野良ネコが人間のような動きをしている瞬間を撮り続けている、注目のネコ写真家・久方広之さん。SNSで猫じゃらしを駆使した躍動的なネコの写真が話題となり、写真集「のら猫拳」や「のら猫拳キッズ」を出版。どうしてこんなにユニークな写真が撮れるのか、撮影の極意や秘蔵エピソードを聞いた。
■拳法の達人よろしく、高く舞って華麗に裏拳!
もともとネコが好きで、地域ネコや島ネコを撮り歩いていたという久方さん。かわいく佇むネコでは飽き足らず、躍動感のあるネコを撮りだしたきっかけとはなんだったのか。
「市販の猫じゃらしを使って撮影することもあったのですが、なかなか遊んでもらえなかったり、距離が近すぎてうまく撮れなくて。そんな時に、釣竿の先にネコじゃらしをぶら下げて遊んだらいいのでは?と思い付いたのがきっかけですね」
釣竿を使う撮影法は、ネコ島帰りの船で釣り人を見て思い付いたのだとか。「釣竿を振り回すのはちょっと恥ずかしかった(笑)」と話すが、警戒心の強い地域ネコと距離を保って遊べるようになり、食い付きも格段にアップ。トライ初日から想像以上におもしろい写真を撮ることができ、SNSにアップすると海外でも記事になるほど大きな話題を呼んだ。
「撮影法に手応えを感じてからは、カメラが壊れるくらいたくさん撮りました。本格的に活動を始めてから、約半年で写真集のお話をもらって。で、完成したのが、人間っぽい動きやポーズの写真をセレクトした『のら猫拳』です。撮影ではカンフーや格闘家の修行中のような立ち姿であったり、漫画やアニメのキャラクターのような、どこか間の抜けたおもしろいポーズを目指したのですが、大切なのはネコたちと夢中になって一緒に遊ぶこと。ユニークなポーズはネコたちが楽しんでいるからこそ、生まれてくるものなんですよね」と語る久方さん。
■時にはネコたちに襲撃されることも!?
見る側は楽しすぎて「もっと見たい!」とやみつきになるネコ写真だが、撮影時には当然苦労することも。
「最初から警戒心が薄いネコであれば遊ぶことは簡単ですが、もちろんそうでないことも。全体的に警戒心の強いネコが多い地域では、『この人間とは遊んでも大丈夫だ』と信頼を勝ち取れるまで何度も足を運んでいます。夕陽や朝日を背景にした写真を撮るために、撮影地にテントを張って泊まり込むことも多いんですよ」と、愉快な写真からは思いもよらない裏側が。
「とある場所で、夜中にテントを激しく叩かれて飛び起きたことがあって。慌ててテントを開けたら、昼間遊んだネコたちに囲まれていました。遊び足りなかったのか、はたまた侵入者を襲撃してきたのかは不明ですが、こういったことはよくあります。撮影の留守中にテントに侵入されて食料を漁られたり、オスにマーキング(おしっこをかける行為)されることもしばしば。信頼関係を失うわけにはいかないので、怒るわけにもいかず…。ネコ写真家のさだめと、割り切っています(笑)」
■二度と撮影できない"奇跡の一枚"を久方さんが厳選!
「ネコは本当に個性豊か。ジャンプが得意な子もいれば、体をひねるのが上手な子、遊び方が悪いとジャンプ中なのに不満な顔を見せてくる子(虚無猫)などさまざま。とにかく性格や体の特性、運動神経がそれぞれみんな違うんです。この子だからこんなポーズになるというか、再現性が本当になくて。飽きることなく年間10万枚以上も撮り続けられるのは、撮影のたびに新鮮な発見があるからだと思います」と、久方さん。
■今後も自分なりの方法でネコたちと関わっていきたい
現在はSNSやYoutubeへの投稿、全国の商業施設でのパネル展など幅広い活動を続けながら、地域ネコへの支援も行っている。
「ネコを取り巻く環境は人間社会の影響を受けながら変化し続けています。さまざまな場所で撮影して感じたのが、『一つの考え方ではくくれない。地域の実情に合わせた支援が必要である』ということ。実情に詳しい地域ネコの世話をされている方に、売上げの一部を直接お渡ししたりしています。写真家としてはもちろんネコを愛する一人として、今後も自分なりの方法でネコたちと関わっていければいいなと思っています」
おもしろいネコの姿が撮れるのは、ネコとの信頼関係があってこそ。今後はどんな"奇跡の一枚"が誕生するのか、猫じゃらしを武器にした久方さんのさらなる挑戦は見逃せない!
取材・文=兄弟エレキ
■久方広之
九州在住のネコ写真家。猫じゃらしを使った躍動感のある写真がSNSで話題を呼び、写真集「のら猫拳」「のら猫拳キッズ」を出版。撮影法をまとめた「ねこ拳撮影術(玄光社)」も好評発売中。現在はSNSに写真を投稿するだけでなく、Youtubeチャンネルで日々の撮影の様子や撮影法を配信。また、全国の商業施設向けのパネル展を行うなど、より活動の幅を広げている。