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道路になっていた「JR肥薩線」 鉄道信号の下を走るトラック 豪雨災害から復旧への遠い道のり

  • 2022年1月19日
  • 乗りものニュース

2020年7月の豪雨被害から運休が続くJR肥薩線では、被災した線路のうち数か所が仮設道路に改修されています。人吉で接続するくま川鉄道が部分復旧を果たした後も、なかなか今後が見通せない肥薩線の現状を見てみましょう。

鉄道信号の下をトラックが走る 肥薩線はいま仮設道路に

 豪雨災害で壊滅的な被害を被った九州のJR肥薩線、その一部はいま、「道路」になっています。

 熊本県南部と鹿児島県を山間部経由で結ぶ肥薩線(八代〜人吉〜吉松〜隼人)は、2020年7月にこの地を襲った豪雨と球磨川の氾濫で大きな被害を受け、2022年1月現在も全線の3分の2にあたる八代〜吉松間で運休が続いています。被害は全体で450か所にものぼり、特に“川線“と呼ばれる八代〜人吉間では、球磨川を渡る鉄橋4本のうち3本が落橋するなど、依然として復旧の見通しが立っていません。また運行システムが集中していた人吉駅の被災もあり、比較的被害が少なかった“山線”こと人吉〜吉松間の運休も続く見込みです。

「令和2年7月豪雨」と呼ばれる今回の災害は、鉄道のみならず、球磨川沿いに並行する国道219号や周辺の道路にも甚大な被害を及ぼしました。落橋した10本の道路橋も未だに4本しか復旧できていない状況の中で、川沿いの道路を緊急で啓開(応急処置としての道路復旧)する必要があり、肥薩線の軌道敷を仮設道路として活用する箇所が増えているのです。

 八代市坂本地区では、坂本〜葉木間の単線の線路上にアスファルト舗装を施し、トラックなどを通す道路として活用しています。並行する市道は路肩の崩落などで通行できない箇所もあり、今やこの道路は球磨川沿いの地区を結ぶ重要な存在です。

 この道路には、市街地の高台移転・道路復旧のための工事車両が多く通行し、一見するとここが線路であったことは想像がつきません。普通の道路と少し違うことといえば、トラックが走り抜ける頭上に、通電していない鉄道用の信号がそのまま残っていることでしょうか。

 また、観光列車や特急列車の停車駅・列車交換駅として機能していた白石駅(熊本県芦北町)は、構内の広い敷地がそのまま作業車用の道路となっています。周囲にはブルドーザーやロードローラー(道路の基礎部を固める車両)が見られ、周辺道路の復旧を進めるための基地としての役割も果たしているようです。

道路転用されていない箇所は手付かず

 一方、仮設道路に転用されていない肥薩線の線路・軌道敷は、波打つように曲がったレールや、基礎部が流失した路盤が手付かずのまま残っています。築堤が崩壊した箇所では、地中のケーブルが引きちぎられた断面を晒したまま残されている場所もあり、工具を持つ地元の有志が尖った部分を切断したそうです。

 鉄道と並行する国道219号も多くの区間が許可車両しか通行できず、外部から乗り入れた車両が球磨川ぞいを移動することはとても困難です。また通行可能な場所も路肩がひび割れ、柵が張られるなど以前のように通行できる状態ではありません。

くま川鉄道は復旧したのに JR九州、重い負担

 球磨川沿いの熊本県八代市、球磨村、芦北町、人吉市は、令和2年7月豪雨による道路・鉄道の被害が集中しました。うち道路に関しては、国道219号に加えて熊本県道も含めた約100Kmの災害復旧事業を国が代行しています。実はこの地方を災害が襲う2週間前(2020年6月20日)に、被災地の県道を国が代行して復旧できる「権限代行制度」を盛り込んだ道路法の改正が施行されたばかり。今回の災害復旧は図らずも適用第1号となりました。

 しかし鉄道は、現在のところ復旧の動きを見せておらず、JR九州の青柳俊彦社長も、復旧について厳しい見通しを出しています。

 その要因として、2021年に部分復旧を果たした「くま川鉄道」と同じスキーム(枠組み)を使えない事情があります。くま川鉄道の場合は、「過去3年間の事業者の経常損失」などの条件を持つ「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助」という枠組みによって、費用のほとんどを国・自治体で賄うことができました。しかしJR九州はコロナ後も短年黒字を確保しているため、「鉄道軌道整備法」により国と自治体からの補助を受けられても、補助額は復旧費用の4分の1です。

 JR九州の重い負担も復旧を阻む要因になっています。2016年の熊本地震から多くの区間で運休が続いていた豊肥線は、2018年に改正施行されたこの枠組みに基づき、約50億円の復旧費用を国・自治体とJR九州が折半する形で全線復旧を果たしました。しかし肥薩線の場合、復旧にかかる費用が100億円を超えることが確実視され、折半したとしてもJR九州単独で対応できるものではありません。

復旧してもそこに集落はない?

 さらに、八代〜人吉間では、堤防を川のより外側に作る「引堤」と呼ばれるような治水対策も検討され、多くの利用客で賑わっていた八代市坂本地区などの集落の高台移転も進行中です。もともとの場所に肥薩線を復旧してもそこに集落はなく、年間300万人の観光客の呼び水として機能していた観光列車も、渓谷美の車窓が大きく変わることで、そのあり方が変わってくるでしょう。

 もともと観光列車以外の日常利用は少なく、現在の代行輸送も一部区間(人吉〜一勝地、八代〜坂本)を1日3往復のタクシー代行でカバーできています。この現状は、復旧を果たした豊肥線、くま川鉄道より厳しいと言わざるを得ません。

 肥薩線の“川線”沿線では鉄道は運休、国道219号も通行に大きな制約がかかっていることもあり、2022年1月現在では九州道 八代IC〜人吉IC間の通行料を無料とする措置がとられています。しかし、この高速道路は鉄道・国道とは30km以上離れたルートをたどり、途中のICもありません。人吉〜八代間の通学に関わる高速バスの費用が約5倍になっている(通学定期の設定がない)という問題はありますが、2都市間の移動だけで見れば、当面カバーできていると言っていいでしょう。

 しかし肥薩線・国道219号周辺の4自治体にとっては、通学・通院などの日常利用に支障をきたし、路線バス網も10年ほど前に大幅に縮小しているため、まず隣町への身近な移動ができる道路の啓開・復旧が急がれています。平行道路はひと目見てわかるほど路肩の損傷が激しく、通行可能な道路幅が狭くなり、ワゴン車の走行にも支障をきたす場所も多々見られます。

 肥薩線の路盤を活用した仮設道路は、八代〜人吉間で今後さらに整備される見込みです。この後も同様の動きが続くのではないでしょうか。

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