栽培の「困った!」に名人がズバリ回答します。秋に苗づくりが始まるタマネギ、同じ頃にタネ球を植える、ラッキョウ、エシャレットについて、おいしい収穫を目指し、栽培のコツを解説していきます。
名人の紹介
◆田中寿恭さん たなかひさやす
奈良県橿原市在住。有機・無農薬栽培の家庭菜園歴40年の大ベテラン。
「畑の苗床で順調に育っていたタマネギ苗が、ネキリムシに半分やられた苦い経験から、万が一のときの保険として、苗床のほかにも自宅でプランター育苗も行っています」
◆田村吾郎さん たむらごろう
神奈川愛川町の農家。わんぱく自然農園たむそん代表。
「ラッキョウとエシャレットは、無肥料で育てると味わいがよくなります。畝の準備は、夏野菜を片付けた畝を耕しておくだけで十分です。9月に種球を植えて楽しんでください」
https://tamuson.com/
◆瀬山 明さん せやまあきら
埼玉県本庄市在住。有機農業のパイオニアのひとり。農業気象学や植物の栄養週期理論を栽培に活かしている。
「あんまりやかましく余計なことをしないで、草をむしったり、虫がつかないようにしたり、よく観察してあげたら、タマネギは自分でちゃんと育ちます」
Q1:タマネギがトウ立ちします。苗づくりのコツは?
*質問
苗床にタネをまいてタマネギの苗をつくりました。植え替え時期までに大きく育ってしまい、翌春は案の定、半分くらいがトウ立ちし、ネギ坊主の畑になりました。
*回答 【瀬山さん】
苗床に鶏ふんを少しだけ施して、あとは甘やかさずに育て、草丈は低くてもガッシリした苗に仕上げます。
私もいろいろ失敗してきました。タマネギの苗を大きく育ててしまうと、寒さにあたるとすぐに歳をとるため、春になると早々にトウ立ちして花が咲いてしまいます。
早い時期に収穫してしまう早生タマネギの場合は構いませんが、中生や中晩生のタマネギをつくる場合、定植時の苗の大きさはとても気になります。
苗づくりは、肥料を控えめにし、発芽してからは水やりも雨まかせ。甘やかさずに、少しいじめるくらいの気持ちで抑えて育てるといいと思います。11月に葉が10cmくらいに伸びているのがちょうどいい具合です。
定植までに、葉はそんなに大きくなくてもいいので、根元が少し丸くなっているガッシリした感じの苗がつくれたら最高です。
あるとき、苗づくりがとても上手な仲間に聞いてみたら “鶏ふんを使っている”とのことでした。鶏ふんは、リン酸とカルシウムが豊富で窒素は比較的少なめです。それに鶏ふんの窒素は、最初にパッと効いてそんなには長続きしません。これはよさそうだと思い、私も今は苗づくりに鶏ふんを利用しています。
少量の牛ふん堆肥と鶏ふんを苗床に施す
まず、夏の早いうちから苗床を用意します。少量の牛ふん堆肥とほんの少しの鶏ふんを苗床に混ぜて平らにならし、透明マルチを張っておきます。育苗中に草が生えてこないよう、土を太陽熱で蒸しておくためです。
牛ふん堆肥の量は、苗床にまいたときに、土が見えている方が多いくらいにうっすらと。鶏ふんはそれよりもうんと少なめです。多くまいて甘やかしたらダメです。
タネまきは、秋のお彼岸の頃(9月20日前後)です。透明マルチをはがすと、養生された土はフワフワです。苗床の表面に苦土石灰をパラパラと薄くまいて、鍬の背でトントン押さえて平らに軽く鎮圧します。
ネギは酸性土壌では発芽がそろいませんが、表層に混ざった苦土石灰のおかげで酸度が調整され、発芽しやすくなります。
お彼岸の頃にタネをまき不織布で覆って発芽を促す
タネをバラまきしたら、鍬の背で軽く鎮圧しておきます。雨がなければ、タネまき後の3~4日間は水やりをします。早めに水が切れると発芽率がうんと悪くなるからです。
苗床に不織布か刈った草を敷いておくと、水やりにそれほど気を使わなくても済みます。もみ殻くん炭を上手に使っている人もいますが、私の経験では意外と難しかったです。空洞が多いためか、乾燥していると水を吸ってしまうようです。
私は、不織布や敷き草を気楽に利用しています。
発芽がそろって生長しだしたら、お世話は草取りくらい。窒素分をいつまでも効かすような、甘やかした環境にはせず、生長を抑えるつもりで育苗します。
10月中旬、苗床全面に草木灰を振って水をまく
タネまきから約1か月、10月中旬に草木灰を与えます。
苗の頭の上から苗床全体に、草木灰をパッパッと振り、ジョウロで水をたっぷりかけておきます。カルシウムをはじめとしたミネラルを吸収して、丈夫な苗に育ちます。なお、雨の前日に灰をまくと水やりの手間が省けます。
タマネギの苗は、肥料を抑えめにして育てるとよい。太い苗に育ってしまうと、春にトウ立ちしやすくなる。トウ立ちしたものは、おいしくない。
「秋のお彼岸の頃に育苗を始め、甘やかさずに苗を育てましょう。春のトウ立ちが防げます」と、瀬山さん。畑では糖度が高くておいしいタマネギが育つ。
*回答 【田中さん】
春にマルチをはずしてトウ立ちを遅らせます。トウ立ちしにくい早生種を中心につくるのもおすすめ。
太すぎる苗を植えるとトウ立ちしやすくなりますが、気候も要因のひとつだと思います。最近の陽気はおかしくて、春になって急に暑かったり寒かったり。これを繰り返す年はタマネギがトウ立ちしやすいです。あとは、肥料のやりすぎと黒マルチの使用です。地温が上がり水分もあるので、肥料の効きがよくなります。
トウ立ちで毎年お困りの方は、2月か3月くらいになったら、黒マルチをはずしてみてはいかがでしょう。地方によって変わりますが、サクラも咲いてちょっと暖かくなってきたなと思ったら黒マルチをカッターで裂いて剥ぎ取ります。
トウ立ちを完全に防ぐことはできませんが、少しでも遅らせれば、食べる分をそれだけ確保できます。
以前、気温のアップダウンが激しかった年に黒マルチを掛けっ放しにしていたら、中晩生タマネギの半分が一気にトウ立ちしたことあります。やっぱりマルチは取らないとダメだと思いました。
それから、タマネギを長期保存したい人は別ですが、早生種を中心に育てるのもおすすめです。4月~5月に収穫しますが、保存性はあまりないので8月くらいまでに食べ切れる量を植えましょう。
早く収穫できるので、早生種ならトウ立ちの心配はまずありませんし、病気にもなりにくいです。甘くておいしいです。
田中さんは早生と中晩生のタマネギを栽培している。「初心者の方はまず、つくりやすい早生種から栽培して、タマネギづくりを経験されるといいと思います」
田中さんは早生と中晩生のタマネギを栽培している。「初心者の方はまず、つくりやすい早生種から栽培して、タマネギづくりを経験されるといいと思います」
Q2:大きいタマネギ苗、小さすぎる苗はどうしたらいい?
*質問
タマネギ苗は、大中小のサイズ別に分けて “同級生植え”をするといいと聞きました。ただ、大きすぎる苗はトウ立ちが、小さすぎる苗は寒さで消えるのが心配です。
*回答【田中さん】
大きな苗は20cmの長さに草丈をそろえて定植するといいです。小さい苗はペコロス風に育ててみましょう。
おっしゃる通り、同級生植えは有効な植え方です。苗の草丈と太さも見て大中小にクラス分けしてください。太さが違う苗を一緒に植えると、細い方は太い方に負けてしまいます。
鉛筆よりも太い苗はトウ立ちする危険性がありますが、草丈が高い苗でも根の太さが適当なら問題ありません。20㎝くらいの長さで葉を切りそろえ、同級クラスに加えて植えるといいでしょう。
タマネギの畝をつくったら、小さい苗エリア、中くらいの苗エリア、大きい苗エリアに分けて定植します。生育に差が出ませんから、小さい苗エリアのタマネギも十分に食べられる大きさになるから心配いりません。
それから、細い苗のユニークな利用法があります。細い苗を集めて、株間5cmくらいに密集させて植えておきます。すると小さなタマネギ、ペコロスを収穫できます。我が家では、まるごとシチューやカレーに使っています。
タマネギ苗の世話をする田中さん。ネキリムシなどによる被害を毎日チェック。
*回答【瀬山さん】
大きく育った苗は、葉タマネギ用として割り切って利用するとお得。小さい苗は苗床で育苗を継続します。
雨が多くて暖かい日が続くと、苗は窒素分をよく吸って、大きく育ってしまいます。また、苗の大きさに大小のバラつきもあると思います。大苗になっても使い道があります。
大きく育った中生や中晩生の苗は、定植すると春のトウ立ちは避けられないかもしれませんが、そんな大苗もちゃんと定植してあげましょう。
翌春、トウ立ち前に葉タマネギとして収穫すればいいので、残念がることはありません。炒めて食べるとおいしいです。
一方、あまりにも小さい苗は抜かないで苗床に残しておきます。定植用の苗を掘り上げて株間があくと、小さかった苗もグンと大きくなりますから、いいタイミングで掘り上げて畑に定植するといいでしょう。地域によって、定植は1月末から2月上旬までならなんとかなります。
タマネギの苗はサイズ別にクラス分けしてから畝に植えつけるといい。
Q3:タマネギが収穫前に腐りだします。どうしたらいい?
*質問
収穫が近づく頃になると、タマネギの玉部分が腐りだしてダメになります。
農薬を使わずに病気を防ぐにはどうしたらいいでしょうか?
*回答【田中さん】
軟腐病だと思われます。水はけをよくして多肥にも注意。トウ立ちするタマネギには病気が出やすいです。
軟腐病(なんぶびょう)は、春になるとタマネギに出やすくなる病気で、玉がドロドロに腐って嫌な臭いがします。
軟腐病を起こす細菌は土の中にいます。雨で泥がはねて葉や玉にき、アザミウマなどの害虫につけられた傷口から入り込んでタマネギをおかします。
肥料が効きすぎて軟弱に育ったタマネギや、トウ立ちするタマネギは軟腐病が出やすくなります。
トウ立ちを防ぐこと、それから肥料を与えすぎないことが重要です。
冬を越して追肥をしますが、私の畑では、追肥をするのは、早生種は1月末まで、中晩生には3月上旬まで、と決めています。どの野菜もそうですが、肥料を多く与えるとロクなことがありません。
あとあとまで肥料が効いてしまうように追肥をすると、タマネギにアザミウマなどの害虫が多く寄ってくるようになりますし、おかげで病気が出やすくなります。
基本的なことですが、畝は水はけをよくしておきましょう。根腐れを起こして、タマネギが弱ると、病気に反発する力がなくなります。私は、病害虫を寄せつけない、健康なタマネギを育てることを第一に考えています。
POINT【購入苗は“イケメン風”よりガッシリタイプの苗を選ぶ】
ホームセンターの種苗コーナーに行くと、スラリと細くてしなやかな、格好のいい苗が並んでいます。ハウスで甘やかされて育てられた“イケメン風”の苗は、早生なら問題ないのですが、中生や中晩生の苗を選ぶ際には、背はあまり高くなくても、根元の白い部分が少し丸くて養分を蓄えているガッシリした苗がいい苗だと思ってください。定植後に、少しくらい寒くても、自分の養分で根をしっかりと張る力を持っている苗です。(瀬山)
Q4:ラッキョウが緑色!植え方が悪かった……
*質問
ラッキョウのタネ球の植え方は浅植えがいいと教わり、その通りにしました。収穫したらラッキョウが白くありません。土寄せをしないのが原因だと言われました。
*回答【田村さん】
浅植えしたら土寄せをしないとラッキョウは緑色がかります。深植えなら土寄せは不要。私は深植え派です。
私の農園ではラッキョウのタネ球を8月下旬~9月上旬に植えます。その際、私は深めに植えています。
確かにネギの仲間は浅く植えられるのを好むようです。ですが、ラッキョウは育つと地面から頭を出してきますから、白いラッキョウをつくるには土寄せが必要です。株元に土をかけて光を遮り、ラッキョウが緑色になるのを防ぎます。
私の場合は深植えをして、土寄せの手間を省いています。
植え方は“田植え方式” です。タネ球を3本の指でつまんで、株間15cmで土に押し込んでいきます。条間も15cmです。田んぼでイネの苗を植えるのに似た感じの作業になります。
深さは、タネ球のお尻(茎盤)が地表面から10cmの深さになるようにしています。植えてできた穴は、周囲の土を落として埋めます。埋めたあとに鎮圧はしません。フワフワのままです。
ラッキョウはお尻の部分、つまり茎盤から根を出します。茎盤の下が鎮圧されていれば十分です。タネを押し込んだ際に茎盤の下の土はしっかりと押されていますから、これでタネ球は必要な水分を茎盤から吸えます。
深く植えると縦長の涙形のラッキョウになり、浅く植えるとまるっこいラッキョウになります。その違いです。
田村さんの農園で生育中のラッキョウ。深植えをして、エシャレットとラッキョウを時間差で収穫している。「栽培中はこまめに株間の草取りをしています。お世話はそのくらいです」
ラッキョウのタネ球を指でつまんで土の中に挿し込んで植えつける。挿し込んだ手の跡には土を入れて埋め戻す。編集部の畑でのラッキョウづくり。
Q5:エシャレットが辛い……おいしくつくるには?
*質問
エシャレットをつくりました。収穫してみたら辛くて辛くて……とても生では食べられません。どうしてでしょうか?
*回答【田村さん】
収穫が遅れたためだと思われます。ラッキョウに近づいて、生では食べられない辛さになります。
エシャレットとラッキョウは同じものです。9月にタネ球を植え、5月に掘り上げて食べるのがエシャレット。そのまま畑に残して育てて6月半ばに掘り上げたものがラッキョウです。
ホームセンターに行くと、エシャレットとして売っている袋と、ラッキョウとして売っている袋があり、なぜか値段が違います。エシャレットのタネ球の方が高かったりするので、“おやっ?”と思ってしまいます。同じものなので、私なら安い方を買います。
一度買えば、ニンニクと一緒で、収穫したタネ球を取っておき、9月にまた植えられます。
私の農園では出荷をしているため、お客様にウケが悪い超大粒のラッキョウが残るので、これを保存して翌年用のタネ球にしています。エシャレットとしておいしく食べるなら、収穫時期を遅らせないことです。私の農園では、土寄せの手間を省くためにラッキョウのタネ球を深植えしていますが、そのうちの何割かを5月にエシャレットとして収穫・出荷します。深く植えておくおかげで、食べる部分が細長く伸びますから、食べごたえのあるエシャレットが収穫できます。深植えのメリットです。
肥料なしで育てると味のいいラッキョウになる
それから、エシャレットもラッキョウも、肥料を与えないで育てると、えぐみや嫌な辛さがなくて、さわやかで味わいのあるものになるようです。
栽培にあたっては、水はけをよくしておくことが第一です。腐ると相当臭いです。ひとつ腐ると、ほかの株に臭いが移ります。ラッキョウは収穫時期が遅れると腐れが出てくるので、高めの畝をつくっておくと安心です。
栽培中のメンテナンスは、除草くらいです。1か所からたくさんの葉が出ているように見えますが、分げつした1球につながっている葉は2~3本です。すべての葉に、風と日光が当たるよう、草が生えたらこまめに取って生育を促しましょう。
*回答【田中さん】
2~3球まとめ植えすると、細めのエシャレットがたくさん採れます。辛さは気にならず、おいしいです。
私は、ラッキョウを育てている畝から、5月にその一部を早掘りしてエシャレットとして楽しんでいます。
細いエシャレットをたくさん食べたいので、ラッキョウのタネ球を植える際、エシャレット用として、小さめのタネ球を2~3個まとめ植えしておきます。
なお、1球で植えると分げつが少なくなり、粒の大きいラッキョウが採れます。
1球植えもまとめ植えも、5~10cmの深さに植えています。こうすると栽培途中の土寄せは不要です。こうして毎年5月においしいエシャレットを収穫しています。
エシャレットは細いものの方が食べやすくておいしいと思います。太いものはどうも辛味を感じます。
5月に収穫するとエシャレットとして生でおいしく食べられる。
6月になるとプックリまるくなり、ラッキョウとして収穫。
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