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哨戒機は「転職組」が増加中 不振の旅客機から華麗に転身したP-3の拓いた「道」とは?

  • 2020年7月16日
  • 乗りものニュース

洋上での潜水艦監視などを主任務とする哨戒機、海上自衛隊が運用するP-3Cは、実は純粋に哨戒機として設計されたものではありませんでした。その開発経緯をたどりつつ、世界の「転職組」哨戒機を概観します。

海上自衛隊の哨戒機P-3C 実は「転職組」

 防衛省は2020年6月20日(土)、海上自衛隊が18日(木)午後に奄美大島(鹿児島県)の北東の海域(接続水域内)を西進する潜没潜水艦を確認したことを明らかにしました。また20日午前、同じ潜水艦が横当島(鹿児島県)の西の海域(接続水域外)を西進していることも確認しています。

 海上自衛隊はこの潜水艦の情報収集と警戒監視に、ヘリコプター搭載護衛艦「かが」をはじめとする艦艇に加えて、鹿屋航空基地(鹿児島県鹿屋市)の第1航空群に所属するP-1哨戒機と、那覇航空基地(沖縄県那覇市)の第5航空群に所属するP-3C哨戒機も投入しました。

 P-1とP-3Cはともに高い能力を持つ哨戒機ですが、P-1が純粋な哨戒機として設計、開発された航空機であるのに対し、P-3Cはロッキード(現ロッキード・マーチン)が開発した、ジェットエンジンの排気を回転力に変換しプロペラを駆動させるターボプロップエンジン搭載の旅客機、L-188「エレクトラ」を基に開発された航空機であるという、大きな違いがあります。

「エレクトラ」の開発が開始された1954(昭和29)年の時点では、すでにイギリスが開発した世界初のジェット旅客機であるデ・ハビラント「コメット」が就役していましたが、就役直後に事故を頻発したことや、燃費の高さなどから、ジェット旅客機は時期尚早であるとの声も少なからずあり、ジェット機に比べて堅実で経済性も高いターボプロップ旅客機の「エレクトラ」には、大きな期待がかけられていました。

 しかし「エレクトラ」の初飛行(1957〈昭和32〉年12月6日)から遅れること2週間後の同年12月20日に、ターボプロップ機では実現不可能な高い飛行性能とそれなりの経済性を両立したボーイングの707が進空したことに加えて、「エレクトラ」が「コメット」と同様、就役直後の1959(昭和34)年と1960(昭和35)年に2度の大事故を起こします。こうしたこともあって「エレクトラ」のセールスは低迷し、同機は1957年の生産開始からわずか4年後の1961(昭和36)年に、167機をもって生産終了を余儀無くされてしまいました。

不本意なセールスだった「エレクトラ」だけど…訪れた一大転機

「エレクトラ」が初飛行した1957年、アメリカ海軍は当時、運用していたP2V「ネプチューン」に代わる新たな哨戒機の開発要求をメーカーに発出します。

 P2Vはアメリカ海軍やイギリス空軍、海上自衛隊などにも採用された傑作哨戒機でした。しかし、第2次世界大戦中の1945(昭和20)年5月に初飛行したP2Vには、それから10年以上が経過した当時、アメリカ海軍の最大の脅威であったソ連の潜水艦の能力が急速に向上していくなかで、それに対抗するための探知機材や武装の搭載が不可能になりつつありました。

 このためアメリカ海軍はP2Vを後継する哨戒機には、長い航続距離と高速飛行能力に加えて、将来の探知機材の追加搭載が可能で、長時間の哨戒飛行に乗員が耐えられる居住性を求めました。ロッキードはこの要求に対して、「エレクトラ」の設計を流用する哨戒機案を提案。アメリカ海軍はこの提案を高く評価して採用し、1958(昭和33)年にP-3Aとして導入することとなりました。

 P-3Aの大きな機内スペースは、その後の探知機材の追加に十分対応することが可能で、1965(昭和40)年からはエンジンを強化したP-3B、1969(昭和44)年からは潜水艦の発する音響信号を受信してそれを電波で送信する「ソノブイ」などの最新機材と、地上の司令部とリンクする機能を備えたP-3Cがそれぞれ就役し、P-3Cは現在も第一線で洋上哨戒機として運用され続けています。

旅客機などから哨戒機への転身なぜ増えてるの?

 旅客機の持つ長い航続距離と大きな機内スペースを活用したP-3の成功により、現在では旧ソ連がイリューシンIl-18旅客機を基に開発したIl-38や、日本エアコミューターが運用しているATR72-600旅客機を基に開発されたATR-72 MPAやATR-72ASWといった、ターボプロップ旅客機を基に開発された哨戒機が増えつつあります。

 また、ボーイングが737NG旅客機を基に開発したP-8A「ポセイドン」や、EADS CASA(現エアバス・ディフェンス・アンド・スペース)が開発したターボプロップ戦術輸送機C-295を基とするC-295MPA、サーブがボンバルディア・エアロスペースのビジネスジェット機グローバル6000を基に開発を進めている「ソードフィッシュ」など、ターボプロップ旅客機以外からの哨戒機への「転職」も増えています。

 これは哨戒機が対潜水艦戦で果たす役割が、潜水艦の探知と攻撃を一手に担う従来の形から、無人航空機や無人潜水艇などを組み合わせたネットワーク戦の司令塔へと変化しつつあるためで、P-1やフランス海軍が運用している「アトランティック2」のような、潜水艦の探知と攻撃を一手に担う純粋な哨戒機は、むしろ少数派になりつつあります。

 P-1は2017年6月に開催された「パリ国際航空宇宙ショー」に参加していますが、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)が会場でニコニコしながらP-1を眺めていた年配のイギリス人来場者にP-1の感想を聞いたところ、彼は「モダンで素晴らしい航空機だけど、なんだかちょっと懐かしい感じもするね」と語っていました。

 彼の言う「懐かしさ」とは、もちろんP-1が時代遅れな航空機だという意味ではなく、いまや少数派になってしまった純粋な哨戒機という存在に対する郷愁の想いによるもので、この言葉は哨戒機のあり方が変化しつつあることを的確に表していると、筆者には感じられました。

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