中田英寿氏が47都道府県を旅して出会った日本の「わざ」と「こころ」。日本のことを知るために47都道府県を巡る中田氏の旅は6年半におよび、移動距離は20万キロになった。その間、訪れた地は約2000に。そこで中田氏は、現地に行かなければわからない、素晴らしき日本があることを知った。
ウォーカープラスでは、中田氏の「に・ほ・ん・も・の・」との共同企画として、珠玉の“にほんもの”をお届けする。
中田英寿
「全国47都道府県の旅で出会ったヒト・コトを、”工芸芸能・食・酒・神社仏閣・宿”に分けて紹介。日本文化を多くの人が知る『きっかけ』を作り、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促していきたい。」
徳島県民のソウルフードといえば「フィッシュカツ」や「竹ちくわ」が有名。外海に面した漁場が多いだけでなく内海もあって、おいしい魚が豊富にとれることから、どこのスーパーでも地魚を使った練り物がたくさん並んでいるほど、日常的な食べものになっている。
「フィッシュカツ」は近海で漁れた太刀魚やエソ、すけとうだらといった魚のすり身にカレー粉や調味料、スパイスなどで味をつけ、パン粉の衣をつけて揚げたもの。昭和30年に津久司蒲鉾が考案し、その後、小松島の他のお店がオリジナルレシピで作るようになり、今では徳島県の名物となるほどに広がった。店によって具を入れたり形状を変えたりするものの、カレー粉などの香辛料で味をつけることは共通。カレーで味をつけることで冷めても美味しく食べることができて、おやつとしてもおかずとしても、おつまみとしても愛されていて、徳島県で「カツ」と言えば、トンカツではなくこのフィッシュカツのことを指すらしい。
明治末期からこの地で練り物を製造している谷ちくわ商店では、フィッシュカツが「カツ天」という名前で販売されている。丸い形状をしていて、少し厚い。熟練の職人によって加水量を少なくし、丁寧にしっかりとすり上げることによって、練り物本来の弾力がある。原材料にもこだわっていて、等級の高い魚肉のすりみを使いその持ち味を引き出せるように、でんぷんの量も最低限に留めているので、魚介類特有の生臭さが抑えられ食べやすい仕上がりになっている。
食べるときにはそのままでももちろん美味しいが、焼き直すことで、衣がサクサクに、すりみが柔らかくなって、カレーの風味が際立つ。徳島の人はソースやマヨネーズをつけて食べたり、うどんにのせたり、お好み焼きに混ぜたりもするそうだ。小松島を訪ねることがあるならば、揚げたてを販売しているお店もあるので、ぜひそれを味わってほしい。揚げたてのサクサクとした食感、魚のうまみは格別なはずだ。
谷ちくわ店では「フィッシュカツ」のほかにも小松島名物の「竹ちくわ」の製造・販売をしている。「竹ちくわ」は、小松島市の名産品で、竹に魚のすり身を巻き付けて焼いたもの。全国的なちくわは穴が空いた状態で売られているが、この「竹ちくわ」は竹がついたまま販売されているのも特徴だ。『平家物語』の名場面としても有名な“扇の的”が行われた「屋島の戦い」の際に源義経の軍勢が小松島に上陸した際、海岸で漁師たちが魚のすり身を青竹に巻き付け焼いて食べていたその香りに惹かれた義経が食べ、称賛したと言われている。地元では、竹をもってかぶりついたり、すだちを絞って合わせて食べたりするのが一般的だ。
谷ちくわ商店では、ほかにも、鯛入りのちくわ、じゃこ天やえび天、ごま天、詰め合わせセットはネット販売もしているので、味の違いを自宅で楽しむのもいいだろう。