ネッシーやイエティといった個性的なモチーフであったり、リバーシブルの応用で3種類の形に変化するものなど、ほかにはないぬいぐるみを手がけてSNSを中心に注目を集めている、ぬいぐるみデザイナーのせこなおさん。キャラクターグッズの企画・デザインの会社を経て、ぬいぐるみ制作会社にてぬいぐるみのデザイン、パターンの仕事に10年間携わったのち独立。現在では、企業等からの依頼と並行して、オリジナルのぬいぐるみ制作を続けており、インテリアとしても楽しめて、大人から子供までついつい愛でたくなるシンプルなデザインや、ひとつで何通りもの楽しみ方ができる遊び心が多くの人の心を鷲掴みに。いかにして、アイデアあふれるぬいぐるみを生み出しているのか、そして作品に込めた思いを聞いた。
■そこに“ある”ではなく、“いる”生き物として誕生させたい
――どういった経緯でぬいぐるみ制作を始められることに?
「ぬいぐるみ自体は好きでしたが、作り始めたのは会社に入ってからで。最初はキャラクター商品のデザインから入り、自分でもぬいぐるみを作ることになったので縫い方など訓練しながら学びました。ミシンをしっかりと使うのは、もう小学校以来とかで…。ちょうど様々なものがデジタルに移っていく時代ではあったのですが、大学の専攻が美大の油絵科だったこともあり、手の感触のあるアナログな、物になるものを作りたかったのもあって自分には合っていたのかなと」
――作り始めた当初と今では、取り組み方など変わりましたか?
「最初の方は依頼されたものがうまく作れるだろうかという不安が常にあったんですけど、ぬいぐるみを作り始めて22年ぐらいにもなると、できることとそうでないことが見えているのでやりやすくなりました。ぬいぐるみだったらわりとなんでも作れます。物理的に無理ですというものはもちろんありますけど、『なんとかします』で大体なんとかしちゃいますね」
――作れないものは、ないところまで。
「そういうと、驚くような依頼をいただきそうでこわいですが(笑)。だけどそもそも、ぬいぐるみは無限の形を生み出せるところが魅力だと思っています。例えば、洋服はデザインだけでなく機能性も大事になってくるので、ある程度ベースの型があってそれを元に作っていくんですね。だけど、ぬいぐるみはフィギュアを作るのに近い感覚で、粘土をこねるようなイメージなんです。布製の立体物と捉えれば、自由度の高いものなんです」
――作るデザインも、キャリアを重ねるごとに変わってきましたか?
「今は、ぬいぐるみのイメージからはみ出したデザインにも挑戦したいと思うようにはなりました。現在は、企業からいただいたキャラクターに似せて作ることがメインの仕事になっていますが、例えばぬいぐるみとしてだけでなく別の使い方ができたり、別の視点で見られるぬいぐるみという布の立体物の可能性を作っていくこともしたいなと」
――例えば、どんなものでしょう?
「話題になったのは、ひとつのぬいぐるみが3種類の形に変わる“3変化”と肩乗りのトートバッグでしょうか。リバーシブルのぬいぐるみというのは以前からあったんですけど、もっと変化させられるんじゃないかと作ってみて。肩乗りのトートは、ぬいぐるみもバッグも普通なんですけど、身につける位置によって、持っている人の見え方が変わる面白さを持たせることができたかなと。単純な仕組みでも、自分のできる手法の中で可能性を広げていけたらいいなと思っています」
――そういったアイデアはどこから得ているのでしょう?
「モチーフに関しては、日頃見ているもの中から好きなものを取り出しくる感じですね。デザインのアイデアは、ある程度条件がある中から考えていくことが多い。例えば、ダイオウイカを作ってみて『もうちょっと何かできるぞ』と、リバーシブルを応用するような形でひっくり返す時に、マッコウクジラと戦っているようにみせて作ったり」
――3変化のぬいぐるみについては?
「3変化ではじめて作ったのは、UFOが牛をさらう『キャトルミューティレーション』です。もうひと展開オチがあると面白いなと、宇宙人が出てきて3段階にしてみました。これを機に、ファッションや雑貨を販売されている『フェリシモ』さんと『海遊館』さんのコラボ商品で、『卵→ヒナ→成鳥』と3変化するオウサマペンギンのぬいぐるみを作らせていただいたりもしました。そのほかにも、フェリシモさんの『妄想商品化道場』という企画連載のおかげで、普段のパターン仕事とは異なる、変わったものをいろいろ作らせていただけましたね」
――オリジナルのシリーズも個性的ですよね。
「最近やっと、『mokemono』というオリジナルぬいぐるみのシリーズができました。材質が良くて、大人がお家に置いていても違和感がないようなぬいぐるみを作りたいなと。なので、ちょっと毒とかクセがある、性別問わず大人も子供も好きになっていただけるような、ぬいぐるみになっています。ベビーイエティとベビーネッシーは設定が赤ちゃんなので、ベビー用のぬいぐるみの雰囲気を意識しながら、インテリアの邪魔をしない色であり産毛として白を貴重としたシンプルなデザインにしています」
――あひる玉もユニークですよね。
「これは当初、アートフリマに出店する際に、たくさん余っていた上質な布を使って作ったのがきっかけで。布見本のようなイメージでいろんな毛の種類を並べたくって、最小限のパーツで生き物になるようにクチバシをつけています。あとは想像していただいて、毛の素材で性格が出てくる。工場生産だと、これだけたくさん色や素材が違う形で作るのは難しくなるので、手作りだからこそできたバリエーションかなと思います」
――さらに、「mokemono」シリーズの新作を制作されたとか。
「東京都台東区のトーキョーピクセルギャラリーにて、10月4日まで開催中の企画展 『CRAFT PARTY』に向けて新作を作りました。ひとつは、シャーと毛を逆だてて怒っている猫が可愛いくて、その瞬間をぬいぐるみにした『なつかない猫』。そして、中国神話に登場する神獣『渾沌(帝江)』は、かわいいフォルムの絵が残されていたので『これをぬいぐるみにしたら絶対に可愛い!』と思い作ってみました。そして、ベビーイエティとネッシーたちと同素材の生地で作った『ベビーケルベロス』です。ケルベロスにも子犬時代があっただろうと想像して、可愛らしく仕上げました」
――様々なぬいぐるみを手掛けられている中で、特に大事にしていることはなんですか?
「『生き物として誕生させる』という意識で作ることでしょうか。キャラクターのぬいぐるみ原型を作っていると、イラストからぬいぐるみになったものを見て『こういう形をしてたんだ』と作者さんが言ってくれたりすることがあって。ぬいぐるみは、本物の代わりに手に入れられる、ここにいる生き物になるんですよね」
――本当にお家の中で、いっしょに過ごしているような存在に。
「そうですね。本当にいる感じにしたいなと。なので、フォルムなんかもイラストから自分で解釈を入れて作ることが多いんですけど、後頭部の丸みとかお腹のくびれとか。日頃、接している子猫や子供たちのかわいらしさを盛り込みながら、生き物としてかわいいものを作ろうと意識しています。私が作るものはできるだけ立体的に、横から見ても斜め上から見てもかわいい、自分の萌えポイントを大事にしていますね」
――せこなおさんの中で、特に萌えるポイントはどんなところでしょう?
「後頭部のふくらみと首のくびれ、そしてお尻のふくらみにかけてのSラインがすごく好きです。子猫の後頭部とか。あかちゃんのほっぺとか。後頭部とお腹にかけてのラインなど、目の端に映っただけでもかわいポイントを、ぬいぐるみにしています。それが、そこに“ある”ではなく、“いる”という感覚になるのかなと」
――ディテールにこそ、存在感が宿るのですね。
「そうですね。存在感は、佇まいを大事にしてこそかなって。もちろん似せるのは大前提として、そこにいる佇まいも似せたいなと思っています」
――今後、作ってみたいぬいぐるみや活動の展望などありますか?
「最近はなかなかオリジナルのぬいぐるみを作れていなくて、販売もできていないので…。どんどんオリジナルのぬいぐるみをもっと作って、オリジナルのいきものを増やしたいなと思います。最近は、猫の写真ばかりSNSにあげているから猫の人と思われがちですが…(笑)、実験的に作ってみたものをアップしたりもするのでぜひチェックしていただけたらうれしいです」
取材・文=大西健斗