サイト内
ウェブ

宇宙の食事はかなり豊か! 宗教食も対応 スペースからあげくん? 野口宇宙飛行士に聞く

  • 2021年10月28日
  • 乗りものニュース

国際宇宙ステーションには、各国から国籍・宗教・年齢・性別バラバラのメンバーが集まります。長期滞在の場合、閉鎖空間で半年ほどにもなるため、大きな楽しみの一つが飲食。最新の宇宙食事情を野口聡一宇宙飛行士に聞きました。

「食は文化なり」国際交流の一環にも

 飲食は個人の好みや属する文化が色濃く出る部分です。同じ場所でずっと過ごすことになると大きな楽しみになりますし、それが地上と変わらないものだったら一層楽しみが増します。現在のISS(国際宇宙ステーション)の食事ではどうなっているのでしょうか。約6か月のISS滞在を終えた野口宇宙飛行士は、実感を込めて語ってくれました。

――宇宙における食べ物の話をお聞きします。ISSには各国から宇宙飛行士が来ていますが、皆さん郷土料理を持ってきたりするのでしょうか。

野口:日本製宇宙食そのものが、日本の郷土料理ですよね。ですから、各国にあります。たとえばヨーロッパの宇宙飛行士さんが来られている時にはヨーロッパ製の宇宙食が送られてきます。フランスなんかはけっこうオシャレな料理でした。アメリカはバーベキューなどが送られてきます。

「食は文化」といいますが、確かにそれこそ各国最大の文化紹介と国際交流の場だと思います。ISSの食卓で「今日は日本食出すから」とか、「今日は○○料理の日ね」みたいに声をかけあって、たとえばロシア料理の日ならロシア人が料理を持ってきてくれる。そういう感じで、仕事が終わってリラックスしながら、それぞれの国の話などをしています。

 すると、アメリカ人などが、たとえば宇宙日本食を食べながら「日本に訓練に行ったときにつくばの駅前(※)でこれ食べた!」と言えば、そこから色々と話も弾んでいきます。

(※:この駅は、つくばエクスプレスのつくば駅のことです。日本の宇宙飛行士訓練は茨城県つくば市の筑波宇宙センターを拠点に行われています)

――皆さんが楽しげに食事をしている様子が目に浮かびます。さて、文化のなかには信仰も含まれると思いますが、それに関連する「食のタブー」も気になります。たとえば、イスラム教の宇宙飛行士がISSに行くときは、ハラル食(イスラム教の戒律によって摂取することが許された食品)を持っていくこともあるのでしょうか?

野口:そうですね。実際に2019年にUAE(アラブ首長国連邦)の宇宙飛行士がISSに来ましたが、彼の宇宙食はハラル認証を受けていましたね。

――そのあたりは客観的に対応できるんですね。文化として。

野口:そうですね、本当に「食は文化」です。

宇宙食に必須の条件とは

 宇宙食は、文字通り宇宙空間で人が飲食するものです。1960年代に宇宙滞在が実現したことで開発が始まりました。

 世界で初めて宇宙において食事をしたのは、旧ソ連のゲルマン・チトフ宇宙飛行士で、1961(昭和35)年8月の「ボストーク2号」でのこと。このとき口にしたのは、チューブに詰められたペースト状の食品でした。続く1962(昭和36)年、アメリカのジョン・グレン宇宙飛行士が「フレンドシップ7」で、アメリカ人として始めて宇宙食を食べています。以降、宇宙食の開発と改良は米ソ(現ロシア)二国で行われてきました。2003(平成15)年まで、宇宙に人を送ることができていたのは両国だけだったことを考えれば、当然の流れといえるでしょう。

 宇宙食に求められる要素は、大きく4つあります。

・容器や包装が難燃で安全であること。
・常温で少なくとも1年半の保存が可能なこと。
・衛生性が高いこと。
・食べる際に危険因が発生しないこと。

 これらを満たした上で食感や味などが追及されます。ひところのジョークで、不味い食事を「宇宙食のようだ」と例えるようなことがありましたが、それは初期の宇宙食のイメージだといえるでしょう。

 現在の宇宙食は、フリーズドライ、レトルト、缶詰などの発達によって格段においしくなっています。また、時折来る補給船によって、新鮮な野菜や果物も食べられるほどになりました。

 宇宙食には一般食(レギュラー食)と特別食(ボーナス食)という区分があります。一般食はいわば常設メニューにあたり、どのミッションでも採用されることが前提です。アメリカとロシアがそれぞれ開発していました。特別食は、ミッションに参加する宇宙飛行士の要望によってその都度選ばれるもので、短期間での消費を前提にしており、審査基準は一般食よりゆるくなっています。

 一般食の位置づけは、2004(平成16)年11月にISSにおける宇宙食を供給するための基準文書「ISS FOOD PLAN」が整備され、ISS計画の国際パートナーに加盟する各国が、個々に宇宙食を供給できるようになったことで大きく変わりました。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙日本食はこの基準に則って認証されており、日本人が参加しないミッションでも要望があれば供給が可能とのことです。

宇宙で持ち込み可能な「日本の味」

 JAXAによる宇宙日本食の認証は、2007(平成19)年から始まっており、2021年9月現在で26社・団体の47品目が認められています。内容はレトルト食品、缶詰、粉末飲料、菓子、調味料など多岐にわたり、いずれもパッケージこそ宇宙規格の専用品であるものの、中身は市販品と同じか、宇宙用に少し工夫を加えたものになっています。

 たとえば市販品そのままのものだと、大塚製薬のカロリーメイト(チーズ味)が挙げられます。これは宇宙日本食では「バランス栄養食ブロックタイプ(チーズ味)」という名称で認証されています。

 市販品をベースに工夫をした例では、理研ビタミンのわかめスープや、ローソンの「からあげクン」、ハウス食品のレトルトカレー3種などがあります。

 わかめスープは、吸い口につまらないように市販品よりわかめを細かくしており、「からあげクン」はフリーズドライ化、レトルトカレー3種は味付けを濃くするといった仕様変更が施されているとのこと。なお、宇宙日本食としての名称は、それぞれ「わかめスープ」「スペースからあげクン」「レトルトポークカレー」「同ビーフカレー」「同チキンカレー」となっているそうです。

 他国・機関でも、その国の料理を宇宙食として用意しています。野口飛行士も「食は文化」というように、普段から食べているものやその国を象徴するような食べ物というのは、自分で食べれば故郷を懐かしみ、他国の飛行士と分け合えば話題作りになります。ともすれば単調になる宇宙の暮らしにおいては、身体だけでなく心の栄養にもなるものです。

 ただ、自国の料理を持っていく試みのなかには、苦労がしのばれる品物もあります。

各国の驚きの宇宙グルメ事情

 2021年9月現在、ISSに滞在しているフランスのトマ・ペスケ宇宙飛行士が持っていった牛肉の煮込み料理の缶詰では、添えられているソースにワインを使っているのが問題になりました。ISSではお酒は飲めませんし、アルコール分を含む宇宙食も禁止されています。よって、調理後に回転式蒸発器でアルコール分を飛ばし、さらにその後、核磁気共鳴装置による検査を行い、厳重に残留アルコールがないか調べて缶詰にしたとのこと。驚くほどの念の入れようです。

 2017年には、イタリア人宇宙飛行士のリクエストに応えて、ピザの材料が特別食としてISSに送られた、ということもありました。ただ、さすがにISSにピザ焼き窯はないため、市販品の生地と具を送り、ISSでは上に具を乗せ、チーズやケチャップをかける程度の調理だったようです。好評だったのか、2021年夏にも再度送られています。

 こうした食文化を宇宙食にして持っていく際には、宗教的事情への対応も考えなければなりません。イスラム教、ユダヤ教をはじめ食べ物への戒律を持つ宗教は多いからです。

 前出の野口宇宙飛行士のコメントに、イスラム教徒の宇宙飛行士がISSに滞在していた時にハラルの食品が持ち込まれたというのがありましたが、ユダヤ教にも対応した例があります。イスラエル初となったイラン・ラモン宇宙飛行士がスペースシャトルでISSを訪れた際、宇宙食をすべてユダヤ教の食事規定であるカシュルートに則ったものにしています。

 現在、アルテミス計画によって再び月へ、そして火星有人探査への道が切り開かれつつあります。宇宙へ行く人間はより多く必要とされ、そこにはさまざまな国や宗教の人々が関わることになるでしょう。

 人間である以上、飲食は欠かせないものであることから、味や食感の進化とともに、個別の思想信条にどう対応していくのか、これからの宇宙食の進化と広がりが気になります。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright © 2022 mediavague Co., ltd.