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刀鍛冶歴50年、鬼滅「日輪刀」再現に込めた想いとは?「日本刀を取り巻く厳しい実情を知ってほしい」

  • 2020年12月13日
  • Walkerplus

『鬼滅の刃』を象徴する武器である“日輪刀”。キャラクターごとに異なる刀が登場し、主人公・竈門炭治郎の日輪刀は玩具化され早くも人気商品となっているほか、バンダイスピリッツからは来年2月に約1/1スケール日輪刀の発売が予定されている。だがこれに先駆け、日輪刀を本物の“日本刀(真剣)”として再現しようとしたのがYouTubeチャンネル「一刀両断TV」の配信者・HoyKeyさんだ。実は、HoyKeyさんの父親はその道50年の刀匠(刀鍛冶職人)。今年1月に父とともに水柱・冨岡義勇の日輪刀を再現する動画をYouTubeで公開すると、同チャンネルの登録者数は9.3万人を数えるまでに成長。そこで今回、“鬼滅ブーム”が直撃したHoyKeyさんとその父に、日輪刀再現の舞台裏について聞いた。

■父の作る刀と作風が似ていた冨岡義勇の日輪刀

――日輪刀を本物の日本刀で再現しようと思ったきっかけは?

HoyKey「アニメ『鬼滅の刃』が大好きで、単純にかっこいいなと思っていたんです。刀鍛冶の方で日輪刀を再現したという話は聞かなかったので、最初は“日輪刀を自分ひとりのものにしたい”という気持ちで、父に制作をお願いしました。多分断られるだろうなと思っていたのですが、断られても動画的には面白いなと思って(笑)。当時はチャンネルを視聴される方も本当に少なく、自分の趣味の範疇に収まっていたし、父に断られていたらこの企画はそこで終わっていたと思います」

――お父さんはHoyKeyさんのYouTubeをどのように思っていたのでしょうか。

父「私はYouTubeのことが最初は何もわからなくて、HoyKeyが好きなものを撮って流しているだけなのかなと思っていたんです。それが急に『刀を作ってくれ』と言ってきたので作ってみただけなんですけど、こんなに大騒ぎになるとは…」

――たくさんの日輪刀の中で、冨岡義勇の刀を選んだ理由を教えてください。

HoyKey「父はあくまで刀鍛冶なので、“日本刀本来の美しさ”を造形してもらいたいと思っていました。冨岡義勇の刀は第1話から出てくることもあり、それを見た時「これだね」という形で父にお願いしました」

父「冨岡義勇の刀は私が普段作っている刀に似ていたんですよ。私の作風は相州正宗伝というすごく有名な刀なんですが、冨岡義勇の刀はどちらかといえばそういう雰囲気の刀だったものですから、何の違和感もなく作りやすかったですね」

――鬼滅の刃では、さまざまな形の日輪刀が登場します。再現するのが難しい刀は?

父「(甘露寺蜜璃や伊黒小芭内のように)曲がった刀はちょっとできないですね。宇髄天元の鉈のような刃は、刀鍛冶ではなく包丁を作る人が作った方が上手だと思います」

■刀の専門家ではないとわからない表現が随所に?「かなり勉強している」

――動画内では、刀鍛冶の目線で日輪刀を詳細に分析されています。HoyKeyさんも日本刀の知識があったのですか?

HoyKey「それが知識はまったくなくて(笑)、日輪刀を制作するにあたって日本刀の勉強をしました。もともと刀鍛冶の仕事を継ぐということもは念頭になかったので、中途半端に触れてはいけない世界だと思っていました。ただ、父の仕事が大変なのは見てきたので、日輪刀の制作でこれから大変になってしまうなとは思っていました」

――刀鍛冶として鬼滅の刃を見たとき、原作者や制作陣が刀の勉強しているなと感じたエピソードはありますか?

父「刀の中には“はたらき”(刃の中に生まれた筋などの文様のこと)というものがあって、金筋(きんすじ)や稲妻(いなずま)といった用語があるんですけど、アニメを見ているなかでそれがちょこちょこ出てくるんです」

――我妻善逸が使用している日輪刀には“稲妻”が入っています。これは本物の日本刀にもある“はたらき”なんですね。

父「こういうのは刀の知識がないと表現できない部分です。アニメの1シーンでは、柾目肌(まさめはだ)が明確に表現されていました。つまり、刀鍛冶が見れば気づきますが、一般視聴者の方が見てもまったくわからないものを懇切丁寧に描いている。原作者の吾峠呼世晴先生をはじめ、アニメ関係者の方が日本刀の勉強をかなりしていたことが伝わってきました」

――YouTubeの各回で、このように日輪刀の解説を細かくしてくれています。特に反響が多かった回は?

HoyKey「再生回数では冨岡義勇の日輪刀分析の回が一番多かったのですが、反響が一番大きかったのは、日輪刀の制作をスタートした3回目の動画です。その頃は、原作がそろそろ最終回になるのでは?と話題になっていた時期だったこともあり再生数が伸びました。その後は回数を追うごとに、チャンネル登録者数に比例して伸びていって、映画(無限列車編)の公開に合わせて爆発した感じです」

■日本刀を取り巻く厳しい実情、「日輪刀動画で若い層が興味を持ってくれたら」

――この動画を通して刀鍛冶の世界にはじめて触れた視聴者も多いと思います。日本刀の認知についての思いは。

父「刀鍛冶の仕事だけで生計を立てられるのは全国で30人程度と言われていて、若い人たちがみんな離れていっているのが実情です。以前の刀剣ブームの際は、年配になって興味を持たれて日本刀を所有する方がいたんですが、その文化が下の世代に継承されていないんです。日本美術刀剣保存協会の会員数も相当減って先細りしているので、HoyKeyの日輪刀動画で若い層が興味を持ってくれたらなとは思います」

――刀にまつわるコンテンツでは「刀剣乱舞」もブームとなって、女性層にも日本刀が注目されるようになりました。

父「刀剣女子って言葉も流行ってうれしい限りですが、日本刀は高価なのでなかなか買うまでにはいたりません」

――刀鍛冶の後継者不足についてはどうお考えでしょうか。

父「刀鍛冶の後継者を作るのはすごく難しいんです。5年間修行をしないといけなくて、その間は無収入。なので、刀が本当に好きで、かつ生活を助けられる家庭でないと継ぐのは厳しい。本音を言えば、国などが若い刀鍛冶を補助するような仕組みをとってくれれば助かります」

■シリーズ最終作は縁壱の日輪刀“完全再現”

――武道系YouTuber・藁斬り抜刀斎さんや、鍔の側部分を作成したHoykeyさんの叔父のご協力も得て、冨岡義勇の日輪刀はほぼ完成しているようにも見えます。“完成”と言えるタイミングは?

父「藁斬り抜刀斎さんが試し斬りを行った際、刃をつけてある程度切れるようにはなっていますが、本研ぎをかけていない状態です。拵(こしらえ)が完成して、今は研ぎ師の方に本研ぎをかけてもらっているので、あと1カ月ぐらいかかるかもしれないですね」

――完成後、この日輪刀の実物を見ることは可能ですか。

父「今年はもう終わってしまったんですけど、名古屋の熱田神宮で私たち(全日本)刀匠会の東海地方支部の会員が、子供の名前を銘切りして宝物殿の前でお渡しするという行事を毎年やっていまして、その際に宝物殿で冨岡義勇の鍔(つば)は飾らせてもらいました。熱田担当の刀匠や熱田神宮からもぜひもっと展示してほしいという声が上がっているので、来年の「刀匠のあそび」(東海現代刀匠刀剣展)には義勇や伊之助の刀も飾らせてもらおうかなと考えています」

――ありがとうございました。最後に、『鬼滅の刃』関連で今後挑戦したいことがあれば教えてください。

HoyKey「継国縁壱の刀身に“滅”の文字が入った日輪刀は完全再現が可能じゃないかと思っているんですが、アニメ未登場なので分析をしていない段階で、まだ作り始められないんです。なので、本シリーズの最後には、縁壱の日輪刀を制作してもらいたいと考えています」

取材協力:HoyKey:YouTubeチャンネル「一刀両断TV」

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