旅に宿は付きもの。せっかく島根を訪れたのなら、泊まる場所もとことんこだわりたい!そんな人におすすめの宿泊施設4カ所を厳選。国の登録有形文化財や古民家を改築した空間を楽しんだり、泊まれるはずのないような施設に滞在してみたり…。来てよかった!泊まって楽しかった!と心から思える特別体験ができるはず。
■創業役270年の元造り酒屋が唯一無二の宿に生まれ変わる「NIPPONIA 出雲平田 木綿街道」
出雲縁結び空港から車で約15分。出雲平野の北東に位置する平田地域は、江戸から明治にかけて、木綿栽培で商業の中心地として栄えていた町。当時の面影が色濃く残る町並みは「木綿街道」と呼ばれ、なまこ壁や出雲格子など、歴史的価値の高い建築様式を随所に見ることができる。近代化の波が押し寄せる中で奇跡的に残ったその町並みの一角にあるのが、「NIPPONIA 出雲平田 木綿街道」。
江戸時代から続いてきた元造り酒屋を改装し、失われつつあった歴史的な建物と文化を共に楽しめる宿として、2019年にオープン。全6室の部屋を備え、“懐かしく、でも新しい”趣ある宿と人気が高い。
木綿の暖簾をくぐり、ガラス戸を開けると、蔵元の名残である大樽が迎えてくれる。当時のままの土壁と剥き出しの梁で囲まれた空間は、重厚な雰囲気を醸し出す。以前から、町のシンボル的な建物として地元民から愛され、人々が集まる地域のコミュニティスペースだったそう。宿として生まれ変わり、洗練された空間になっても温かみを感じるのは、人々の想いが詰まっているからかもしれない。
全6室の客室には、酒造りにちなんだ名前が付けられている。それぞれにしつらえが異なるのだが、基本的に建物はそのまま生かしていて、酒蔵だった歴史を柔らかく語りかけているよう。木綿街道が栄えたであろう時代を思って揃えられたアンティーク家具や照明が心地よい。
朝食は、木綿街道の台所を担う「綿の花」が手がける。地元で採れる山海の幸を、街道内にある蔵で醸造された醤油などを用いて味付けした郷土料理の数々が堪能できる。美しいお皿に盛られたほっこりする手料理の数々。朝からご飯のお代わりは必至だろう。
ダイニングスペースでは、気さくな地元スタッフと話ができたり、旅人たちの交流の場になるなど、静かに続く伝統の味を感じ、木綿街道の日常を体感できる。町中には、登録有形文化財の「本石橋邸」をはじめ、醤油屋や酒蔵など、今なお昔ながらの文化が息づく場所が軒を連ねているので、散策をしながら、木綿街道を身近に感じる贅沢をじっくり楽しもう。
<住所:島根県出雲市平田町新町831-1/電話:0853-31-9202/時間:チェックイン15:00、チェックアウト10:00/休み:不定休/料金:大人2名1室53000円〜(1泊2食付)※料金は時期により変動/駐車場:6台(徒歩3分)/交通アクセス:車=出雲縁結び空港より約15分、電車=一畑電鉄雲州平田駅より徒歩10分>
■“テラハク”で体の底から心身を解放「清水大師寺」
日本ならではの文化や伝統を肌で感じながら、非日常的空間で心を癒すことができる宿坊での滞在“テラハク”。旅館やホテルと同じように寺社に宿泊できるとして、女性を中心にとても人気がある。そこで紹介したいのが、島根県大田市の温泉津町(ゆのつちょう)にある「清水大師寺」。800年代の平安期から続く歴史ある真言密教系のお寺で、中国地方屈指の女性に御加護がある寺として知られている。
清水大師寺までの道のりは少し険しい。マイクロバスがギリギリ通れるくらいの細い山道を登る。距離にして500mほどの山道だが、慣れない運転では10分はかかるだろう。この先に本当に寺はあるのだろうか?そんな不安に襲われながら進むと、赤い門が見えてきて少しほっとする。
標高250m。下界から上がった先に降り立つと、凛とした空気が立ち込め、なんとなく世界の違いを感じるから不思議だ。ご住職の夫婦が温かく迎えてくれ、アットホームな雰囲気に心が和む。
もとは本堂であった場所を利用した1日1組限定の宿坊。天井に「曼荼羅(まんだら)」が描かれた部屋や、海を望む部屋があり、足を踏み入れただけでせわしい日常を忘れさせてくれるような安心感に包まれる。
「清水大師寺」では、阿字観(あじかん)という瞑想、写経、写仏といった体験が可能だ。また宿を切り盛りする女将による、仏教の教えを根本に秘めた「密教宿曜経占星術」を受けることもできる。朝のお勤めは強制ではないが、なかなかできる体験ではないのでぜひ参加したい。一緒になって経典を読む時間は神聖な気持ちになるはずだ。
朝のお勤めで心が穏やかになった後のお楽しみは、女将が作る朝食だ。島根の地の物や近隣の農家から届く野菜を使った精進料理を、窓から望める日本海の絶景と共に堪能できる。なんとも贅沢なひととき。宿泊する予定がない場合は、お寺カフェとしての利用も可能。
世俗から離れ、普段まとっている煩わしさを一旦置ける場所、それが「清水大師寺」。「いいことも悪いことも全部ここに置いて、ホッとひと息ついたら、元気になって日常へ戻ってもらいたい」と微笑むご住職。話しているだけでも心が軽くなってくる。1泊ではすべてを堪能しきれないので、連泊がおすすめ。
<住所:島根県大田市温泉津町小浜イ408/電話:0855-65-3000/時間:チェックイン15:00、チェックアウト12:00/休み:不定休/料金:平日大人1~3名利用24000円(6名まで利用可。1名増えるごとに5000円追加)※朝食希望の場合は1名1200円追加/駐車場:20台(無料)/交通:車=出雲縁結び空港より約1時間30分、電車=JR温泉津駅よりタクシーで約10分>
<■お寺カフェ/時間:10:00~16:00/休み:毎週火曜、毎月21日、その他法要日>
■泊まれるってほんと!?夜のミュージアムを満喫「奥出雲多根自然博物館」
島根県の東部、西日本随一の米どころ・奥出雲に宇宙の進化と生命の歴史を学べる「奥出雲多根自然博物館」がある。こちらただの博物館ではなく、なんとお泊りができる博物館なのだ。
到着すると、まずはエウオプロケファルスがお出迎え。博物館の入口には、大きなアロサウルスが待ち構えている。ホテルの受付は奥にあり、3世代で宿泊に来ていたファミリーが手続きをしていた。受付横に並べられた恐竜のプラモデルを前に、じっとしていられずに走り出す子供たち。“博物館に泊まる”体験は子供たちにとっても、きっと特別だ。
「奥出雲多根自然博物館」での宿泊で人気なのは「恐竜ルーム」。7室あり、一番人気は2段ベッドがある部屋で、時期によっては半年前から予約が入るそうだ。まるでディズニー映画に出てくるおもちゃ箱のような装飾で、天井にプテラノドンも飛んでいる。他の部屋にも恐竜モチーフがあちこちに見られ、大きな化石が置いてあるなど、博物館に宿泊するからこそのお楽しみが待っている。
博物館の開館は16時まで。それ以降は宿泊者限定の博物館に!1階は陸の生き物、2階は太古の海の生き物を中心とした展示が並ぶ。宝石化したアンモナイトは、直径65cmと世界でも最大級だ。夜には、宿泊者限定の「ドキドキ・ナイトミュージアム」が21時まで楽しめる。昼と夜、違う顔を見せる博物館を体験してみては?
<住所:島根県仁多郡奥出雲町佐白236-1/電話:0854-54-0003/時間:チェックイン16:00、チェックアウト10:00/料金:大人1名8800円~(1泊2食付)/駐車場:25台(無料)/交通アクセス:車=出雲縁結び空港より約40分、電車=JR出雲八代駅より徒歩20分>
<■奥出雲多根自然博物館/時間:10:00〜16:00/休み:火曜(祝日の場合は翌日休み)、12月30日~1月3日/料金:大人500円、高校・大学生300円、小・中学生200円>
■文化遺産で朝食を!ジャパニーズモダン風にリノベーション「美保館 ゲストハウス神邑」
島根県の美保関(みほのせき)は、島根半島の先端にあたり隠岐の島や朝鮮半島を臨めるなど海上交通の重要拠点として古くから栄えてきた漁師町。その美保関に初めて本格的な旅館「美保館」が開業したのは1905年のこと。 本館、新館に加え、ほかにも1日1組限定の別邸や貸し切りタイプの宿などをオープンし、これまで美保関を訪れる多くの客をもてなしてきた。
今回紹介する 「美保館 ゲストハウス神邑(かみむら)」もその一つ。明治時代に立てられた船宿を、梁や建具をそのまま残してジャパニーズモダン風の宿へとリノベーション。2020年にオープンしたばかりだ。
この宿をおすすめしたい理由は2つ。1つ目は、宿泊費がお手ごろで、4つの部屋はすべて個室のため自分の時間をゆっくりと過ごせること。玄関を入るとキッチンなどの共有スペースもあり、ゲストハウスで出会った人との交流を楽しむことができる。
2つ目は、美保湾を見渡せる美保館新館の展望大浴場を利用することができたり、朝食付きのプラン(プラス2200円)を選択すれば、営業している旅館としては初めて国の文化財として登録された美保館本館で朝食を味わうことできたりする点だ。
「ゲストハウス神邑」は、雨に濡れると青く美しい天然石の石畳が続く「青石畳通り」に面していて、その石畳と旅館が織りなす趣き深い佇まいは、ノスタルジックな気分にさせてくれる。
青石畳通りを進み美保館本館へ一歩足を踏み入れると…、きっと誰もが感嘆のため息をもらすだろう。そこに待ち受けるのは重厚で複雑な建築美と大胆な構図。アニメ映画に登場しそうな壮大さだ。頭上には昭和初期に張られたモダンな印象のガラス天井が施されている。2階には明治時代からの部屋が残されていて、まさに大正ロマンあふれる空間に。
かつての建物をそのままに、客を迎える場としての息吹を吹き込まれた美保館の宿。朝食前に最寄りの美保神社へお参りしたり、美保湾へと足を伸ばし伯耆富士(ほうきふじ)と呼ばれる大山を眺めてみる…。贅沢な1日の始まりではないだろうか。
<住所:島根県松江市美保関町美保関558/電話:0852-73-0111/時間:チェックイン16:00、チェックアウト10:00/休み:なし※メンテナンス等での不定休あり/料金:ゲストハウス宿泊 大人1名1室平日6,600円〜、1泊2食付き13200円〜ほか/駐車場:30台(無料)/交通アクセス:車=出雲縁結び空港より約1時間10分、電車=JR境港駅よりタクシーで約15分※送迎サービスあり(有料・要予約)>
取材・文・撮影=高橋裕美子、水島彩恵
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