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マスターズ勝者・松山英樹のスイングを「WEB講座・ゴルフスイング物理学」小澤康祐が映像分析 

  • 2021年4月20日
  • Walkerplus

マスターズ・トーナメントでアジア人初の優勝を果たし、日本中を湧かせた松山英樹。彼のすごさはどこにあるのか。米ツアーの選手たちの強さの秘密を映像から探り、ゴルフスイングのメカニズムを科学的に解き明かすことに取り組んでいる「WEB講座・ゴルフスイング物理学」の小澤康祐氏が、松山のスイングを分析する。

■トップでの手の位置を低くし、インパクトの安定感を高めた

前回は、松山選手のスイングが、切り返すタイミングで止まっているようで見えて、実は瞬間的な脱力で伸張反射を使っていて、そこに彼のスイングのすごさがあるというお話をしました。立っている状態というのは、常に重力に逆らっている状態です。逆らっている状態を「ふっ」と抜く「抜重の技術」が抜群にうまいのです。瞬間的な抜重があって、その反応として地面反力を得てパワーを集約し、強いインパクトを産んでいる。その技術が非常に高く、あの結果に結びついていると言えます。

ここからは賛否両論ある部分だと思います。私はシャローなスイングは理にかなっていると考えています。先端が折れ曲がった特殊な構造を持つゴルフクラブの重心構造を考慮すると、縦に振るよりも、横に振ったほうが、フェースがインパクトで自然に目標方向を向きやすいからです。この点については、YouTubeチャンネルの「WEB講座・ゴルフスイング物理学」や著書『「物理学」×「クラブの構造」で解き明かす ゴルフスイングの新事実』(KADOKAWA)で詳しく説明しています。


「松山選手のスイングはシャローなのか」という点について議論のある部分だと思いますが、その部分に工夫を加えてきたことが、今回のマスターズ優勝につながったと私は見ています。

シャローであるかないかを見極める基準は、私の考え方では、切り替えしたときにシャフトが立ってヘッドが手の上を通って前側に来るのか、逆にシャフトが寝てヘッドが後ろ側で手より低い位置に下りていくのかという点にあります。

注意しなくてはいけないのは、ヘッドの軌道として縦に見える(アップライトなスイングプレーンになっている)としても、トップでのヘッドの位置が高いところにあると、ヘッドが後ろ側に下りていく動き、つまり「シャローなスイング」になりうるのです。逆も真なりで、ヘッドの軌道としては低い位置で横に振っているように見える(フラットなスイングプレーンになっている)としてもトップでのヘッドの位置が低い場合、ヘッドが前側に出ている場合もあります。ただ、この場合でも、フェースがインパクトで目標を向く力はある程度は得られます。このメカニズムを使っているのが、リッキー・ファウラー、この使い方をしている可能性があると感じさせるのが、ローリー・マキロイです。

それに対して、ヘッドの位置が高く、手の位置も高いトップから、シャフトを立て、ヘッドを前に出して、急な角度でインパクトへと下ろしていくスイングをするプロはほとんどいません。このパターンは、クラブの構造を活かした使い方とはかけ離れ、エネルギー効率が悪く、安定感も高まりません。ビギナーに多いスライスの原因は、まさにこの動きにあります。

松山選手の以前のスイングは、前傾が深い状態で、体の回転は肩を縦に回して、トップでクラブを高い位置へと上げていくのが特徴的でした。アップライトなスイング軌道で振るわけです。このようなスイングは、ボールを通過するときのヘッドの軌道がストレートに近づき、フェースの開閉の動きも小さくなる、いわゆる「インパクトゾーンが長く、左右のブレが小さくなる」と言われています。背の高い選手はドライバーなど長いクラブでも苦もなく前傾を深くして、アップライトに振れるので有利と言われたゆえんです。その優位点を取り入れていたのだと思います。

しかし、そのトップから、以前の松山選手は、ごくわずかにですが、シャフトが立って下りてくる傾向があるように見えていました。そうすると、ドライバーやフェアウェイウッドなど重心距離の長いクラブの場合、「シャローなスイングなら得られるはずの、自然にクラブのフェースが目標を向く力」を十分に得られず、ボールが捕まりづらくなりやすい状態だったと思います。

■「首の逆向きの動き」に頼らずに、ボールがつかまるようになった

その対策として、松山選手は、頸反射(けいはんしゃ)を使っていたのだと思います。体の構造上、首を右肩方向に回すことで、右手が親指方向にねじれるという体の反射的な動きです。つまり体の構造上の仕組みを使ってフェースを返す動きが自然に生じるようにして、インパクトでクラブ自体が目標を向こうとしてくれないことを補っていたと考えられます。

最近の松山選手は、この部分が替わってきたと思います。トップでの手とクラブの位置が低くなっているのです。手の動きとしては、低い位置から横に動かし、シャフトを立てることなく、ヘッドを早めに低い位置に下ろし、シャローな軌道でインパクトまで導いています。それによって、ドライバーなどの長いクラブでも、十分にフェースが目標を向こうとする力を受け取れるようになったのだと思います。それに伴って、首も、極端に残す必要もなくなってきているのかなということが見えていました。

インパクトでフェースが目標方向に向けば、ボールは捕まりやすくなります。スライスが直らないと悩んでいる人は、これができていないわけです。ボールを捕まえるための方法はたくさんありますが、手で意識してフェースを返そうとする方法より、クラブの構造やカラダの構造を利用した方法のほうが安定感のあるプレーにつながります。今回の説明の中で紹介した方法は、どれも「スライスに悩む人」にオススメできる方法です。
①ダウンスイングの始まりでは、ヘッドを後ろへ下ろし、シャローなダウンスイングでインパクトする
②インパクトゾーンをヘッドが通過するときに、首を右肩方向に回す

■ピンを刺すアイアンショットを生んでいる強い体幹と下半身

次に、松山選手のアプローチも含めたアイアンの精度について説明しようと思います。アイアンショットがピンを刺すように放たれるなんて、皆さんにとっても憧れるプレーだと思いますが、その理由をひもといてみましょう。

道具の構造、具体的にいえばライ角と深く関わる部分です。ゴルフクラブという道具は、先端のヘッドが、シャフトに対して折れ曲がった状態で装着されています。簡単に言うと、この折れ曲がった角度がライ角です。この角度に合わせて構えることで、クラブヘッドの底面が地面でスムーズに滑ってくれて、うまく打つことができるわけです。

が、それだけではなく、この角度を合わせることで、フェース面が目標をちゃんと向くという点もよく考慮すべきなのです。ツマ先上がりのライで、クラブのソールが地面に沿うように構えると、真っすぐに向けているつもりでも、フェース面自体の向きは左になるため、打球は左に飛ぶということは、多くの方が経験されていることでしょう。この状態は手の高さが低くなったのと同じなのです。逆に、手の高さが高くなればフェース面を真っすぐ向けているつもりでも実際には開いてしまっており、ボールは右に飛んでいきます。これは多くの一般ゴルファーにありがちな傾向です。

アドレスではライ角を合わせて構えるため、フェースは目標を向いています。インパクトでも当然、フェースが目標を向いた状態にしたいわけですから、必要なことはインパクトで構えたときのライ角に戻ることになります。つまりは、手の高さが同じになること、です。

短いクラブ、つまりロフトの角度が大きいクラブほど、インパクトでのライ角が、構えたときとずれることによる影響が如実に出てしまいます。ショートゲームがうまくて狙いどおりに打てる選手は、ライ角を狂わせずに、インパクトをつくれているのです。

狙いどおりの方向性を出すためには、インパクトでの手の高さを一定にすることが必要なのです。手の高さが一定ということは、胸の高さ、ヒザや腰の曲げ具合などもそろうということになります。それらが狂ってはいけません。松山選手の場合は、それらがまったく変わっていないのです。この部分の再現性が高い点が、本当にすごいと思います。計算してみると、手の高さが1インチ(2.54センチ、指2本分くらい)変わってしまった場合、全長39インチの4番アイアンで計算すると、シャフトの角度が3度前後変わってしまうことになります。それを正確に揃えて打っていけるというのは、ものすごい技術です。技術だけではないですね、体力、下半身の強さなどがあって実現するすごい部分。ここが松山選手のすごさだと思います。

松山選手のようなショットの高い精度を目指すならば、彼のようにインパクトでの手の高さにおける再現性の高さを追求していく、そのためにはどうすればいいかを考えていくといいと思います。ヒントを挙げておきますと、手の動きだけに着目して、手を体の近くへ下ろす、低く下ろす、と考えてもうまくいきません。手の動きの土台となっている、胸の高さ、腰やヒザの高さなどがどうなるのかという部分を考えていくことが大切になってきます。

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