東京の山の手と多摩のあいだに、20kmもの距離をほぼ直線で結んでいる道路があります。ただ半分はクルマが通れない「自転車歩行者道」です。直線区間はなぜ生まれ、なぜ性質が分かれたのでしょうか。
東京で長い直線の道路は案外少ないものです。鉄道では中央線の中野付近から立川付近まで、約23kmもの直線区間が知られますが、これも敷設されたのが明治時代だったからこそ生まれたものでしょう。
そんな東京に、ほぼ直線が20kmものあいだ続く道路があります。ただし、その中間付近で2路線に分かれ、性質を異にしています。
ひとつは、都道の「井の頭通り」です。渋谷センター街付近を起点に北西へ延びる道路で、甲州街道(国道20号)を越え杉並区内に入ると、そこからほぼ直線となります。吉祥寺駅前をすぎ、千川上水にぶつかる関前5丁目交差点(武蔵野市と西東京市の境目)が終点です。
ここから先は、井の頭通りよりもずっと小さな道になりますが、都道253号に指定されている「多摩湖自転車歩行者道」が続いています。その名の通りクルマは通れず、住宅街にある遊歩道の趣で、花小金井から先は西武新宿線の南側に並行します。小平駅前の一部区間はクルマも通行可能です。
自転車歩行者道はさらに続き、萩山駅前からは西武多摩湖線にピタリと並行。やがて右へ進路を変える西武多摩湖線をアンダーパスし、武蔵大和駅西交差点に出ます。
井の頭通りも含め約20km続いた直線的な区間は、この付近で終了。ここから先は上り坂となり、東京の水がめである多摩湖(村山貯水池)の外周を回り込むようになります。
多摩湖自転車歩行者道はサイクリストの間でも人気のルートのひとつですが、仮にここもクルマが通れれば、都心と北多摩の主要地域を貫く好アクセス路となっていたかもしれません。なぜこれほどまっすぐな道が生まれ、2つの路線で性質が分かれたのでしょうか。
2つの道路がほぼ直線である理由、それは、地下を通る水道管に沿っているからです。東京都水道局は、次のように話します。
「井の頭通りは、境浄水場(武蔵野市)から和田堀給水所(世田谷区)まで、きれいな水を送る送水管の上にあります。対して多摩湖自転車歩行者道の地下には、ダム(多摩湖)からの原水を境浄水場まで送る導水管が通っています」
これら水道施設は大正時代に整備されたもの。境浄水場と和田堀給水所を結ぶ送水管はクルマも通れるよう補強され、井の頭通りの愛称がつきましたが、かつては「水道道路」と呼ばれていました。なお、和田堀給水所から渋谷までは、戦後に井の頭通りへ編入された区間です。
対して、多摩湖から境浄水場までを結ぶ導水管上の多摩湖自転車歩行者道は、境からの送水管よりも「地表から浅いところを通っているため、自転車道として整備されたのでは」とのこと。この道路はほぼ平坦ではあるものの、外側から見ると、築堤で高さを稼いでいる箇所もあるので、送水管の埋設位置が浅いというのも頷けるところです。
こうした水道道路は、クルマが通れるところも、水道管への影響を考慮して重量制限などが敷かれていることがあります。杉並区から世田谷区まで「荒玉水道」の上を通る直線道路「荒玉水道道路」も、通行車両がかなり制限されています。
ちなみに、井の頭通りは和田堀給水所を避けるようなルートになっていますが、2022年現在、給水所の敷地を貫くルートへの付け替え工事が行われています。すぐそばを通る京王線の高架化工事も進行中で、将来的に風景が大きく変わりそうです。