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観光列車に頼りすぎた? 赤字深刻のJR木次線どうなる 観光客で盛況も「足」にはならず

  • 2022年4月25日
  • 乗りものニュース

JR西日本が公表した情報開示の中で、観光列車「奥出雲おろち号」が走る木次線の営業成績の低迷が顕著です。現時点でも地域移動のほとんどの役目をバスが担っているなど、厳しい状況が伺えます。

「奥出雲おろち号」が人気の木次線、岐路に立たされた現在

 島根県の宍道湖沿いから奥出雲へ分け入るローカル線・JR木次線は、その眺めの良さから、1998(平成10)年に運行を開始した観光列車「奥出雲おろち号」が人気を博しています。出雲坂根駅〜三井野原間のスイッチバックで約100mの高低差をクリアする際の眺望が素晴らしく、運行日が限られているにもかかわらず年間利用者は約1万人強。コロナ禍で半数以下に落ち込んでも2021年には1万人台を回復するなど、「何度も訪れるリピーターが多い」という人気の根強さが伺えます。

 しかし、2022年4月にJR西日本から公表された資料「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」では、木次線の営業成績の厳しさが浮き彫りとなりました。なかでも広島県境の山脈を越える出雲横田〜備後落合間の営業係数(100円の収益にかかる費用)は6596、収支率は1.4%と、公表された30線区のうちワースト2位。山陰本線と接続する宍道〜出雲横田間は幾分良いものの、営業係数1323、収支率7.6%と、こちらも危機感を抱かざるを得ない状況です(数値はいずれも2017〜2019年。コロナ後はより悪化している)。

 JR西日本では今回の情報開示で、輸送密度(1kmあたりの1日の輸送人員)が2000人を下回る30線区について、「上下分離」(自治体などが資産を買い取り、鉄道会社は運行だけを担う)やバス路線への転換などを話し合う意向を示しています。木次線もその中に含まれ、沿線地域である松江市、雲南市、奥出雲町、広島県庄原市も、今後の公共交通計画について方針の策定などを迫られています。

 かつて広島〜松江間の夜行急行「ちどり」が走り抜け、山陰・山陽地方を結ぶ「陰陽連絡線」としての役割を果たしてきた木次線ですが、この約30年間で乗客数が3分の1から10分の1にまで減少しています。その背景にあるのは、地域の過疎化だけではありません。

 並行する道路とバス路線で実際に移動してみても、すでに鉄道の役割の薄さが否めなくなっていることを感じさせます。

通学利用は実質バス一択? 木次線と並行路線バス

 木次線の中でも営業成績が低迷している出雲横田〜備後落合間のうち、島根県側の奥出雲町では鉄道と国道314号がほぼぴったりと並走しています。その道路上で運行されているバス路線(奥出雲交通 八川線)が、すでに地域輸送のメインの役割を果たしているのです。

 奥出雲町のほぼ南端にあたる三井野原地区から、旧・横田町の中心部である横田地区への移動で見てみましょう。木次線の出雲横田方面への始発は三井野原駅発が9時46分、帰りの出雲横田発の最終が15時52分発、途中駅は出雲坂根、八川の2駅のみです。学生の登校時間には運行がありません。

 かたやバスの始発便は三井野原駅前を7時34分に発車し、途中の停留所は20か所。横田地区では駅から離れた中学校や高校を経由しています。また木次線の途中駅2駅から数歩の場所に「出雲坂根駅前」「八川駅前」バス停があり、いずれも朝には3、4人の乗車が見られました。なお帰りの横田発のバスも鉄道線より2時間近く遅めに設定されており、学生の帰宅時間もカバーしています。

 所要時間も鉄道は40〜60分ですが、バス30分少々です。かつて国道は、坂根地区から三井野原地区までの2kmで約100mという標高差がネックとなっていましたが、7つの橋と2つのトンネルからなる「奥出雲おろちループ」が1992(平成4)年に完成し、道路事情が一挙に改善されました。一方で鉄道は2か所のスイッチバックでゆっくりと標高差をクリアするため、どうしても所要時間がかかってしまうのです。

 なお「奥出雲おろち号」は運行上のネックを逆手にとり、徐行制限をゆっくりと景色を眺める時間としたり、列車の交換(すれ違い)による長時間停車を物品販売の時間に当てたりと、魅力アップに最大限活かしています。

 また広島県側ではかつて、庄原市の中心部などへの通学のため、平日朝に油木〜備後落合間の1区間のみの運転が行われていました。しかし現在ではこの便の運行はなく、西城交通のバス路線(油木線)がカバーしています。

 このほか横田地区から東隣の鳥取県日南町に通じる県道には、奥出雲交の阿比縁(あびれ)行きバスが運行され、日南町営バスに乗り継ぎ、さらに生山駅で特急「やくも」に乗り継ぐダイヤも設定されています。沿線から岡山・大阪に出る際、木次線で宍道や松江へ出ずに短絡できるルートとして、地元ではよく使われているのだとか。

 出雲横田〜備後落合間は両県側とも、学生の通学に必要な時間にはバスの運行しかなく、鉄道は既に地域輸送の役目をほぼ果たしていないと言っていいでしょう。

地域のメリット=鉄道会社のメリットとは限らない? 交通維持の役目は地元自治体へ

 木次線の沿線自治体は、これまで最大級の観光資源である「奥出雲おろち号」のために、物品販売や地域総出の熱烈な出迎えなどの協力を行ってきました。しかし、利用促進の施策は複数名で県内外から木次線を利用する際の移動費の助成など、その多くは観光客の呼び込みに重点を置いたものです。

 島根県雲南市、奥出雲町や広島県庄原市にとって、この列車は宿泊客・団体客を呼び込み、他の観光地に回遊させるための欠かせない手段でもあり、リピーターの中には“地域のファン”に変化し、ふるさと納税などでさらに支援をする人も少なくありません。しかしツアーバスからの乗り継ぎも多いこの列車は、必ずしもJR西日本にとってメリットが大きいものではなかったのではないでしょうか。

 同社は新型コロナウイルスの影響で2000億円以上の単年赤字に転落、早急に経営の見直しを迫られ、かつ「奥出雲おろち号」は以前からの話し合いで、車両老朽化のため2022年内での運行終了が決定しています。木次線の沿線自治体が今後どのような策をとっていくから現時点ではまだ不明ですが、今回の情報公開は地元の意思と関係なく、交通の担い手が鉄道会社(JR西日本)主導から自治体・地元主導に転換するきっかけとなるでしょう。

 たとえば奥出雲町では高齢化率(65歳以上の人口比)が近年4割を超え、交通事故・重大事故のすべてに高齢者が絡むなど、誰もが他人事ではない状況です。木次線が鉄道としての本来の役割を果たせなくなっているなか、バスやタクシーを維持するための対策も併せて求められています。

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