
子供と妻に先立たれ、一人余生を過ごす男性。苦しみや悲しみに包まれながら、生きる意味を自問自答する短編漫画に「うるっときました」と感動の声が集まっている。
作者は、自身のTwitterや創作プロジェクト「チーム空洞電池」で漫画を発表している電気こうたろう(@gurigurisun)さん。叙情あふれる独特の作風がたびたびSNS上で反響を呼んでおり、7月に投稿された「生きて伝える」にはTwitter上で2000件を超えるいいねが寄せられている。
■「どうしておれは生きてるんだろう」残された者の答えに心震える
断崖絶壁の展望台からその身を海に投げ出した男。数年が過ぎた後も、男の両親は息子に先立たれた悲しみの中にいた。
「何年経ってもかなしさはあの日のままね」と、想いを分かち合っていた夫婦だったが、さらに数年が過ぎ、妻は認知症で息子の死を忘れ、子供が小さかった頃の時間に帰っていた。夫はそんな妻を一人で介護し、そして看取ることになった。
息子と妻の遺影の前で「…ひとりになっちまった」とつぶやく夫。その彼も年老いて、今では歩くのに杖は欠かせないほどになっていた。
息子が最期を迎えた展望台に、息も絶え絶えになりながら一人やってきた夫。この世を去った息子と妻に向かって「どうしておれは生きてるんだろう」と問いかける。「こんなにくるしくてみじめなのに」「何の疑問もなく時が過ぎるのを待ってる」と、残された時を淡々と過ごす理由の答えが分からないまま、夫は展望台を去る。
その帰り道、夫はふと、幼い息子とのキャッチボールの思い出を振り返る。そして、妻とともに生まれたばかりの息子に名前を呼びかけたあの日のことも。家族が生きてきた時間を噛み締め、夫はなぜ生きるのかの答えに辿り着き一言、「忘れないためだよな」とつぶやくのだった。
■「他人事ではなく」多くの人の心に刺さる短編作品
どうして生きるのか、いつもは忘れていて、けれどきっと誰もが抱えているだろう問いと、その一つの答えを描いた短編作品。読者からは「感動しました」「他人事ではなく身につまされてしまって」「なぜ生きるのか?の葛藤がものすごく伝わって来ました」と、心を揺さぶられたという声が寄せられていた。
作者の電気こうたろうさんは、台詞と間の取り方には特に力を入れたそうで、「以前の自分だったらこの台詞やこのコマは無駄だからいらないな、と判断して削るところをあえて残すことで余韻や人間らしさが滲み出るようにしました」と話す。
そうした情感が込められているからこそ、「忘れないためだよな」という最後の台詞の余韻が際立つ本作。
「昨年の8月に10年間一緒に暮らした猫が死んでしまって、ぼくと恋人が死んだら誰もこの子のことを話さなくなって、あったはずの命がなかったようになってしまうのがかなしくもあり不思議に感じました。死んでしまったひとや動物のことを、どれだけ生きて伝えてもきっと先細りして忘れ去られてしまうけれど、ぼくはその弱さに力を感じるし、うつくしいと思ったのでこの漫画を描きました」と、電気こうたろうさんは本作が生まれたきっかけを教えてくれた。
取材協力:電気こうたろう(@gurigurisun)