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伊予鉄「坊っちゃん列車」が走るまで 路面電車の線路に汽車再現どうやった? 転車台もなし

  • 2022年6月12日
  • 乗りものニュース

夏目漱石の小説『坊っちゃん』に登場する「マッチ箱のような汽車」。これを再現したのが伊予鉄道の「坊っちゃん列車」です。数あるレトロ風な鉄道車両の中でも、再現度はかなり高めです。

漱石曰く「マッチ箱のような汽車」

「停車場はすぐに知れた。切符も訳なく買った。乗り込んで見るとマッチ箱のような汽車だ。ごろごろと五分ばかり動いたと思ったら、もう降りなければならない。道理で切符が安いと思った。たった三銭である」

 明治時代の文豪・夏目漱石の小説『坊っちゃん』の一説です。この汽車を再現したものが、愛媛県松山市内で「坊っちゃん列車」として走っています。

 この「マッチ箱のような汽車」とは、1888(明治21)年にドイツ・ミュンヘンのクラウス社で製造・輸入された、伊予鉄道のB形(甲1形)蒸気機関車と、ハ-1形客車のことです。

 愛媛県松山市内を走るこの鉄道は、現在の伊予鉄道松山市内線で、日本初の軽便鉄道でした。私鉄といえば当時、事実上日本政府が敷設した「日本鉄道」と、「東京馬車鉄道」「阪堺鉄道」くらいという時代です。漱石から見れば非常に珍しく、かつ新しい乗りものだったため、小説に登場させたのでしょう。

 この「坊っちゃん列車」は、1888〜1954(昭和29)年の66年間に渡って運行されました。長年、松山市民に親しまれたため、保存車両も各地にあります。なお松山市駅に隣接する「坊っちゃん列車ミュージアム」と新居浜市の愛媛県総合科学博物館には、1号機関車の原寸大モデルもあり、愛媛県有数の観光施設となっています。

 松山市にある米山工業に至っては、1977(昭和52)年に蒸気機関車と客車のレプリカを製作し、全国各地でイベント走行を行ったほど。この列車は映画『ダウンタウンヒーローズ』にも出演しています。

 しかし、路面電車である松山市内線で、このような「坊っちゃん列車」を復活運行できるかといえば、話が違ってきます。蒸気機関車が市街地で煙を上げれば公害になるからです。

終点で方向転換、なんと人力で

 こうした理由で蒸気機関車としての復活は断念されました。しかし、可能な限り明治時代の「坊っちゃん列車」を再現する方向性で2001(平成13)年に登場したのが、機関車D1形(1888年製造の甲1形1号機関車がモデル)と、客車ハ1形(同年製造のハ-1形2両がモデル)です。さらに翌年、機関車D2形(1908年製造の甲5形14号機関車がモデル)と客車ハ31形(1911年製造のハ-31形がモデル)が登場し、2022年現在は2編成体制となっています。

 環境に配慮して、機関車の動力はディーゼルエンジンですが、水蒸気による発煙装置で、煙突からはダミーの煙が出ます。機関車の動力音も車外スピーカーで鳴らすため、見る人が詳しくなければ、本物の蒸気機関車と感じられるほどの完成度です。

 博物館明治村(愛知県犬山市)で、本物の明治時代の汽車に乗車した筆者(安藤昌季:乗りものライター)ですが、「坊っちゃん列車」について少なくとも外見は、客車のクッションがない木製座席の座り心地も含めて「ほぼ再現されている」と感じました。全国各地に「レトロ風新型車両」が存在しますが、オリジナル車両に対する再現度は高いでしょう。

 なお「坊っちゃん列車」には運転士や車掌が乗務していますが、その制服も明治時代の伊予鉄道創業時のものを復元しているという凝りようです。

 ところで、松山市内線は一般的な路面電車が走行する電化路線ですから、蒸気機関車が方向転換する際に用いるターンテーブルは存在しません。では「坊っちゃん列車」はどのように向きを変えるのでしょうか。

 終着駅に着くと、まず機関車から客車を切り離して、機関車を2本の線路をつなぐ渡り線に移動させます。そこで機関車に装備された油圧ジャッキで車体を持ち上げ、人力で本体上部を回転させて方向を変え、折り返し運行するための線路に移動します。同じく客車も人力で渡り線を通して移動させ、機関車と再連結するのです。

「坊っちゃん列車」は道後温泉〜松山市間を1日3往復、道後温泉〜JR松山駅前・古町間を1日1往復しています。乗車には大人1300円、子ども650円の乗車料金が必要です。

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