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「奇跡のスープ」こと「ボーンブロス」とは、健康効果は本当?

  • 2025年2月5日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

「奇跡のスープ」こと「ボーンブロス」とは、健康効果は本当?

「ボーンブロス」が今、脚光を浴びている。関節痛の緩和、腸内環境の改善、肌の弾力性の向上といったさまざまな効果があると言われ、「奇跡のスープ」「黄金のスープ」と呼ばれることもある。今やサプリメントとしてもカプセルや粉状のものが販売され、さらには高級ペットフードとしての商品も登場している。

 ボーンブロスは骨を煮出してつくるスープのことだ。しかし、本当にそこまで騒がれるだけの効果があるのだろうか。

「ボーンブロスは古代の伝統と現代の価値観を見事に融合させた食品です」と、食品科学者のカンサ・シェルケ氏は言う。氏は食品科学および消費者向け商品開発の会社、米コーバス・ブルーLLCの創設者兼社長で、米食品技術者協会のメンバーでもある。

「何千年にもわたり、骨を煮出したエキスは世界中の伝統的な食事の定番であり、その豊富な栄養と治癒効果から重宝されてきました」

 とはいえ、現代人がボーンブロスの効能と考えている利点の多くは、科学的な証拠に基づいているというよりは理論上のものであり、その健康効果に関する研究のほとんどは、ボーンブロスに含まれる個別の成分に焦点を当てている。

「ボーンブロスは、実際の価値以上に持ち上げられ過ぎていると、私は感じています」と語るのは、米ニューヨーク市で活動する登録栄養士でシェフのアビー・ゲルマン氏だ。「だれもが魔法のような特効薬やスーパーフードを求めています。私にとってそれは果物や野菜であって、ボーンブロスではありません」

 それでも、ボーンブロスのおかげと言われているさまざまな効能の中には、実際に科学的な証拠があるものもある。2021年に医学誌「Medicina」に掲載された、動物を使った研究では、ボーンブロスには潰瘍性大腸炎の症状を和らげる抗炎症作用があることが示されている。

 また、2024年2月に学術誌「Journal of Food Science」に掲載された研究は、生化学実験や動物実験により、鶏肉と野菜を使ったボーンブロスに含まれるヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸が、骨粗しょう症の進行を遅らせることを発見している。

 実際のところ、ボーンブロスは健康にどのような影響を及ぼすのだろうか。わかっていることをまとめた。

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ボーンブロスとは何か、栄養素やカロリーは?

 ボーンブロスとは、ウシ、ヒツジ、ニワトリ、シチメンチョウ(七面鳥)、ブタなどの骨を、12〜24時間コトコトと煮込んで作る煮出し汁のことだ。出来上がった液体には、コラーゲンを含むタンパク質や、微量栄養素が豊富に含まれている。これらの栄養素は、健康を維持するうえで不可欠だ。

「骨をより長時間煮込み、煮汁の中により長く浸けておくほど、骨から得られるタンパク質とコラーゲンの量は多くなります」と、米クリーブランド・クリニック人間栄養センターの登録栄養士ジュリア・ズンパノ氏は言う。

 また、ボーンブロスにはアミノ酸(タンパク質をつくる要素)のほか、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、セレン、ビタミンA、一部のビタミンB群などの微量栄養素が含まれているという。

 これらのミネラルやビタミンは、どれも健康と身体機能の維持にとって重要だが、各栄養素をどの程度摂取できるかは、どのようなボーンブロスを飲むかによって異なる。

「ハーブや調味料、風味を加える野菜など、ボーンブロスと一緒に何を煮込むかによっても変わりますし、どのタイプの骨をどれだけの時間煮込むかによっても違いが出ます」とズンパノ氏は言う。

 また、ゲルマン氏によると、ボーンブロスは通常、カロリーが1食分あたり50〜80キロカロリーと低く、そのほとんどがタンパク質だという。

期待できる健康効果

 ボーンブロスを摂取すると、腸のバリアを保護し、腸内の状態を整えることによって、腸および腸内微生物叢の健康に役立つと考えられると、専門家は指摘する。さらに、ボーンブロスの定期的な摂取は胃の不快感を和らげ、炎症に対しても役立つ可能性があるとズンパノ氏は言う。

 ボーンブロスに含まれるマグネシウム、鉄、セレンなどの一部のミネラル類は、アルギニンやグルタミン酸などのアミノ酸とともに、免疫機能を向上させる可能性がある。「冬場に免疫系の健康を保ちたい場合には、ボーンブロスが役立つでしょう」とゲルマン氏は言う。

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 さらに、ボーンブロスを摂取すると、「電解質が筋肉のけいれんを和らげ、神経と筋肉の機能を向上」させると、ズンパノ氏は言う。「また、関節痛にも効果があります。年齢を重ねると、関節は弾力性を失っていきます。ボーンブロスのコラーゲンは、その弾力性の回復を助けます」

 しかし、ボーンブロスから摂取できるコラーゲンが、実際に体内のコラーゲンの回復にどの程度役立つのかについては疑問が残る。「ボーンブロスにはコラーゲンが豊富に含まれていますが、コラーゲンの摂取が体内のコラーゲン生成を直接的に高めるという科学的な証拠は限られています」とシェルケ氏は言う。

 事実、2019年5月号の学術誌「International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism」に掲載された論文では、市販品および実験室で調理したサンプルを分析したところ、ボーンブロスでは、人体のさまざまな組織のコラーゲンの合成を支えるのに十分な濃度のアミノ酸を摂取できる可能性は低いと結論づけている。

 このように、一部の効能には十分な科学的証拠があるとは言いがたいものの、ボーンブロスを飲むことは「損にはならず、もしかすると得をするかもしれない」行為であるとは言えるだろう。

「ボーンブロスから恩恵を受けない人はいません。大半の人が、何らかの形の炎症と闘っているのですから」とズンパノ氏は言う。

健康にいいボーンブロスの選び方

 ボーンブロスは、コンロやスロークッカーを使って家庭でも作ることができる。「秘訣は、長い時間をかけて煮込むことによって、骨からありったけのコラーゲンを抽出することです」とゲルマン氏は言う。「冷蔵庫に入れたときにゼラチン状になるのが理想です。そうならないものは、単なるスープストックです」

 または、市販のボーンブロスを買うという手もある。その場合は、骨を少なくとも6時間煮込んだものを選びたい。そうでないものは、やはり単なるスープストックだからだ。一部の市販品は塩分を多く含んでいるため、高血圧や腎臓病で塩分を制限している人は注意してほしい。

 ボーンブロスは、温めてお茶の代わりに飲んだり、スープやシチューなどの料理に加えたりすることができる。「ボーンブロスは保存がきくため、冷蔵庫や冷凍庫に入れておくとよいでしょう」とズンパノ氏は言う。

 信じがたいと思うだろうが、ボーンブロスは地球にとっても益があるかもしれない。「ボーンブロスは、捨てられるはずだった動物の骨を、栄養豊富で健康的な製品へと変貌させるすばらしい手段です」とシェルケ氏は言う。「だからこそ、ボーンブロスは健康と環境の両方への責任を重視する人たちの心をつかんでいるのです」

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