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空を飛び、海を泳いで、地を走る 陸海空制覇しちゃった仏製装輪装甲車、ERC-90とは?

  • 2018年7月3日
  • 乗りものニュース

迅速さと使い勝手の良さがウリの陸自最新装備「16式機動戦闘車」ですが、世界には同じようなコンセプトの装備がすでにあり、さらには水に浮いたり空を飛んだりすることまで可能でした。

16式よりもバツグンの戦略機動性を持つ装輪戦車

 陸上自衛隊の最新装備、16式機動戦闘車(以後「16式」)の配備・運用が本格的に開始され、2018年4月以降、各地の駐屯地記念行事で披露されるようになりました。昨年まではまだプレ運用だったため、走行展示や装備品展示に限定されていたのに対し、今年は観閲行進だけでなく戦闘訓練展示にも参加し、空包射撃を行っています。

 そして今年の富士総合火力演習で初めて実弾射撃も実施するとの噂で、次世代の陸自の代名詞的存在として活躍が期待されています。

 この16式は、高速道路を最高速度100km/hで自走することが可能なほか、C-2輸送機でも空輸可能であり、これらを総合して「高い戦略機動性を有している」と称されますが、世界に目を向けると16式を上回る機動性を有する装輪戦車が存在します。それがフランス生まれの装輪戦闘車両ERC-90なのです。

 16式以上の機動性、とはいっても、本車の最高速度は95km/hと16式に劣ります。それでは何故に16式よりも戦略機動性が優れているかといいますと、パラシュート降下可能で、水上浮航能力も有しているからです。

 ERC-90の最大の特徴は、長砲身90mm砲という大口径砲を搭載するにもかかわらず8.3tと大幅に軽いのが特徴です。またサイズも全長7.7m、全幅2.5m、全高2.25mとコンパクトなため、C-2よりも小さなC-130輸送機にも積載可能です。

 小型なため乗員は車長・砲手・操縦手の3名ですが、近年の装甲戦闘車両には必須のNBC(核・生物・化学の各兵器)防護装置も装備し、必要充分の性能は有しています。なお名称の「ERC」とは、「Engin de Reconnaissance Canon(カノン砲搭載型偵察車両)」の頭文字を採ったものです。

狙いは迅速な展開 仏がそれを企図したワケ

 そもそも本車はフランスのパナール社(当時)が、海外輸出を想定して1975(昭和50)年からプライベート・ベンチャー(自主開発)で製作した6WDの装輪式偵察車両で、1977(昭和52)年に初めて公開されました。しかし上述した機動性の高さが自国フランス陸軍にも認められて採用が決定、1979(昭和54)年より生産が開始されています。

 フランスは元来、植民地/海外領土を数多く持ち、それらを警備するために装輪装甲車を多数保有していました。また第二次大戦後、多くの植民地が独立した後も、旧宗主国としてそれら国々に大きな影響力を有し、なおかつ自国民が海外領土に数多く在留していたため、彼らの保護や自国権益の確保のためにも迅速に展開可能な装備を欲していたのです。

 そのような要望にERC-90はマッチしたといえるでしょう。同じような用途で使用されていたAML-90の後継として1990(平成2)年までに192両が導入され、山岳歩兵旅団や落下傘旅団、海兵旅団といった緊急展開部隊に配備されています。

 また装輪式で運用コストが低いため、メキシコやナイジェリア、アルゼンチン、ガボンなどの発展途上国にも採用され、トータルで411両生産されています。

 ちなみにERC-90には「Sagaie(サゲー)」という愛称が付けられていますが、これはフランス語の「Assagai」で、アフリカの先住民族が用いた細い槍のようなものを指します。英語でいうとスピアーやジャベリンのようなもので、本車の性格を表す愛称としてうってつけといえるでしょう。

日本にもうってつけな理由とは?

 ERC-90は大口径砲搭載の装輪装甲車両とはいっても、先進諸国の現用戦車を撃破するのは難しいです。また防御力も7.62mm機関銃弾クラスしか耐えられないため、日本の軽装甲機動車程度しかありません。しかし、それでもHEAT(成型炸薬弾)を用いれば軽戦車並びに1950年から60年頃に作られた戦後第1世代主力戦車(T-54/55や61式戦車など)を撃破することは可能です。

 逆にパラシュートでの空中投下や水上浮航が可能という点は大きなメリットで、8.3tという重量ながらAS332及びCH-47クラスの輸送ヘリでも運べます。

 実際、このようなメリットがあるからこそ、フランス陸軍は上述したような各種即応部隊に配備しているわけで、同じような理由からアルゼンチンは海兵隊の専用装備としています。

 日本で考えてみた場合、今注目の「日本版海兵隊」と呼ばれる水陸機動団は、大口径火力は120mm迫撃砲のみで、直射火力に限ってみると個人携行の84mm無反動砲が最大です。ERC-90ならAAV7と同様に浮航して砂浜への上陸が可能な他、軽装甲機動車や高機動車と同じようにヘリでの空輸が可能です。

 一方、日本唯一の落下傘部隊である第1空挺団も装甲車両は軽装甲機動車しかなく、部隊が保有する火砲は水陸機動団同様、120mm迫撃砲や84mm無反動砲などしかありません。こちらもERC-90なら空中投下可能なためうってつけです。また空挺団が装備する既存の「重物量投下器材」でも最大投下重量は16tなため、問題なく対応可能です。

その使いみちは?

 島嶼防衛という観点以外でも、その戦略機動性の高さから海外派遣任務にも適しています。航空機(ヘリ含む)や輸送艦で運びやすいため、海外派遣任務や在外邦人の救出任務で輸送防護車(ブッシュマスター)や軽装甲機動車などと共に迅速展開が可能です。

 人員輸送ができない本車が何に役立つのかと疑問をもたれるかもしれませんが、大口径砲装備の戦闘車両というのは威圧感が圧倒的に大きく、威嚇に優れています。実際に撃たなくてもゲリラや暴徒に睨みを利かせる心理的圧力があり、そうした観点から大使館や宿営地に展開し砲台として用いる他、邦人輸送の車列(コンボイ)の前後に配置して警護車両として使用するなど用途は様々あります。

 戦車の代わりとして使おうとするなら16式に劣ります(そもそも16式も防御力や悪路走破性から戦車の代替にはなり得ません)が、火力支援用として捉えるなら遜色ないといえるでしょう。

 実際、フランスは湾岸戦争のような正規戦から、ユーゴ紛争のような国際貢献任務、そしてコートジボアール内戦での自国人保護並びに平和維持任務などにERC-90を投入してきました。それだけ本車が即応性に優れているからです。

 ERC-90は高性能な射撃統制装置は装備しないため、16式のような行進間射撃はできませんが、それを補って余りあるだけのメリットを有しています。自衛隊も高性能な装輪戦闘車両とは真逆の、簡便だけど使いやすい戦闘車両というものも検討してみる価値はあるのではないでしょうか。

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