1961年に精米機器メーカーとして創業して以来、画期的な精米機器や米製品を次々と世に送り出してきた東洋ライス。「決してSDGsを意識してきたわけではなく、常に自然環境への影響や人々の健康を考えて作り出してきた製品が、結果的にSDGsへとつながってきた」というその道のりと、これからの展開について話を聞いた。
■「汚れた海を再び青い海へ戻したい」その思いがBG無洗米の開発へ
工場や家庭でも一切の研ぎ汁を出さず、川や海を汚染しない世界唯一のBG無洗米(※BG無洗米加工により肌ヌカを取りきっているので、洗わなくても大丈夫)を開発した東洋ライス。そのきっかけは、社長の雜賀慶二氏が夫人と淡路島へ旅行した1976年にさかのぼる。
和歌山と淡路島の間に広がる紀淡海峡を船で渡る際、赤潮で汚染された海を目の当たりにして衝撃を受けた雜賀氏は「かつての青い海を取り戻したい」とさっそく赤潮の原因を調査。その結果、研ぎ汁に含まれる窒素やリンがプランクトンの餌になることが判明した。「窒素やリンは下水処理では取りきれず、そのまま海に流されてしまいます。野菜など地上の作物にとってはプラスの栄養になりますが、海にとってはマイナスの栄養になってしまうのです」と企画広報部担当者はいう。
雜賀氏は「自分がなんとかしなくては」と無洗米開発に取り組むことに。米の研ぎ汁が白くなる原因は、米の表面についた肌ヌカだ。雜賀氏は試行錯誤の末、米の表面にある肌ヌカを機械内部の金属壁に付着させることで取り除き、さらにその肌ヌカの粘着力で他の米の肌ヌカを取り除く機械を構想から約15年かけて開発。ヌカ(Bran)でヌカを削る(Grind)BG精米製法によって「BG無洗米」が誕生したのだ。
■取り除いた肌ヌカを有機質肥料にすることで循環型農業を確立
BG無洗米の加工時に取り除かれた肌ヌカは、リンや窒素といった栄養が豊富なため農作物の肥料や畜産の飼料にもなるのではないか―。これに着目した東洋ライスは、肌ヌカから作る有機質肥料「米の精」を開発。これにより、循環型農業も確立した。「農家で大切に栽培された米を、当社でBG無洗米にすることで米の研ぎ汁による環境汚染を防ぎ、さらに米から取れた肌ヌカは田畑の肥料になって再びおいしい米ができる。こうした環境に優しい循環が自然に生まれました」と担当者は話す。
■新たな食文化創造へのチャレンジ
環境に優しく栄養価も高いBG無洗米だが、「米は研ぐもの」という概念を払拭するのは、並大抵の苦労ではなかったと担当者は振り返る。「“無洗米は手抜き”“研ぎ汁は海や川の生き物の栄養になるはずだから流しても問題ない”と考える人も多く、発売当初はなかなか認めてもらえませんでした」。マイナスからのスタートは、新たな食文化の創造への挑戦でもあった。「生協さんが商品に対して理解を示してくれたおかげで、ずいぶん普及されました」
またSDGsの意識が高まりつつあったのも追い風に。「現在、全国50工場で当社の無洗米機が使われ、国内の無洗米の約7割が当社の精米機械によって作られているといわれています。SDGsへの貢献は、BG無洗米を使ってくださる企業や消費者、飲食店といった皆様方があってこそだと思います」
■栄養価の高い無洗米「金芽米」が誕生
米は玄米より白米のほうが食べやすく、食味がいい。しかし、精米すればするほど栄養価が減っていく。このことに着目した雜賀氏は、なんとか栄養価が高いままおいしいBG無洗米ができないかと研究、健康に有益な亜糊粉層と呼ばれる部分を米表面に残す精米技術を開発した。さらに、研ぎ洗いにより、せっかく残した亜糊粉層が流れないようにBG無洗米加工を施したのが、おいしく栄養豊富な「金芽米」だ。
金芽米は亜糊粉層がたくさん水を吸うため、通常より米の量を減らしても普通の白米と同じ量のご飯が炊きあがる。また冷めてもおいしい。さらに米粒の量自体が減ることで糖質もカロリーも白米より低いとあって、現在は大手弁当チェーンや企業の社員食堂などで採用されている。
■「金芽米」「金芽ロウカット玄米」で医療費削減に貢献
さらに、金芽米よりもっと米の栄養を引き出したものを、と2015年には「金芽ロウカット玄米」を発表した。玄米は白米に比べてボソボソと硬い食感で、ヌカの匂いが気になるという人も多い。東洋ライスの研究により、この食感が玄米の表面についた防水性の高い“ロウ層”にあると判明。卓越した加工技術でロウ層だけを均等に削り取った玄米の開発に成功した。
「金芽ロウカット玄米」は浸水時間も1時間でよく、消化性に優れ、玄米と同じ栄養価で白米のようにおいしいという特徴がある。このことが評価され、2018年より4年連続で玄米カテゴリー第1位を獲得し続けている。
さらに、協力会社3社で金芽米や金芽ロウカット玄米を実際に食べ続ける健康調査を3年間かけて実施。その結果、各社とも年間医療費が約4割削減した。おいしく体にいい米に対する飽くなき研究は、人々の健康への貢献はもとより、公的医療費の削減という社会貢献にもつながっている。
■子供が健康でいることが持続可能な社会の礎
2021年に60周年を迎えた東洋ライスは、さらに米の利用価値を高めるべく挑戦を続けている。そのひとつが、世界初となる玄米由来の食品素材「玄米エッセンス」だ。亜糊粉層など、玄米の栄養や旨味を独自の技術で抽出。パンやうどんなど、小麦製品の中に入れることで、小麦の栄養価や食味もアップさせることができる。「人々の健康に役立つばかりではなく、米の利用価値を高めることもできます」と担当者。「それによって自然の防波堤といわれる日本の水田を守り、後継者問題の解決にもつなげることができたら嬉しいです」。
将来的には、大人だけではなく子供や赤ちゃん、妊婦さんも普通に金芽米や金芽ロウカット玄米を普段の食事で食べてもらうのが目標だと担当者は話す。すでに愛知県など一部の県の小・中学校では、給食に金芽米を取り入れているところもある。「子供たちがみんな健康でいることが、持続可能な社会につながると考えています」
環境や社会、人々の健康を常に念頭に置き、日本の国民食である米の可能性を追求し続ける東洋ライス。これまで行ってきたこと、さらに未来の目標がすべてSDGsへとつながっていく。