キャンディー、シリアル、調味料、スナック菓子、ジュース、一部の栄養補助食品や医薬品に使用されてきた合成着色料が今、注目を集めている。2025年1月15日、米食品医薬品局(FDA)は、カリフォルニア州で全面的に禁止された食品添加物の赤色3号の使用許可を取り消すと発表した。
FDAが禁止したのは発がん性を懸念してだが、カリフォルニア州が全面禁止に踏み切った理由のひとつは、赤色3号や赤色40号を含む合成着色料と「注意欠如・多動症(ADHD)」など行動の障害との相関関係を示唆したカリフォルニア州環境保護局の報告書だ。また、EUでは以前から原則的に禁止されている。そのため、合成着色料とADHDの関連に注目が集まっていた。
しかし、相関関係は因果関係ではない。また、関連する研究のほとんどに年齢、研究の規模、範囲、地域の制約がある。そのため、カリフォルニア州の小児科医で、行動障害を専門とするローレンス・ディラー氏のような科学者は、食用色素がADHDの症状を悪化させるという主張を「なかなか消えない都市伝説」と呼んでいる。
そこで、食品色素の有害性について今わかっていることとわかっていないこと、保護者が子どもの摂取量を心配する正当な理由があるかどうかについて解説する。
FDAによれば、食品添加物の着色料とは、食品の色を際立たせたり、ケーキのデコレーションのように「楽しくなる」よう色を付けたり、紫色はグレープ味、黄色はレモン味など外見から風味を伝えたりするために使われる物質だ。
FDAはビート、ウコンといった植物に由来する天然の着色料27種類に加えて、通常は石油から化学的に製造される合成着色料(食用タール系色素)9種類の使用を認めている。合成着色料の名称は国によって異なるが、米国で承認されているのは青色1号、青色2号、緑色3号、オレンジ色B、黄色5号、黄色6号、赤色2号、赤色3号、赤色40号だ(編注:日本ではオレンジ色Bと黄色6号は不認可)。
特に懸念されるものとして、赤色と黄色がしばしば挙げられる。だが、「ヒトを対象にした合成着色料の研究は、着色料全般のものしかありません」と関連する研究に参加したことがある米オレゴン健康科学大学の精神医学教授ジョエル・ニグ氏は話す。
つまり、特に問題のある着色料があるかどうかはわかっていないということだ。
しかし、着色料を含む食品の多くが子ども向けであることはわかっていると、米オハイオ州立大学の名誉教授で、精神医学と行動保健学を専門とするユージーン・アーノルド氏は指摘する。アーノルド氏は以前、合成着色料がADHDに与える影響を研究したことがある。実際、2016年の研究では、ノースカロライナ州のある食料品店で子ども向けに販売されている食品の約30%に赤色40号が含まれていることが判明した。
これは問題だ。なぜなら、さまざまな食材や添加物の研究で示されているように、食生活が最も強く行動に影響するのが子どもたちだからだ。
これらの研究では、糖分の過剰摂取は認知機能を妨げる、チーズや加工肉に含まれるグルタミン酸が気分障害を引き起こす、加工食品はストレスの原因になる、塩分の過剰摂取は記憶の機能を妨げるといったことが発見されている。
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食用色素とADHDの関連が初めて注目されたのは1970年代にまでさかのぼる。カリフォルニア州の小児アレルギー専門医ベンジャミン・ファインゴールドが、子どもの食事から食用色素を除去することで、ADHDの症状が改善される可能性を示唆したときだった。
そして1980年代、科学界で研究が行われ、事実無根の大ざっぱな主張だというコンセンサスが得られた。
ところが、その後の研究により、食用色素の摂取と行動障害の悪化には、因果関係は認められないものの、相関関係があることが再び示され始める。
ニグ氏が参加した2011年の研究もそのひとつだ。食用色素とADHDの悪化との間に「小さいながらも信頼できる」関連性が見つかった。
2024年7月には学術誌「Brain and Spine」で、ADHDなど行動の障害と診断されているかどうかにかかわらず、食用色素と多動性などの行動との関連が指摘された。2007年に医学誌「The Lancet」に掲載された質、規模ともに最高レベルの研究でも、「ADHDであるかどうかにかかわらず、食用色素は子どもの認知機能と行動に小さいながらも重大な悪影響を及ぼす」ことがわかったとアーノルド氏は述べている。
なかでも、最も重要なメタ分析が、カリフォルニア州環境保護局環境健康有害性評価局(OEHHA)が2021年に発表した先の報告書だ。関連研究をすべて分析したうえで、複数の年齢、人種、社会経済的なグループを対象に、子どもたちが摂取している合成着色料の量を独自に分析して推定した。
その結果、子どもたちは食用色素の「安全」とされるレベルを上回っている可能性が高いだけでなく、食用色素の摂取とADHDを含む行動の悪化に関連性があることもわかった。この分析は「既存の行動障害の有無にかかわらず、食用色素の暴露(ばくろ)と好ましくない行動との関連を裏付けている」と報告書には記されている。
とはいえ、まだ多くの疑問が残されている。食用色素がこれらの問題を引き起こすと証明されたわけではない。
これらの研究結果は説得力があるものの、「関連研究の多くは、質が限定的です」とニグ氏は指摘する。「また、米国で大規模な実験が行われたことはなく、ヨーロッパのみで行われています。ヨーロッパと米国では、規則や食品添加物が少し異なります。しかも、ヨーロッパの研究では、保存料も対象に含まれていました」
例えば、安息香酸ナトリウムは一般的な保存料で、やはり子どもの多動性の悪化と関連づけられている。そのため、ADHDの症状の悪化が保存料やそのほかの添加物ではなく食用色素によるものだと証明されてはいない。
さらに、OEHHAの報告を査読した米ラトガー大学公衆衛生学部環境暴露疾患センターの副センター長エミリー・バレット氏は、食用色素と行動上の問題との相関を示唆する研究の多くは「1970年代から1980年代にかけてのかなり古いもので、被験者50人未満の小規模な研究が多い」と指摘する。
OEHHAの研究では、「一部の子どもは明らかに、合成着色料の悪影響を受けやすい」と結論づけていることも注目に値する。これには、体内でヒスタミンを生成する遺伝子が関係するのではとアーノルド氏はにらんでいる。アレルギー症状の出やすさと関連する遺伝子だ。
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FDAは、OEHHAの報告を含む既存の研究について、食用色素が特に行動障害の悪化の原因であることを示す結果はまだ出ていないと述べている。
FDAの担当者はナショナル ジオグラフィックの取材に対し、次のように説明した。「FDA食品諮問委員会やFDA科学委員会による評価を含め、これまでに何度か着色料に関する情報を評価していますが、一般集団における子どもの多動性と赤色40号を含む着色料への暴露の因果関係は立証されていません」
しかし、赤い合成着色料とがんのリスクについては同様とは言えず、FDAは2027年から赤色3号の使用を禁止した。
結局のところ「人口全体で見た場合」、合成着色料の摂取量は「『少量』または『適度』」という人が大部分を占めているとニグ氏は指摘する。それでもニグ氏は、着色料を完全に断つ必要はないが、着色料を含む食品の過剰な摂取は避けるべきだと助言する。アーノルド氏も「科学界でよく言われるように、『毒となるかどうかは量次第』です」と述べている。
これは特に重要なことだとアーノルド氏は強調する。「着色料を含む食品の1人当たりの消費量は、過去30年で5倍に増加している」ためだ。バレット氏はこれを受け、現代の保護者は過去の世代より、子どもが食べるものに詳しくなる必要があるかもしれないと述べている。
例えば、FDAが推奨する赤色40号の摂取許容量は、体重1キロ当たり1日3.75ミリグラムだ。しかし、米スタンフォード・ヘルス・ケアの登録栄養士ケイト・ドネラン氏によれば、米国の子どもたちは1回の誕生日パーティーでその上限を簡単に超えてしまう(編注:赤色40号の日本の体重1キロ当たりの一日許容摂取量は7ミリグラムだが、認可が比較的新しく、厚労省による令和4年度の1〜6歳の摂取量調査ではゼロ)。
「赤いソーダ350ミリリットル、フルーツキャンディー『スキットルズ』の小袋、赤いクリームでデコレーションしたケーキひと切れで、合わせて130ミリグラムになります」
また、その子どもが合成着色料に関連する行動上の問題を起こしやすいかどうかも考慮すべきかもしれない。
「強い有害反応はごく一部の子どもにしか現れないようなので……深刻な行動の変化が見られる場合、この可能性を考慮した方がいいかもしれません」とニグ氏は話す。ディラー氏も「もし私なら、特定の食品や添加物を生涯禁止にする前に、まずは2週間の除去期間を設け、行動に変化があるかどうかを確かめます」と述べている。
バレット氏はほかのすべての人に対し、可能であれば、加工食品より未加工の新鮮な食品を選択することを勧めている。「そうすれば、着色料だけでなく砂糖やほかの添加物の過剰摂取も避けられるでしょう」