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サルスベリ

  • 2017年9月6日
  • 植物生活

いつもより、少しだけ夜更かしをした祭りの帰り道。
神社から10分も歩くと行き交う人々がまばらになる。
地元に1件しかない小さいスーパーを左に曲がり、ほとんど車の通らない細い路を歩く。
そして家までの最後の角を曲がる。
いつもどおり我が家のサルスベリの大木が目に入る。
家屋もまばらなこの集落の普段は真っ暗な夜の空に、8月の間だけ白く浮かび上がる花。
大きく伸ばした枝先が徐々にしなるほど、小さな花がたっぷりと咲きゆく様は、子どもながらにも心惹かれるし、きっとそこが気に入っていて偏屈な父親もとても大切にしているのだと思う。
居間の灯りが点いている。
母親は友人と婦人会の集りに出掛けたので父親だろう。
父親は人混みの苦手だ。祭になど出掛ける訳がない。
家まであと10m。
忘れようとしていた祭での出来事が蘇り、わあああぁっと大声をあげて履いていたサンダルを脱ぎ捨てた。
祭りで出くわせた同じクラスのユウスケとサチ。仲睦まじく並んで歩いていた。
肩からはお揃いのポーチを下げ、そこにはお揃いの缶バッチまでつけていた。
経験したことない哀しみに、心は一瞬に打ち砕かれた。足がこわばって動けなかった。無理にでも踏み出せば体のバランスを崩し、粉々になってしまいそうだった。
ほんの1時間前の出来事を何度も何度も思いだす。
投げ捨てたサンダルの方へ歩きだすと、日中の強い日射しに焼かれたアスファルトに残っていた温もりが、2本の足の裏からふくらはぎまでをじんわりと伝い上がって来る。
(気持ちいいな)
すると突然遠くでドンっと底をつくような音がした。
祭りの最後の花火大会が始まった。
いつも土手から見上げる花火の音は、遠くで聞くと害獣避けのガス鉄砲の音のようで味気ない。
空を睨んだ
ぐっとつぶった目からやっぱり涙が溢れて来た。花火を見たかった。
友達とでもいい。一年に一度の夏祭りを最後まで楽しみたかった。
鼻の奥がつんとして涙が止ることなく流れ落ちる。
目を開き空を見上げる。
また遠くでドンっと花火の音が聞こえる。
涙を止めようと暗闇にふーっと大きく息を吐くと、空からパラパラと何かが降って来た。
花火?火の粉?
顔を背けながらも落ちた先を目で追うとそれは白い小さなサルスベリの花だった。
見渡すとあちらこちらに散らばっている。
真っ黒なアスファルトに浮かぶ白い小さなサルスベリの花。
そして見上げた夜空のサルスベリ、そうだ、花火なんだ。
いままで気がつかなかった。
サルスベリの花咲く姿は打ち上げ花火だ。
このサルスベリの大木の枝先が真っ白の花に覆われると間も無く夏が終わる。
でもまだ満開ではない、まだ夏は終わらない。

書いた人
ハナと枝
西新宿の「ハナミドリ」と、西荻窪の「枝屋」。
2つの花屋がひとつとなり「ハナと枝」としてスタートしました。
 

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