私たちが毎日何気なく飲んでいる「水」。体の約60〜65%が水分でできている私たちにとって、水はなくてはならないものだ。水道からきれいな水が出てきて、簡単に飲むことができる時代。しかしここ数年、ミネラルウォーターが売り上げを伸ばしているという。
筆者もミネラルウォーターを買い始めたのはここ2、3年の話。10年ほど前は「別に水道水でええやん」と蛇口を捻ってがぶ飲みしていたが、いつの間にか避けるようになり、ミネラルウォーターや炭酸水をスーパーやネット通販で買っては仕事の合間に飲むように。気がつけば、資源ゴミの日はペットボトルだけでポリ袋がいっぱいになっていた。
そこでふと思ったのが、「いつの間に私たちは、当たり前のようにミネラルウォーターを飲むようになったのだろう?」ということ。
さまざまな会社がミネラルウォーターを販売するなか、最も販売数が多いのが「サントリー天然水」ブランド。飲料総研(東京・新宿)の調べによると、2018年から3年連続で「清涼飲料」の販売数1位を誇っているという。
「なぜ人々はミネラルウォーターを飲むようになったの?」という疑問を素直にぶつけるべく、サントリー食品インターナショナル株式会社ブランド開発事業部の平岡雅文さんに、ミネラルウォーターの“今”を聞いた。
■どうして「水」が買われるようになったの?
「水を“買う”なんて」と思われていたのは、もはや過去の話。サントリー食品インターナショナル株式会社が2019年に行った「サントリーウォーターレポート」の調査結果によると、回答者500人のうち「ミネラルウォーターは生活必需品だと思うか?」という質問におよそ58%の人が当てはまる・やや当てはまると答え、「ミネラルウォーターを買うのは普通のことだ 」という質問にはおよそ73%の人が当てはまる・やや当てはまると答えたそうだ。ミネラルウォーターが生活にすっかり浸透していることがよくわかる。
「ミネラルウォーターが3年連続で売上1位って、本当に不思議ですよね。30年前は“お金を出して水を買う”という感覚は全くなかったのではないでしょうか。1991年にサントリー天然水の発売が開始された当初は、『グルメな水・特別な水』という印象でしたが、次第に『安心・安全な水』というイメージに変化していきました。そして日本の気候が亜熱帯化をたどるなか、『水分補給のためのミネラルウォーター』という印象が人々に浸透しました。ここ最近では健康志向もあり、カロリー0の水が好まれているということもあります」
また、ミネラルウォーターに「安心・安全」というイメージがついた決定的な要因が、災害への備えだ。災害大国の日本では、いつ地震や洪水などが起こり、飲料水が確保できなくなるかわからない。2011年の東日本大震災の発生が大きなきっかけとなり、いざというときのためにミネラルウォーターを備蓄するという考え方が一気に広まった。
「ここ10年で多発する自然災害への備えとして、水を購入される方が増えました。災害が起こったら水道水が出なくなるかもしれないし、たとえ水が出たとしても衛生的に問題のある水かもしれません。そのようなときに、産地がわかるミネラルウォーターは衛生的にも精神的にも安心して飲むことができる。災害時、真っ先に必要なのが水ということで備蓄用に購入される方が増えました」
近年の健康志向と災害への備え。双方の需要が相まったのがミネラルウォーターが買われるようになった1番の理由ではないか、と平岡さん。「備えあれば憂いなし」と購入された2リットルボトルの水が日常的に飲まれ、そして自販機やコンビニでも500ミリリットルのボトルを気軽に買うようになり、私たちの生活の一部になった。
■テーマは「人と水源を繋げる」
さまざまな会社がミネラルウォーターを販売しているが、そのなかでも圧倒的に販売数が多く、売り上げ日本一を3年連続で達成しているのが「サントリー天然水」ブランドだ。
このブランドが「雪解け水のような澄み切ったおいしさ」を人々に提供するために、販売当時より徹底してこだわってるのが“水源”。サントリーは「水と生きる」をユーザーとの約束として掲げ、南アルプス、阿蘇、奥大山、北アルプスという4つの水源の水を私たちに提供している。一概に「サントリー天然水」と言っても実は4種類あり、それぞれ硬度がちがって微かに飲み心地が変わることもあまり知られていない。
「水は味がないからこそ、舌で味わうというよりも、喉を通って体全体に染み入っていくようなフィジカルな感覚で味わうものだと思います。『水源の自然そのものが体に澄みわたる』、そんな感覚を大事にしています。水源がもたらす空気から森林、そして水。水源に根ざした変わらない価値を提供し続けるというのが、ブランドのテーマでありミッションだと考えています」
水源を選ぶ基準は、消費者へ安心・安全を提供できる水質であることのほかに、採水地が良い水を守り抜いていける環境であるかどうか。採水する地域の森林保全にも力を注ぐ天然水ブランドは、採水と環境保全を両立できることが水源を選ぶもう1つの大きな条件としている。
また、水源という強みだけでなく、炭酸水やフレーバーウォーターなどを販売することで、さまざまな世代や年齢層に向けて商品を届けている。
「ミネラルウォーターってどうしても真面目で固いイメージがありますよね。そこで『THE STRONG 天然水スパークリング』などの炭酸水や、『ヨーグリーナ&サントリー天然水 贅沢仕上げ』といったフレーバーウォーターを展開しています。備蓄として家で飲む2リットルのサントリー天然水、ジュース感覚でカジュアルに飲む炭酸水やフレーバーウォーター、どんな場面でもブランドを楽しんでいただけるような商品展開を行っています」
■おうち時間が増えた今だから、人と自然との繋がりを
2020年より続くコロナ禍で、外出自粛やリモートワークの時間が増加。人々は家で過ごす時間が多くなった。家から出ずに商品を購入できるネット通販でミネラルウォーターを買う人も増え、いざというときのための備蓄だけでなく、水道水やお酒、ジュースに代わって日常的に飲む水としての需要が一気に高まった。
「日本人の生活スタイルは近年健康志向になりつつありますが、コロナ禍によってさらにそれが進んだと思います。家から出ないのでお酒を飲む機会も減り、運動量が減るのでジュースなどを避ける傾向が高まっています。そこで、安全でカロリー0のミネラルウォーターが選ばれるようになっているのではないでしょうか」
家から人々が出なくなったことで箱ごとまとめ買いする人も増え、ミネラルウォーターはすでに私たちの生活にはなくてはならない「インフラ」になった。しかし人々がサントリー天然水に求めるのは飲料としての水だけでなく、水を通した自然との繋がりでもあるのでは?と、平岡さんは話す。
「コロナ禍で、人々の心も体も閉じこもりがちになっているように思います。好き勝手飛び出して行くことができないのは辛いですよね。最近のアウトドアブームにも見られるような、“自然との繋がり”を求めている方が増えているように感じます。だからこそサントリー天然水を飲んで、こだわり抜いた水源だからこそ感じられる解放感や、自然を体で感じる心地良さを味わっていただくことができればと願っています」
■生誕30周年!これからも「水と生きる」を守り続ける
サントリーグループは2003年より、水源周辺の環境を守る活動として「天然水の森」の活動を行なっている。
これは「工場で汲み上げる2倍の量の地下水を森で育む」ことを目標に、15都府県21カ所で水を育む環境を守り、100年以上先の未来まで水資源を大切にするというもの。自然と人が共生できるサイクルを維持しながら、ブランドを守り続けている。
「日本は、水資源が豊富な国です。そんな国でミネラルウォーターが売上1位って、とってもすごくないですか?私たちはこれを大変誇りに思っています。世界中で水不足がさらに深刻化すると言われているなか、水を採水して製造・販売しながらも水の持続可能性を追求し、世界に示すことができるのは本当に素晴らしいことなのではないかと思うんです。これからも人と水源を繋げ、安心・安全を皆さまに提供し続けることが私たちの責務だと考えています」
販売当初は「贅沢品」と言われたブランドが今最も飲まれる飲料水になったのは、「水源」にひたすらこだわり、そして水源の自然環境を守り、さまざまな思いを込めた水を消費者に届け続けているからだろう。
生誕30周年を迎え、人々にとって”なくてはならない存在”を目指すサントリー天然水は、これから先も私たちの心と体を潤し続けてくれるはずだ。
取材・文=福井求