生産終了が報じられるB747「ジャンボ」シリーズの最大の特徴は、機体前方の「コブ」のようなアッパーデッキです。このコブ、実はかつて開発競争に敗れたモデルである「ジャンボ」が、旅客機として覇権をとるまでに造られたものでした。
米メディアのブルームバーグは、アメリカの航空機メーカー、ボーイングがいわゆる「ジャンボ」シリーズの最新鋭モデルである747-8型機の生産を終了させる方針だと2020年7月に報じています。
747-8型機以前の「ジャンボ」シリーズはいずれも生産が終わっており、この報道のとおりであれば、半世紀以上に及んだ「ジャンボ」の歴史に幕が下りることになるといえるでしょう。
「ジャンボ」の最大のトレードマークといえば、前方にあるコブのような2階席部分「アッパーデッキ」です。シリーズを通してこのアッパーデッキは徐々に長くなるなどの変化を遂げているものの、その特徴的なデザインは1969(昭和44)年のデビュー以来、変わっていません。
実はこの特徴的なデザインの始まりは、軍用輸送機でした。1961(昭和36)年から1965(昭和40)にかけ、当時の輸送機より大容量の荷物を積めるモデルを求めていたアメリカ軍は、新型の大型戦略輸送機計画を立て、その設計案をボーイング、ロッキード、マグダネルダグラス(のちにボーイングと合併)に依頼。そのなかから次世代輸送機の選定をすることになります。
結果的に3社の案からロッキードのものが採用され、これがのちの「C-5 ギャラクシー」となります。ボーイングは、いってしまえばこの競争に敗れました。
当時、欧米を中心に航空需要が高まっており、そのなかでボーイングは旅客型だけではなく、貨物型としても使える大型の民用旅客機の開発が必要と判断します。
そこで先述のロッキードに敗れた際の設計案をベースとした大型機開発に着手し、これがのちの「ジャンボ」となります。
この開発の段階で、「ジャンボ」の特徴であるアッパーデッキが採用されることになります。実は「ジャンボ」も当初、エアバスA380型機のような総2階建てとする案も検討されたものの、将来的に貨物機としての需要を見込んでいたことから、これを見直します。
というのも、総2階建てとすると貨物機として使うとき、1階部分にあたるメインデッキの容量が小さくなるためです。対して「ジャンボ」のスタイルは、アッパーデッキ部分に若干の座席とコックピットを配置することで、メインデッキの天地前後ほぼすべての空間を旅客または貨物の搭載スペースにできます。
「ジャンボ」はデビュー後、複数のタイプが生産され、1980年代から2000年代までの大型旅客機の代名詞ともいえる、強い存在感を放つモデルのひとつとなりました。日本では特に、国際線はもちろん、短距離国内線でも重用され、そのための特別仕様機が運航されるなど、世界的に見れば少々ユニークな使われ方もされています。
航空機のトレンドはその後、小さいながら、より燃費の良いモデルに変化したことで、かつてのように「ジャンボ」を頻繁に見ることはなくなりました。
しかし、ボーイングの「貨物機」を見込んだ戦略も、結果的に当たります。
たとえばJAL(日本航空)で使われていた旅客用「ジャンボ」の一部は、おもに海外の貨物航空会社で、貨物機としていまだ現役です。また先述の747-8型は、旅客型より先に貨物型がデビューした稀有なモデルに。日本で唯一の貨物専用航空会社、NCA(日本貨物航空)はこのモデルの最初の発注会社「ローンチカスタマー」を務め同モデルの開発を後押し、2020年現在も主力機種として活躍しています。
先述のとおり「ジャンボ」の貨物機は、アッパーデッキ部分にコックピットを設置したことで、高い収容力を持つメインデッキを持ちます。また、機首部分が上に開く「ノーズカーゴドア」を多くの機体が備えており、大きな貨物などを直接積み込めることが強みのひとつになっています。