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起源はインド、シャネルの活躍など、パジャマの驚きの歴史

  • 2025年1月21日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

起源はインド、シャネルの活躍など、パジャマの驚きの歴史

「パジャマ(pajamas)」と言えば、眠ったりくつろいだりするための快適で着心地の良い衣服のことだ。しかし、パジャマはもともとはアジアで生まれた街着で、しかもパンツの部分のことだった。

 約3000年前、中央アジアで遊牧生活を営んでいた騎馬民族が、ローブやチュニックではなく、ゆったりしたパンツを腰で結んで着用するスタイルを始めた。このパンツは後にペルシャ人に採用され、「パジャマ(pajama)」としてアジア全土で人気となった。そしてインドでは、パジャマはクルタという襟のないゆったりしたロングシャツと合わせて着られるようになった。

 17世紀から18世紀にかけて欧州人がインドを訪れるようになると、現地の人々がクルタパジャマを着ているのを目にするようになった。柔らかい木綿やアジアの絹からできていて、縫い合わせが少なく、ゆったりしたデザインのクルタパジャマは、硬くて体にフィットするデザインの欧州の服とは違って非常に快適だった。一部の貴族は、アジア旅行の土産としてクルタパジャマを持ち帰り、宮廷で見せびらかした。

アジアからヨーロッパへ、贅沢品から寝間着へ

 英国ウェールズの初代デンビー伯爵ウィリアム・フィールディングは、1631年、ペルシャの君主サフィー1世とインドのムガール帝国の君主シャー・ジャハーンの宮廷を訪れた際に、アジアの衣服を手に入れた。彼は、遠く離れた土地や風習に関する自身の博識ぶりを人々に印象づけようと、絹でできた贅沢なクルタパジャマを身につけた自分の肖像画を画家に描かせた。

 その後、18世紀から19世紀にかけて英国のインド支配が確立されると、猛暑のインドに派遣された英国人たちは、カジュアルウェアとしてのクルタパジャマの快適さを実感した。

 それまで、欧州のあらゆる階級の人々は、就寝時には麻やウールでできた肌着を着用していた。眠るための衣服が登場したのは18世紀から19世紀にかけてで、男女ともに「ナイトシャツ」または「ナイトガウン」と呼ばれる寝間着を着るようになった。ナイトシャツの着丈はどれも長く、膝下丈や足首丈のほか、床につく丈のものもあった。

 ゆったりしたパンツとシャツがセットになった「パジャマ」が着られるようになったのは、19世紀後半になってからだ。最初にパジャマを着たのは、ビクトリア朝時代の上流階級の紳士たちだったようだ。

 彼らは、インドのクルタパジャマを西洋人の好みに合わせて改良した。シャツはクルタよりも短くされ、襟とボタンが追加された。

 このアレンジがパジャマの人気に火をつけた。当初、パジャマは専門の仕立屋が作る贅沢な衣服だったが、19世紀末に米国でパジャマの大量生産が始まり、庶民の間で急速に広まった。

次ページ:ココ・シャネルが火をつけた流行

 デパートで手頃な価格で購入できるようになったパジャマは、第一次世界大戦後にはヨーロッパ大陸でも流行しはじめた。フランスの男性向けファッション誌『アダム・シュミジエ』は、1933年に6ページにわたってパジャマの良さを称賛する特集を組み、パジャマはナイトシャツとは違って「ベッドから出るときに威厳を損なうことがない」と強調した。

女性への浸透

 当初、パジャマは男性向けのみが販売されていた。ナイトシャツよりも男らしかったイメージが、パジャマの成功の鍵となった。

 20世紀前半の映画界も、このイメージづくりに貢献した。1934年の映画『或る夜の出来事』で、ハリウッドスターのクラーク・ゲーブルがパジャマを着たことで、男性がパジャマを着ることはおしゃれの証明となった。また、1954年のヒッチコック監督のサスペンス映画『裏窓』でジェームズ・スチュワートが着用した4組のパジャマは、この映画が象徴的な地位を得るのに一役買った。

 女性たちは、その後もしばらくの間は伝統的なナイトガウンを愛用しつづけた。女性がパンツを日常着として着用することが、まだ浸透していなかったからだ。

 しかし1920年代になると、状況が変わりはじめる。コルセットやロングスカートや大きな帽子は、より自由で快適なファッションに取って代わられ、パジャマが女性用衣類の世界に進出しはじめた。

 最初に普及した女性用パジャマは、「ビーチパジャマ」と呼ばれる夏用の外着だった。デザイナーのココ・シャネルが、フランスのリビエラでビーチパジャマを着ているところを写真を撮られたことが、流行のきっかけになった。シャネルの服は、明るい色のゆったりとしたパンツと体にフィットしたシャツを組み合わせたスタイルが多かった。

 第二次世界大戦中には素材が配給制となり、パジャマのデザインはファッション性よりも実用性が重視されるようになった。そして、綿やウール混紡など、快適で暖かい生地が使用されるようになった。

 戦後はさらに、保守的で家族的な価値観が優勢となり、リボンで飾られ胸元が大きく開いたナイトガウンよりもパジャマの方が慎み深くて好ましいとされるようになった。

 パジャマの故郷であるインドでは、クルタパジャマは今も街着の定番であり続け、結婚式や祭事などの特別な機会にも着用されている。人々はクルタパジャマを誇りに思い、生地や裁断などに西洋の手法をうまく取り入れて、伝統と現代のファッションを融合させている。

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