2015年の国連サミットで採択された、持続可能な開発目標(SDGs)。2030年までの達成目標を掲げ、各国の企業がさまざまな取り組みを進めている。
名古屋市、豊田市、みよし市を中心に愛知県全域をホームタウンとして活動するJ1リーグ所属のサッカークラブ、名古屋グランパスは、2020年8月にSDGsへの取り組みを本格的にスタート。Jリーグが掲げる地域密着の理念と共に、地元に根差したサッカーチームとして歩んできた名古屋グランパスは、現在どのようにSDGsに取り組んでいるのだろうか。
今回は、チームを運営する株式会社名古屋グランパスエイト(以下、名古屋グランパスエイト)広報コミュニケーション部ホームタウングループの西村惇志氏に、SDGsの活動を始めた経緯や、その具体的な内容について話を聞いた。
■SDGsってなに?
SDGsは、国連に加盟する全ての国が、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「健康と福祉」などをテーマにした17の目標と169のターゲットで構成。アジェンダでは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。
■SDGsは今までの活動の延長線上にある
ーー SDGsの取り組みをスタートしたきっかけを教えてください。
【西村惇志】もともとJリーグは創設時から、地域密着を理念の1つに掲げています。そのため、名古屋グランパスでもチーム設立当初より、SDGsの考え方と近しい、地域に根差した活動を続けてきていました。
本格的に取り組むきっかけになったのは、2020年2月末から7月までの約半年間、新型コロナウイルスの影響でJリーグの試合がすべてストップしたことです。サポーターのみなさんも同じ気持ちだったと思いますが、これは私たちにとっても非常にショックな出来事でした。プロスポーツというエンターテインメントは、“安定した社会の上でこそ成り立つ”ということを改めて強く認識させられました。
ーー そこから、どのような形でSDGsへの取り組みを推進していったのでしょうか。
【西村惇志】社内の部署を横断した、SDGsのプロジェクトチームを立ち上げました。そして、まずは各部署がそれまで行なっていた取り組みを振り返り、整理することから始めました。
ご存じのとおり、SDGsには17項目の開発目標があります。それらはもちろんすべて同等に達成すべき項目ではありますが、その中でも自分たちの活動と特に親和性の高い4項目を、重点取り組み項目として設定しました。
■食や教育など、親和性の高い項目に力を入れる
ーー それが、 目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」という4項目ですね。
【西村惇志】その通りです。目標3の「すべての人に健康と福祉を」に関しては、特に健康と密接な関係のある“食”の分野を中心として取り組んでいます。体が資本のプロスポーツ選手は、食事が非常に重要であることを身をもって実感しています。
また、学校や地域のサッカークラブなどを対象として、チーム所属の管理栄養士による食育講演を行い、“食”の大切さを伝えてきました。こういった取り組みが、健康増進や子供たちの健やかな成長につながればと我々は考えています。
ーー 食育もそうだと思いますが、“教育”も力を入れてきた分野ですよね。
【西村惇志】そうですね。「サッカーを通しての教育」と言うと、少し大袈裟かもしれないのでおこがましいですが…。子供たちを対象にしたサッカースクールや、U-12(12歳以下)からU-18(18歳以下)までの選手育成を行うグランパスアカデミーの運営はまさにそういった部分かと思います。
また、キャリア教育の一貫として、学校訪問も行なっています。最近では、選手だけでなくグランパスのスタッフも参加して、サッカーにまつわるさまざまな仕事の話をさせていただいています。子供たちの未来の選択肢を増やす一つの活動として、とても意義のあるものだと感じています。
■楽しみながらSDGsへの理解を深めてもらえるように
ーー 2020年よりホームゲームで開催している「グランパスSDGsアクション」は、どのようなイベントですか?
【西村惇志】来場者の方々にSDGsというものをわかりやすく伝えるため、これまでパネル設置やクイズラリーなどを実施しました。
SDGsは難しく考えると、変に教育的というか…押し付けがましくなってしまいがちです。それよりも、まずは来場者の方々が興味を持ってくださっているサッカーを通じて、楽しみながら自然にSDGsへの理解を深めてもらうということを意識して企画しています。
ーー 社会課題に対して、「楽しく学ぶ」というのは非常に重要ですよね。
【西村惇志】はい。楽しくという点で言いますと、2019年からは名古屋市消防局や名古屋市大学生消防団と連携して、「サッカー防災(R) ディフェンス・アクション」というものを開催しています。これも「楽しく、備える」がコンセプト。例えば、“ボールタッチしながら災害時に必要な備蓄品を確認する”など、サッカーの練習をしながら防災や減災を体感できるワークショップです。
■昨年は2万8000台以上の不用パソコンを回収
ーー そのほかにはどんなことを実施されていますか?
【西村惇志】循環型社会の構築に貢献する取り組みとして、「グランパスくんのパソコンリサイクル」を行なっています。これはリサイクル事業を行なうリネットジャパングループと協力し、不用になったパソコンやスマートフォンなどを回収するリサイクル活動です。2020年は、1年間で不用パソコン2万8659台が集まりました。
ーー リサイクル活動において、名古屋グランパスならではの特色はあるんでしょうか?
【西村惇志】昨シーズンのチーム内得点王だったマテウス選手に、リサイクル由来の金を使用した金メダルを贈呈しました。また回収に協力してくださったみなさんにも、グランパスくんのオリジナルグッズをプレゼントしました。チームマスコットであるグランパスくんファミリーの人気もあり、サポーターのみなさんに大変ご好評をいただいています。
また、試合会場では総合案内所などに不用なスマートフォンの回収ボックスを設けています。こちらでも、回収にご協力いただいた方にはノベルティを差し上げています。
ーー ホームゲームの運営では、どのようにSDGsを意識していますか?
【西村惇志】試合会場には非常に多くの人が集まりますので、どうしてもゴミがたくさん出てしまいます。そこで会場内にエコステーションを設置して、ボランティアのみなさんにご協力いただき、ゴミの分別を促しています。
加えて、ペットボトルのキャップを回収し、NPO法人を通して海外の子供たちへワクチンを支援する取り組みも行なっています。ペットボトルキャップという身近なところをきっかけに、SDGsのアクションに参加していただければと考えています。
■手を取り合って、よりよいホームタウンを作っていく
ーー さまざまな企業や団体と連携されているんですね。
【西村惇志】そうですね。これはまさに、目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」に繋がっているところです。名古屋グランパスは、本当にいろいろな方々に支えていただいて成り立っています。
SDGsの活動をスタートさせてから、「連携することはできないか」というお声をいただく機会が増えました。やはり、1つの企業や行政だけでSDGsの活動を行なうと、できることが限られてしまいますよね。今、我々が掲げている重点項目以外にも名古屋グランパスがお力添えできることがあれば、ぜひ積極的に協力していきたいです。
ーー 最後に。SDGsへの取り組みの先に、名古屋グランパスが目指している未来とは?
【西村惇志】我々にとっては、やはりホームゲームがみなさんにお届けできる最大のコンテンツです。サッカーを通じて、これからもみなさんにドキドキワクワクを提供していきたい。そのために、選手も日々厳しいトレーニングを続けています。
しかし最初にお話ししたとおり、サッカーというスポーツエンターテインメントをお届けできるのは、安定した社会という基盤があってこそ。そういった意味でも、「ホームタウンが持続可能でよりよいまちになっていく」というのが、私たち名古屋グランパスが目指していることですね。