt地区の豆は、農園は替えながらも毎年仕入れる定番的な銘柄の一つだ。

また、豆の品揃えだけでなく、コーヒーを使ったメニュー提案の幅広さも魅力の一つ。ペーパードリップ、フレンチプレス、エスプレッソと言った抽出法に加えて、コーヒースムージーやゼリー入りラテなどドリンク、スイーツまで。なかでも、「エスプレッソを生かしたスイーツを」と考案したコーヒーゼリーパフェは、夏の限定メニューとして始まり、いまや通年提供となった看板スイーツ。マスカルポーネアイス、コーヒーケーキのクラッシュにエスプレッソをかけた上半分は、いわばティラミスとアフォガートの合わせ技。芳しい香りとまろやかな甘味の下は一転、エスプレッソとラテのゼリーのビターな香味が涼やか。上から下まで、スペシャルティコーヒーならではの鮮やかな風味がギュッと詰まった一品は、食べ進むほどコーヒーの多彩な風味に満たされる。また、フードの中には、逸美さんがオーストラリアにいた頃に影響を受けたメニューも。「海外で食べた物を自分が食べたくて」とオリジナルで作ったというスパイスが効いたバナナブレッドやグラノーラなどの一品とのペアリングをも楽しい。

メニューの中心にコーヒーがあることは確かだが、専門店然とした堅苦しさはほとんどない。そうした店のスタンスを体現するのが、店のマスコットキャラクター・ウシウマだ。「その名の通りウシとウマの掛け合わせで空想上の動物です。この動物に出合ったのは私がコスタリカでコーヒー屋台を手伝っていた時です。買いにやってきた10歳のパブロくんが絵をプレゼントしてくれたんですが、描かれていたたくさんの動物の中の1匹の動物が何かわからなくて。周りの人に見せると“ウシじゃない?”とか、“ウマに見える”とかいろいろで。それがコーヒーみたいだと私には思えたんです。人によって、同じコーヒーに対して味の感じ方も好き嫌いも違う。みんな好みが違って良い、というスタンスで店をやりたいと考えた時に浮かんだのが、このウシウマの絵でした」

■10年の節目を超えて、ロースターとしての新たなスタート
店として節目の年を超えたが、ロースターとしてはまだ1年目。実質、2度目の創業といっていいかもしれない。焙煎を担う遵也さんも、日々、試行錯誤を重ねている。「最初は誰でもできるだろうと思いましたが、自分なりの焙煎プロファイルを確立するのは容易ではなく、回数を重ねる必要があると感じています。ただ、コツコツ積み上げていく作業は苦になりません。焙煎を始めてから、ロースター同士で交流するようになり、コーヒーの面白さが広がっていますね」

その中で、変わらないことがあるとしたら、コーヒー産地への思いだろう。「コーヒーも一期一会で、おいしい豆に出合う機会が少ないから、出合いを大切にしています。そのコーヒーを美味しいままに飲んでもらうことが今の喜びですが、将来は生産者とつながれるチャンスを作り、生産者を含めてコーヒーを紹介したいですね」と逸美さん。 遵也さんもそのスタンスは同じだ。「焙煎を始めた今、産地を訪ねたらまた違う視点での発見があるかもしれないし、その時にはもっと沢山の豆を買えるようになっていたいですね」

スペイン語の店名「Sentido」は、英語で言えばSense。スペイン語では「感覚」や「意味」「方角」を表す時に使われる。「カフェに1人で行って考えごとをしたり置いてある雑誌を見て、新しいアイデアや自分の知らない世界に出合うのが好きでした。ここを訪れるお客さんにも、雑誌や本を読んだり、コーヒーを飲んだりしてるうちに、発想や味わいの新しい『感覚』に出合ってほしいなと思っています。そして自身には、スペシャルティコーヒーの『意義』や『方向性』について考えることを忘れないように、とこの名前を付けました」

数々の産地を訪れて得た思いは誰より強いと想像できるが、店に立つ2人は肩ひじ張らず、あくまで軽やか。2人にとってスペシャルなコーヒーは、街の憩いのお供として、日常の一コマに溶け込んでいる。「“まずやってみよう”と目の前にあることを続けて、次に進むべき道を見つけるのが、私たちの歩み方。店も少しずつ良くなり、ようやくコーヒーを中心にして進み始めています。10年経って、これからまた気持ちを新たにしていきたいですね」。何気ない日々の一杯がもたらす産地への貢献。小さな店の向こうは広い世界へとつながっている。

■垣江さんレコメンドのコーヒーショップは「KOTO COFFEE」
次回、紹介するのは、奈良県五條市の「KOTO COFFEE」。
「店主の阪田さんとは、カフェタイム時代に知り合って、ルワンダの農園訪問ツアーにも一緒に参加して以来、今も交流が続いています。今年は焙煎の競技会JCRCで優勝して、世界大会にも出場されました。常に謙虚に学ぶ気持ちを忘れず、焙煎を追求する姿勢は、ロースターとして目指すべき存在です」(垣江さん)

【Sentidoのコーヒーデータ】
●焙煎機/ローリング スマートロースター 7キロ(完全熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、フレンチプレス、エスプレッソマシン(シネッソ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/ あり(450円~)
●豆の販売/シングルオリジン5~6種、150グラム1150円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) 2022 KADOKAWA. All Rights Reserved.