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葛飾区「新金線の旅客化」本当に可能? 貨物線の旅客転用は課題山積 現地で感じた「壁」

  • 2021年2月20日
  • 乗りものニュース

葛飾区を南北に貫く貨物線「新金線」を、旅客鉄道として活用する構想が進んでいます。川に分断され南北の道路が貧弱な沿線にとっては悲願ですが、周囲の踏切や再開発の事情があり、実現は容易ではありません。

貨物線をLRTに

 東京都葛飾区が、区内を南北に貫きJR総武線と常磐線をつなぐ「新金(しんきん)貨物線」を旅客鉄道として活用すべく検討を進めています。武蔵野線や京葉線などの開通後に列車の運行が少なくなっていることから、短い駅間で気軽に乗れるLRT(ライトレールトランジット)として整備する計画です。

 新小岩〜金町間の7.1kmを7駅設置案なら17分、10駅設置案なら22分で結ぶという計画で、葛飾区は交通政策課の中に専任担当を置き、周辺整備のために今後100億円を目標に積み立てを行う予定です。また区議会でも与野党問わず、会派ぐるみでの賛成や「実現を目指す」と明言する向きも多く、行政視察の行き先もLRTの活用が進む富山県が選ばれるなど、活発な動きを見せています。

 しかし都営大江戸線や多摩都市モノレールの延伸などを積極的に進めている東京都としては、この旅客化は特に優先されていないようです。にもかかわらず葛飾区は、なぜそこまで「新金線の旅客化」にこだわっているのでしょうか。その背景には新金線沿線地域の交通事情があります。沿線を路線バスと徒歩でこまめにたどってみました。

南北移動のバスはとにかく時間がかかる

 葛飾区内には、京成バスや京成タウンバスなどのバス路線網がきめ細かく展開されており、なかでも南北に移動するバス路線の代表格としては京成タウンバスの小55系統(金町駅〜柴又〜小岩駅)が挙げられます。映画『男はつらいよ』でお馴染みの柴又帝釈天(題経寺)を経由することもあって数分に1本の高頻度で運転されていますが、新金線沿線からは離れています。

 他方、新金線の新駅設置が予定されている細田、高砂、奥戸をカバーする京成タウンバスの小54系統(亀有駅〜京成高砂駅〜京成小岩駅)は、直線なら4kmほどの距離を50分かけて進むため、たまに運転手の方から「この系統は時間がかかります、よろしいですか?」と確認が入るほどにクネクネとしたコースを進みます。

バスにとって最大のネックは京成高砂駅

 ふたつの地域の決定的な違いは「南北の幹線道路」の存在で、柴又街道をまっすぐ南下できる小55系統沿線の地域と違って、小54系統の新金線沿線は混雑の激しい生活道路ばかり。バスも大型車両の導入などができず、あまり効率的でない運営を余儀なくされます。

 また小54系統のバスの運行上で大きなネックとなっているのが、京成系3路線が交わる京成高砂駅の東側にある「高砂1号踏切」です。周囲には大型商業施設や商店街もあり、クルマも歩行者も多い場所ですが、この踏切は1時間のうち通行可能な時間が20分弱ということも。さらに、駅のすぐ東側には京成の高砂検車区があり、この移転も相当な時間を要す見通しで、高架化による踏切解消の見通しが立っていません。

 これに対して新金線は地域内で唯一、「南北にすんなり通れる」存在となり、京成本線の下を立体交差で抜けるため、踏切や周辺の渋滞・道路事情に左右されないのが強みとなるでしょう。

 なお社会実験として金町駅〜新小岩駅間で運行されている新金01系統(京成バス、京成タウンバス共同運行)は、新金線沿いとは一部異なるルートを走るものの、運行開始後には1便あたりの乗客が平均23人を記録するなど、動線に一定の需要があることを示しました。また新金線の南側にあたる細田、奥戸地区から新小岩駅方面へのバス路線「細02系統」も2021年2月から運行が開始され、その成否が注目されます。

容易ではない新金線の旅客化 2つの大課題

 一方で、新金線の旅客化には大きな課題があります。そのひとつは「新宿(にいじゅく)踏切の扱い」です。

 金町駅から1kmほど南西にあり水戸街道(国道6号)を横切る新宿踏切(正式には新宿新道踏切)近辺は、1日7万台近くのクルマが通過し、ラジオの交通情報で「水戸街道は葛飾区の新宿踏切を先頭に渋滞」というフレーズがしばしば聴かれるほどです。

 現在この踏切は、渋滞を防ぐため、列車が走らない時は踏切手前側の信号に従って一時停止せず通過、貨物列車通過の際は遮断機と踏切に従う、ということになっています。この踏切に1時間4〜6本の旅客列車を通す場合、区は、「国道を赤信号にしたあと、最短サイクル35秒内に(鉄道)車両を通過させる」という道路優先の運用で、国道との平面交差ができるとしています。

 しかし、旅客列車だけではなく貨物列車も運行されるとなると、おなじ踏切で道路との平面交差に規定がない「軌道法」と、現行の貨物線運用の「鉄道事業法」が同居することになります。

「旅客列車は軌道法で平面交差OK、貨物線の踏切はもともとあるので立体交差せずOK」という解釈特例が認められるのか、また踏切が新規の扱いになった場合は、原則で新規の平面交差を認めていない「道路法」などの兼ね合いをどうするのか、など問題は山積みです。
そもそも1日80往復以上の旅客列車の中に1日数本、通過速度も違う貨物列車が入ることで信号サイクルが維持できるのかという問題もあり、国道の渋滞にも影響を及ぼす可能性があります。

 旅客化の壁となる、もうひとつの問題が、「京成高砂駅の接続」です。

 京成高砂駅は新金線から500mほど距離があり、乗り換えの利便性に疑問符が付きます。現在は「新宿踏切を通らずに新金線から京成高砂駅へ新線を引き込み、新小岩〜京成高砂間を暫定開業、京成金町線へ接続」というプランもありますが、この500m間はぎっしりと住宅が続き、工事の難航が予想されます。

 また、このプランで考慮されている京成金町線(京成高砂〜京成金町)は、京成高砂駅周辺ですでに高架化されているため、乗り換えもどのような形になるかも不透明です。

地元も一枚岩ではない? どことなく「タテワリの壁」が…

 京成高砂駅に関しては「いつ始まるかわからない京成本線などの立体交差化とどう兼ね合いを取るか」という問題もあり、新金線の旅客化に向けた動きが、周辺地域の都市計画とあまり連携していないようにも見えます。同駅近辺では、京成本線などの高架化と車庫移転を前提とした「高砂駅周辺まちづくりプラン」が進んでいますが、新金線の旅客化については触れられてすらいません。

 また新宿踏切に関しても、葛飾区は長らく「旅客化した際も新宿踏切は平面交差」という案で検討していますが、踏切周辺で行われている水戸街道の拡幅・高架化事業(「新宿拡幅」2025年度完成予定)では、JR東日本と行われた協議をもとに「新金線側の高架化を待つ」とされています。この事業で中川大橋から新宿踏切近辺まで設置される予定の、国道の高架を数百m延伸すれば平面交差自体が解消されるのですが、直近の葛飾区議会による議論でも従来の姿勢は変わっていません。

 現在のところ、新金線の旅客化は「検討中」のまま長い時間だけが経ち、まちづくりや道路事業とはうっすらと縦割りの壁が感じられます。そうしたなか、開業は2030年度を想定しているため、それに向けて諸問題を整理していかないと、沿線やほかの事業者も動けないのではないでしょうか。

なぜそこまで新金線の旅客化にこだわるのか?

 新金線の旅客化が検討される背景には、葛飾区独特の事情もあります。葛飾区は地元の子どもたちが授業で使う「かつしか郷土かるた」でも、「いくつもの 川が流れる 水のまち」と詠まれるほど川の多い地です。新金線の1km少々西側にあり路線バスの運行も多い環七通りとの間には中川と新中川(中川の放水路)が分岐しながら流れています。

 バスの運行も多い環七沿いと違って、周囲を川や狭隘な住宅街に挟まれた新金線沿いは、ことのほか区内のちょっとした移動の効率がよくないのです。環七沿いと新金線沿線はもともと地続きの隣町でしたが、戦後に拡張・新設された川や放水路で分断、かつ道路の整備も進まないまま住宅で埋め尽くされ、移動の利便性で差がついてしまった経緯があります。

 こうしたことから、新金線の沿線は葛飾区のなかでも高齢化率が高い地区が連なっており、移動に困る人が今後増えると見込まれているのです。新金線の旅客化は、その課題を一挙に解消する手段として注目されています。

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