おいしい野菜を収穫しながら、良質なタネも採って残したい!そんなちょっと欲張りな家庭菜園を成功させるためには、野菜ごとにコツがあります。ご紹介するピーマン類は熱帯植物で湿気が苦手!風通しと水はけをよくしてタネも野菜もしっかり採りましょう。
ピーマンのタネを採るならこの品種がおすすめ!
●カリフォルニアワンダー
代表的な固定種の大型ピーマン。完熟するとまるで赤いパプリカのよう。
●バナナピーマン
育てやすい中型種。クリーム色、オレンジ、赤と果皮の色の変化が楽しい。
●伏見甘長(ふしみあまなが)とうがらし
京都の伝統野菜の甘味種シシトウで多収穫。
●紫とうがらし
奈良伝統の小型種。紫色の果皮が特徴的で育てやすい。
【改正種苗法について】
農林水産省が「登録品種」として認めた農作物のタネや苗は、開発者の知的財産権の保護のため、その独占的販売権が25年(樹木の場合は30年)認められます。つまり、登録品種の種苗を増やして販売、譲渡することは原則禁止。ただし、家庭菜園での自家消費を目的とした採種は禁じられていません。
ピーマンのタネ採りのポイント
湿気が苦手なピーマン。タネ採りのカギはカビ対策!
◆ポイント1:水はけと風通しのよいところで育てる
熱帯性植物のピーマンは、過湿に弱く、水はけと風通しのよい環境を好みます。
タネを採る場合は長期の栽培に耐えられるよう、とくにピーマン好みの環境を用意し、さらに“垂直自然仕立て”によって樹勢を保たせます。
小型のシシトウやトウガラシから、大型のパプリカまで、辛いものも甘いものもすべてピーマンの仲間で、栽培方法も同じ。ただし、大型のものほど肥沃地を好み、完熟するまでより時間がかかるため、栽培難易度も高くなります。
◆ポイント2:他家受粉率40~50%、ナス科でダントツに交雑する
ピーマンの花は、ほかの個体と交雑しやすい開放的な構造になっています。
他家受粉率は40~50%とされ、他家受粉率10%前後のトマトなど、ほかのナス科と比べて交雑してしまう確率がとても高い野菜です。
トウガラシ、シシトウ、パプリカなど違う種類のピーマンが同じ畑にあれば、ほぼ交雑すると思ってよいでしょう。
交雑を防ぐためには最低50m離すか、プランターで隔離して育てます。
◆ポイント3:タネが完成するまで開花から60日かかる!
通常、ピーマンは開花から20日ほどで収穫できますが、緑色のピーマンは未熟果。
つまり、スーパーで売っている状態のピーマンのタネには、発芽能力がありません。
ピーマンの果実が完熟するのは、開花からなんと60日後!完熟すると果実が赤色やオレンジ色になります。
つまり、タネ採りをする場合は、果実が完熟するまでの期間、病虫害のない健康な状態を維持する必要があります。
◆ポイント4:ナス科で唯一、空洞の果実をもつ理由
ピーマンの果実は、ナス科で唯一空洞です。その理由は、もっとも湿気を嫌う野菜だからです。
雨が多い天候や水はけが悪いところでは、果実が熟す前に傷んでカビが生えることもよくあります。
つまり、ピーマンのタネ採りの最大のコツは、果実を完熟させるまで樹勢を維持しつつ、カビを発生させないこと。
タネ採り後は、カビを生やさないよう徹底的に乾燥させる対策をします。
ピーマンのタネ採りのツボ
熱帯性植物のピーマン類は湿気が苦手なうえ、根張りが弱く、一定の水分が欲しい野菜。
通常は開花から20日ほどで収穫できますが、緑色の実は未熟果。果実が赤やオレンジ色に完熟し、タネが成熟するまでには、開花から約2か月もかかります。
その期間、過湿と乾燥を繰り返すと株が弱って病虫害が発生したり、採種果が傷んでタネが採れなくなってしまいます。
そこで枝を垂直に縛って誘引し、徐々に開放する「垂直自然仕立て」(下参照)にすると、植物ホルモンが活性化して育ちがよくなり、病虫害にも強くなります。
8月上旬、病虫害のない元気な株の太い枝についた実を採種果に決め、開花から20日はほかの実や花をすべて落として太い1枝に1果で育てます。
よいピーマンのタネが採れる“垂直自然仕立て”
初期から中期は枝を垂直に縛ることで、植物ホルモンの働きが高まり、病虫害に強くなる。
中期以降は縛りを緩め、最後は解放して自然の樹形に近づけ、実の充実を促す。
※道法正徳さんの野菜の垂直仕立て栽培をアレンジした方法です。
★【タネ採り格言】
太い枝をたどって採種果をつけるべし
ピーマンはY字に2本ずつ分枝していく
ピーマンの枝を見ると、Y字に2本ずつ分枝している。
一方は細い枝、もう一方は太い枝となっているので、下から太い枝をたどった場所につく実を採種果にする。
・8月上旬に採種果を選ぶ
開花から20日後、採種果が大きくなったら(緑色の未完熟でOK)、摘花を止めて新しい実をつけさせる。
2個目の採種果をつけてもいい。ただし、大型のパプリカは完熟するまで“1株1果”にする。
・採種果をつけたら、追肥禁止!
米ぬかなど窒素系の追肥をすると実が腐りやすくなる。
採種果は大型のパプリカなら1株2~3個、中型ピーマンなら3~5個、小型ピーマンなら10個程度まで採れる。
小型は樹勢に応じて数個ずつ着果させられる。
目指せ!ピーマンのタネ採り名人【ピーマン類のタネを採るまで】
①栽培開始の1か月前、“ネギ鞍つき”を用意する
栽培開始の1か月前、“ネギ鞍つき”(下参照)をつくる。ネギと一緒に植えることで生長促進、病気予防の効果がある。
ドーム状に土を盛り上げることで排水性が高まり、地温も上がる。
◆“ネギ鞍つき”のつくり方
ひと握りの完熟堆肥(50~100g)を深さ20cmほどの穴に埋め、その上に10cmほどの高さのドーム状に土を盛り上げ、ネギを1~2本植えておく。ネギの根に共生する微生物の働きによって、消毒効果があり、土の団粒化が促進される。
▲植えつけ時は、ネギをいったん抜いて、ピーマンの苗と一緒に植える。
②1条植えで風通しをよくする
ピーマンは、湿気が大敵。とくに採種株は風通しをよくするために株間50~60cmの1条植えにする。
また、ピーマンは中南米原産の熱帯性植物であり、地温15度以下で植えると寒くてダメージを受ける。
最低気温が17度以上になってから、垂直に立てた支柱の南側に植える。
▲植えつけ後は地温を下げないよう、株元を刈り草で覆わず、土を出しておく。梅雨が明けたら株元も刈り草を敷き、湿度と地温を安定させる。
*2種のストチュウ水で優良な実を育てる
1週間から10日、雨が降らなかったら、夕方にストチュウ水を葉の上から夕立のようにたっぷりかける。草勢が復活し、病気予防にも効果的。
8月上旬、採種果をつけたら“カル酢”入りストチュウ水に切り替え、1週間に1度シャワーのように葉面散布する。
土が湿っているときでも、これによって代謝が促進されてシャキッと元気になる。
また、“カル酢”によって、カルシウム不足による採種果の尻腐れを予防できる。
【ストチュウ水のつくり方】
●材料:醸造酢、焼酎、木酢液(竹酢液でもOK)を各7ml(ペットボトルのキャップ1杯ずつ)
●つくり方・使い方:それぞれ同量ずつ混ぜたものを原液とし、7Lの水(約300倍)で希釈して野菜に散布する。
※焼酎は、安価なアルコール度数20度のものより25度がおすすめ。
【スペシャルバージョン!“カル酢”入りストチュウ水】
●材料:卵の殻(1個分)、醸造酢(100~150ml)
●つくり方・使い方:容器に細かく砕いた卵の殻と醸造酢を入れ、一晩置けば“カル酢”のできあがり。ストチュウ水に混ぜて使う。水7Lに対してストチュウ水の原液をペットボトルのキャップ2杯(1杯は7ml)、カル酢を同キャップ1杯混ぜて使う。
※カル酢はジョウロのハス口が詰まるのを防ぐため、使う前に茶こしなどでこして使う。
▲原液をつくっておくと便利
③8月上旬、採種果を決める
枝張りがよく、病虫害の出ていない、生育旺盛な株を選び、太い枝が続いたところについた実を採種果にする。
ピーマンの採種は難易度が高めなので、保険として2~3株用意するといい。
開花から2週間、採種果以外の花や実は全部取って、“1枝1果“で全集中させる。3週目以降は、ひとまわり小さい実を若採り収穫していく。
▲これは「伏見甘長とうがらし」。採種果のつけ根には毛糸を結んで目印にする。
④完熟果を収穫し、1週間追熟
開花から60日後、採種果が赤やオレンジ色に完熟したら採る。
午前中は水分が多く、カビが生えやすいのでなるべく晴天続きの夕方に採る。
採った採種果はザルに入れて1週間、風通しのいい日陰に置いて追熟させる。
▲完熟して真っ赤になったカリフォルニアワンダー。
⑤果肉をカットして10日間、天日乾燥
追熟後、ヘタがついたまま果実の上部を切ってタネをむき出しにし、太陽光の当たる風通しのよいところに置いて切り口を乾かす。
ヘタから養分が転流して、タネが充実して発芽能力が格段にアップする。10日経つと果肉が次第にしぼんでタネが枯れた色になる。
01 ヘタがついた果肉の上部を包丁で慎重に切る。
02 ゆっくりはずしてタネをむき出しにする。
03 お盆に新聞紙を敷いて、タネを上向きにして並べる。
⑥ピーマンのタネは水洗い禁止!徹底的に乾燥させてカビを防ぐ
タネを果肉からはずして目の細かいタマネギネットに入れ、3~7日間、雨が当たらないよう窓辺などに吊るして天日乾燥させる。
しっかり乾いた状態のタネを、紙の封筒に入れる。密閉できるビニール袋に乾燥剤と一緒に入れ、冷暗所で保存する。
なるべく空気と湿気に触れない状態で密閉すると3~4年、寿命を維持できる。
01 果肉からタネだけをはずす。
02 目の細かいタマネギネットに入れて干す。
03 品種名や採種年月日などを記した紙袋に入れ、乾燥剤と一緒に冷暗所で保存。
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