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説明が無駄に細かい「理系料理」に爆笑!「マグロ丼はマグロをxy座標の中心から放射状に2π/xの間隔で並べて」

  • 2022年1月24日
  • Walkerplus

料理動画なのに、一般的な調理のアドバイスは一切なし。代わりに「チキンカレーは煮込むときの音が30デシベルを超えないように」など、精密すぎる指示が次々と…。YouTube登録者数22万人を超えるラムダ技術部さんが展開する「理系料理シリーズ」が、シュールで笑えると話題になっている。総再生回数は690万回を突破。そのおもしろさの魅力に迫った。

■「理系あるある」を見事に笑いに昇華
小学生のころは「上海日本人学校でオリジナルの宗教を開いたりするような」やや個性的な子供だったラムダ技術部さん。大学では情報工学を専攻し、現在はソフトウェアエンジニアとしてサービス開発に従事。そのかたわら、理系ネタをテーマにしたユニークなガジェット製作など技術系のネタをYouTubeで配信している。その人気シリーズの一つが理系料理。きっちりしすぎて面倒くさいという「理系あるある」を料理で表現、見事に笑いに昇華している。

例えば、最も反響があったという「超精密なフライドチキンを作ろう」の回で見てみよう。鶏肉を漬ける料理酒や醤油などの酸性度を測定。卵は磁気撹拌機を使い、きっちり3000rpm(1分間の回転数)で撹拌する。調味料の分量はmol(モル)表記で「塩化ナトリウムを分子数で6020亥個」と厳密な単位で指示し、鶏肉は重心を算出して均等カットを試みる。薄力粉やスパイスはx=sin t、y=sin10tのパラメータで表される式に従って、箸と容器を単振動させる(要するにかきまぜる)。さらに、278.4アンペア毎時のポータブル電源で熱源を確保したフライヤーで、鶏肉の比熱や密度を考慮しつつ、焼き色が日本塗料工業会の色見本指定#92542C(茶色の一種)になるまで揚げたら完成だ。だいぶ省略したが、それでも無駄にややこしい!

ほかの料理編でも、「大根の面取りはπ/4、π/8、3π/8と角度を変えて包丁を入れれば円に近似できます」「漬けマグロ丼の盛り付けは、マグロを(xy座標の)中心から放射状に2π/xの間隔で並べ、卵黄は原点に配置するとよいでしょう」「断面積を500π平方ミリにする場合、ウインナーを切るときの角度は43.8度で」などと、細かすぎる指示が次々と出てくる。おでんの具材をビーカーで煮込んだり、分量をメスシリンダーや電子天秤など実験器具で計測する演出も効果的だ。

「特に料理の動画は試作が必要なので、制作時間が長くなりますね。平均すると1つの作品にレシピ作成で6時間、試作に5時間、さらに5時間の撮影を行なったうえで、編集に4時間かけます」とラムダ技術部さん。さらに、バカバカしいネタを際立たせる無機質でやや早口なナレーションとテンポの良さも秀逸。「尺の割り振りにはこだわります。精密さを追求するなら究極としてはノーカットの方がいいんですが、エンタメ性と両立させるためにはテンポよくしないと。その配分には毎回悩みますね」

難しいのは、さまざまなジャンルの専門性を入れること。「理系といっても電気、機械、化学、ITなど幅広いので、バランスを意識します。実際は自分の専門知識の偏りなどで難しいこともありますが、少しでも広い範囲の理系分野を紹介できれば」

■レシピのあいまいな表現が苦手で、最初はまじめに作った
そこまでするかという精密指示の連続だが、意外なことに最初はまじめに厳密な料理レシピを作るつもりだったという。「大学生になり自炊を始めましたが、レシピの表現があいまいで、どうしていいかわからず困っていました。実験の指導書のような厳密なレシピがあれば誰でも失敗しないのに、とおぼろげに思っていて。時は経ち、YouTubeが軌道に乗ってきたので、本気で役に立つ厳密なレシピを提供してみようと」

アバウトな性格の人には想像がつかないかもしれないが、「塩・胡椒 適量」「パセリ お好みで」といったあいまい表現を嫌う人のためにロジカルな説明にこだわった料理本も出ているほどで、戸惑うのは特に珍しいことではない。

「初回の動画は本気で『活用できました』というコメントを期待しました。でも、実際は皆無。むしろ学術的な間違いの指摘と、理系の面倒くささが強調されていておもしろいといった声がほとんどでした」。そこで、理系料理にはエンタメとしての価値があると分かり、少しでも理系分野に親近感を持ってもらういい機会になるとシリーズ化することになった。

■巨大なたこ焼きが作れない理由を科学的に立証
当初の思惑に反しエンタメ路線にかじを切ってブレイクした理系料理だが、一方で貴重なコラボも体験できた。京都大学の橋本幸士教授(理論物理学)と作った「物理学者と巨大たこ焼きを考察してみた」という動画だ。橋本教授が著書の中で「巨大なたこ焼きは自重でつぶれてしまう」と予測したことについて、本の販促を兼ねて検証の依頼が来たことがきっかけという。

たこ焼きは球形のため、半径が2倍になるだけで体積は8倍になる。どう見ても効率的なのに、なぜ大きいたこ焼きを作らないのだろうか。動画では厳密さを追求するため学名を用い、さっそくGallus gallus domesticusの卵やOctopus sinensisの足を切り刻んだもの、Allium fistulosumの輪切りにTenkasuを加えて試作していくことになった(注:鶏卵やタコの足を切り刻んだもの、ネギの輪切りに天かすを加えて、の意。一部学名ではないものあり)。

すると、半径が大きくなるにつれ焼き時間を長くしないと固まらないため、水分が抜けすぎてボソボソになっていくのが分かった。逆にトロトロ感のキープを優先すると、柔らかすぎて自重を支えきれず、長時間安定して存在できないことが明確に観察された。直径が5㎝になると、ついに自重で崩壊してしまう。当初の仮説は支持され、橋本教授は「(物理学の体系が維持されたので)ホッとした」と動画の中で語っている。

さらに、「巨大なたこ焼きは扁平型なら成立する」という教授の予測に従って扁平なたこ焼きも製作。こちらはきれいに作れたものの「お好み焼きやね」と教授自らダメ出し。科学的に安定した巨大たこ焼きは、ビジュアル面で「らしさ」を失うという弱点を露呈した。

この動画は、未査読ではあるが「たこ焼きの半径上限に関して」というタイトルの論文にまとめられている。「最前線で研究をされている先生と連名で論文を書くという、大変貴重な経験ができました。思いもよらぬ名誉だったので、自分の中では突出した思い入れがあります」。

■まだまだ続く!理系路線の新たな展開は
製作者の視点から、理系料理をより楽しむポイントを教えてらった。「本来はまじめに役立つ動画がコンセプトだったので、実はふざけている部分を取り除くと、料理が不慣れな人でも作れるシンプルなレシピになっているんです」。動画のいくつかは、料理の工程を整理したフローチャートが表示されるなど、確かに分かりやすい。料理が苦手な人は試してみよう。

気になる今後の展開については、「理系に興味を持ってもらうため、料理以外の身近な題材もとにかく精密に取り組んでみたい。考えているのは、例えば『理系の掃除』や『理系の絵描きうた』などです」。化学式や方程式を駆使した、面倒くさい動画が早くも目に浮かぶ。ラムダ技術部さんの作品、これからも本当に楽しみだ。

取材・文=折笠隆

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