9月15日、バンダイナムコグループは「第2回ガンダムカンファレンス」をオンラインにて開催。ガンダムシリーズの新たなアニメーション展開として、2022年公開予定の3作品や実物大ガンダム新立像の計画を発表した。また、ガンダムを通じて社会問題を考えるサステナブルプロジェクト「GUNDAM UNIVERSAL CENTURY DEVELOPMENT ACTION(GUDA)」より、「ガンプラリサイクルプロジェクト」や「ガンダムオープンイノベーション」に続く第3弾として、教育分野における新たなプロジェクト「ガンダムエデュケーショナルプログラム」が発表され、話題となった。
そこで今回、ウォーカープラス編集部では、ガンダムの世界と同様に現実世界が抱えている「人口問題」や「地球環境問題」といった“社会課題”に対応するため、新しい発想や技術を募集する「ガンダムオープンイノベーション」に着目。ガンダムファンと外部パートナーとも手を組み、未来の子供たちのために行っていくアクションの中身やプロジェクトの進捗について、チーフガンダムオフィサーをつとめる藤原孝史氏と、プロジェクトメンバーであるバンダイナムコ研究所・堤康一郎氏、荒明浩一氏に話を聞いた。
■ガンダム好きが“夢”を実現するプロジェクト
――社会的課題に対応する新しい発想や技術を募集中の「ガンダムオープンイノベーション」では、新たに第三次締切を追加し、10月15日(金)を最終の公募締切とすることが公表されました。ガンダムを活用して社会課題をどうやって解決するのか、どのような企画の応募があったのか発表が待ち遠しいです。とはいえ、「ガンダムオープンイノベーション」をこの記事で初めて知った、という人もいるかと思います。プロジェクトの概要を教えてください。
【藤原孝史】「ガンダムオープンイノベーション」は、ガンダムを活用したサステナブルプロジェクト「GUDA」の一環として実施されている企画です。環境問題や人口問題といった社会課題に対して、ガンダムの世界観である“宇宙世紀”をテーマに、未来に向けたアイデアや技術をガンダムと掛け合わせることで、夢や希望の現実化を目指すプロジェクトです。今日は、本プロジェクトを推進するバンダイナムコ研究所の堤康一郎と荒明浩一も参加させていただきます。
――「ガンダムオープンイノベーション」は、ガンダムというIP(キャラクターなどの知的財産)を活用して社会課題の解決に取り組むプロジェクトだと理解しました。より分かりやすく言えば、ガンダム好きが“夢”を実現するプロジェクトでしょうか。このプロジェクトを推進する堤氏と荒明氏にとって、ガンダムの原体験は何でしょうか。
【堤康一郎】私にとってのガンダム原体験は、小学生時代に熱中していたガンプラです。当時、小学校の図工の授業で「人を描く」という課題があったのですが、そのとき「モビルスーツ(MS)を作っている人」をテーマにしたほどガンダムマニアでした(苦笑)。それも絵の大部分はMSで、テーマである“人”は後でちょこんと描き足すぐらい、ガンダム愛に満ち溢れた少年時代でした。
それから、大人になってからはMSが発進するときのG(重力加速度)のかかり方に憧れてバイクに乗ったりしていました。運転時は、ノーマルスーツを着てMSを操縦するパイロットの気分でしたね。そんなガンダムの原体験があったからこそ、エンジニアやモノ創りに携わるようになりました。
――ガンダムの原体験が今の仕事に繋がっているのは羨ましく感じます。横浜の山下ふ頭に誕生した実物大ガンダムの製作にあたっても、プロジェクトメンバーの多くが“ガンダム愛”を元に集まったと聞いています。
【堤康一郎】“動くガンダム”のプロジェクトに参画した方々の気持ちは凄くわかります。私は理工系の大学に通っていましたが、当時の仲間たちの多くは幼少時代の「好き!」を原動力に各分野に進んでいき、第一線で活躍しています。なので、今回の「ガンダムオープンイノベーション」に関しても、皆さんの“原体験”を元に、ぶっ飛んだアイデアをお待ちしているところです。
■ガンダム好きが集まり、夢が現実になる
【荒明浩一】私にとってのガンダム原体験もガンプラです。当時はガンプラの入手が困難で、街のおもちゃ屋さんに行くと、ガンプラと戦車が抱き合わせで売られているような時代でした。なので、欲しくもない戦艦とか戦車を泣く泣く購入した記憶があります(苦笑)。
―― “昭和あるある”ですね。
【荒明浩一】そんなガンプラ争奪戦を乗り越えて作っていたわけですが、個人的にジオラマが流行っていて、ガンプラを土に埋めたり、爆竹や花火をつかって被弾したMSを表現してみたり。壊れかけのガンプラを眺めながら、「MS(のフォルム)ってなんであんなにカッコイイんだろう」って子供ながらに惚れ惚れしていました。現代でも、ガンプラを作ってYouTubeに投稿されている方が年齢や性別、国籍を問わずたくさんいますが、ガンプラのフォルムの美しさ、デザインのカッコよさって万国共通なんだなって感じています。
――「ガンダムオープンイノベーション」の公募期間が10月15日まで延長されました。現段階での手応えを教えてください。
【堤康一郎】当初の締め切りとしていた9月15日までに多くのアイデアが集まりました。また、国内だけでなく海外からもアイデアをお寄せいただいているのも特徴的です。
――公募期間延長の声も多かったと聞きました。ちなみに、応募は企業からが多いのでしょうか。
【荒明浩一】いえ、個人の方からのエントリーもかなり多く「本当にガンダムが好きなんだな」と感心するアイデアもありました。
【堤康一郎】企業、自治体、大学などさまざまな分野からもご応募いただいています。「ガンダム」という“共通言語”が、個人から企業まで幅広く興味を持っていただけていることを改めて感じました。
――応募はどのようなテーマが多かったのでしょうか。
【荒明浩一】「宇宙世紀」という軸があるので、宇宙関連やニュータイプといったキーワードを元にしたアイデアが多く、とにかく“ガンダム愛”を感じさせる熱のこもった提案内容が見受けられました。
【堤康一郎】ガンダムにおけるスペースコロニーの設定は、“増えすぎた人類”を移民させるために作られたものです。これは、ガンダムの世界観を構築する重要な要素となっていますが、そもそも現代のリアルな社会問題ともリンクするテーマなので「紐づけた技術案はいろいろ出てきそうだね」とみんなで話し合っていましたが、予想通り多くのアイデアを頂きました。
【藤原孝史】補足としては、「宇宙世紀」というコンセプトはありますが、宇宙、エネルギー、機械、ニュータイプ、都市、その他、と対象分野別で公募しています。社会問題という観点から、宇宙関連以外にも都市、生命、環境など、まんべんなく可能性を探っていきたいと考えていますので、自由にアイデアを応募していただけるとうれしいです。
■宇宙だけでなく、「衣食住」に関わるアイデアも見てみたい
――宇宙関連のアイデアが多かったとのことですが、それ以外ではどのようなアイデアを期待されますか?
【荒明浩一】社会課題を考えたとき「衣食住」は切っても切り離せません。前述にあった通り、スペースコロニーは人口問題を解決させるために生まれたアイデアです。
では、ガンダムというIPを使って現実世界の“住環境”をどう改善させていくのか。そして、そのアイデアをどうやって実現させるかを考えるのが本プロジェクトの根幹となります。なので、宇宙をテーマにしたアイデアに限らず、身の回りの身近な変化や課題を「ガンダムを使って打破して行く!」というアイデアを見てみたいです。
――ガンダムというとカッコイイMSや戦闘シーンに目がいきがちです。しかし、作中では宇宙世紀における“衣食住”も丁寧に描かれています。映画『閃光のハサウェイ』の冒頭シーンに出てくるワイングラスは、無重力下でもグラスでワインを飲める構造になっていました。作中で特別な説明は一切ないのですが、無重力下でワインを飲むためのグラスとして説得力がありました。
【藤原孝史】ガンダムの世界で描かれていた技術を再現する、それによって社会課題を解決できるのであれば、それもひとつの「イノベーション」だと思います。
――なるほど、例えば映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、人間が無重力状態で移動するための手段として手持ちのワイヤーガンが登場します。ワイヤーを発射し、先端を壁に付着させた状態でワイヤーを巻きとることで無重力下での移動を可能にしています。これは電気やガスといったエネルギーを使わない画期的なアイデアですが、こうした劇中に登場するアイデアを再現したい、と考えるファンは多そうです。
【藤原孝史】これまでの公募では「宇宙世紀」というワードによって“宇宙”というバイアスをかけすぎた気もしています。なので、先ほど荒明が説明したように「衣食住」といった皆さんの実生活の中にある社会課題をクリアにするアイデアも募集しています。「ガンダム」や「宇宙世紀」という言葉にとらわれない自由なアイデアを待っています。
■エントリー者同士を引き合わせ「新たな価値を創造する」
――「ガンダムオープンイノベーション」について、10月15日以降の展開は?
【藤原孝史】現状、我々がまったく想像し得なかったアイデアの応募もあってうれしい限りです。ただ、そうしたアイデアの意図を我々がどれくらい汲めるのかを問われている部分もあり、気が引き締まる思いです。その後については、“共通項”のあるアイデアを出された方や、アイデアを掛け合わせることで発展が見込めそうな方たちを引き合わせることも考えています。なので、アイデアを採用するというだけではなく、ガンダムを共通言語とした人や組織を引き合わせて、“新しい価値”を創造するということもやっていきます。
――なるほど、さまざまな人たちから力(アイデア)を借りて“新しい価値”を生み出し、世界に提示していく。これが本プロジェクトの根幹なんですね。個人的な感想になりますが、「ガンダムオープンイノベーション」というタイトルを目にしたとき、当初は敷居の高さを感じていました。ですが、今回の説明を聞いて、「ガンダム好きが集まってアイデアを出し合い、新しい技術や価値を生み出そう!」というシンプルなプロジェクトなのだと認識しました。
【藤原孝史】そうですね。皆さんが提案されたアイデアを「何年後かに必ず実現する!」というプロジェクトではなく、ガンダムを観ながら「これが実現したら未来は面白くなりそう!」という皆さんのワクワクをカタチに変えていくお手伝いをしたいと考えています。公募も10月15日まで延長されたので、皆さんからの“ワクワクするアイデア”をお待ちしております。
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