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生誕250周年の作家ジェーン・オースティンを満喫できる英バース

  • 2025年1月19日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

生誕250周年の作家ジェーン・オースティンを満喫できる英バース

 小説『高慢と偏見』などの代表作を持つ作家のジェーン・オースティンがバースに移り住んだのは、1801年1月のことだった。25歳で未婚だった彼女は、田舎から英国南西部の町バースに引っ越すことに決めた家族についていった。バースは彼女の両親が結婚した町でもあった。

 後から考えると、この移住の時期は良いとは言えなかった。18世紀に上流社会を牽引したバースは、パラーディオ様式の優雅な温泉街として知名度を上げたが、オースティンが住みだしたころにはすでに全盛期を過ぎていた。英国南東部の町ブライトンのような海辺のリゾート地が流行り始めていたし、北欧の静養地にアクセスしやすくもなっていたからだ。

 それでも、オースティンが引っ越した季節は賑やかな時期だっただろう。10月から翌年6月の間、バースにはロンドンや海外からお金持ちがやって来て、何週間も部屋を借りて過ごしていた。

 朝はだいたい、温泉であるローマン・バスの「お湯を浴びる」ことから始まる。午後はザ・サーカスやロイヤルクレセント、それにエイボン川にかかるパルトニー橋のようなおしゃれな場所を散歩して過ごした。劇場では演劇が催され、アセンブリー・ルームで開かれたパーティーでは社交ダンスをしながら恋愛が芽生えることもあっただろう。前にステップ、後ろに下がって、見て、見られて。

 こうした歴史的遺産はいまだに多くの人を惹きつけてやまない。温泉保養地として知られたことから生まれた新たな温泉施設の数々や蜂蜜色がかったバスストーンを使った統一感のある新古典主義の建築物など、訪れる場所も多い。

 バース市街はユネスコ世界遺産にも登録されている。町全体が登録されているのは英国ではバースだけだ。中心部は歩いて観光しやすく、小規模なホテルや工芸品を売る店、地元の食品を出すレストランなど、地域に根ざした町並みがある。

 それでもやはり、オースティンのファンがみんな見てまわるのは、当時の住居や『説得』や『ノーサンガー・アビー』などの作品に出てくる通りなど、オースティンゆかりの場所や英国の摂政時代(1811〜1820)と呼ばれる当時のものだろう。

 2025年はオースティンのファンにとって、バースをより楽しめる年だ。町として彼女の生誕250周年を祝うからだ。

次ページ:見どころと楽しみ方

 毎年9月に開かれる「ジェーン・オースティン・フェスティバル」では、いつものようなパレードやクロッケー大会、裁縫のワークショップが楽しめるほか、夏と冬に記念のダンスイベントが開催される。オースティンにまつわる旅行パッケージを提供している「ストリクトリー・ジェーン・オースティン・ツアーズ」では、5泊のスペシャルパッケージを用意する。劇場では彼女にちなんだ演目を披露し、ホテルは特別な催し物を予定している。

 バースがこうしてその名声を祝うことを、オースティン自身はどう思うだろうか。

 1805年に父が亡くなると、彼女たちは緊迫した経済状況の中で生活することとなり、1806年に町を離れるにあたって、彼女は「解放されて幸せな気分」であると書き残している。それでも、バースは、きっちりとした社交界の礼儀作法や社会階級に対する強い意識など、その後の彼女の作品に影響を与えている。オースティンの小説に親しむ人であれば、十分に見合うと感じるだろう。

見どころと楽しみ方

1. ジェーン・オースティンについて知ろう

 オースティンの当時の住居の並びにあるジェーン・オースティン・センターは、彼女の生涯や遺物に関する小さな博物館だ。当時の服装をしたガイドによるオースティン一家についての紹介に始まり、摂政時代の一家の品々や小説の映像化に伴う関連資料などの展示へと続く。

 おそらくもっとも興味を惹くのは、センターの壁に掛けられた、オースティンの唯一現存する肖像画だろう。これは彼女にとっての最初のファンアートとも言われている。

2. ガイド付きのツアーを予約しよう

「ストリクトリー・ジェーン・オースティン・ツアーズ」には、6人まで参加できる、2時間半の町歩きプライベートツアーがある。オースティンを軸にしつつも、ツアーでは摂政時代のバースに関する人物をみな紹介する。特徴的な町並みを作りあげた建築家のジョン・ウッド親子、バースの社交界を変えた黒幕のリチャード・“ボウ”・ナッシュなどだ。

3. ジョージアン時代のバースの生活を学ぼう

 No.1ロイヤルクレセントは、当時の部屋をそのまま博物館にしている。机付きの本棚からウィッグを付けていてかゆくなった箇所をかくためのウィッグ・スクラッチャーまで、18世紀のジョージアン時代(1714〜1830)にいるかのような展示がされている。

次ページ:散歩に温泉

 オースティン作品からの抜粋を用いた映像と音声による演出もあり、そこに住んでいた家族の生活を間近に感じることができる。例えば、客間では小説『エマ』の踊りのシーンのナレーションを聞ける。

4. そもそもの始まりに戻ってみよう

 バースが保養地として有名になったのは、温泉のおかげだ。ローマン・バスでは大きな浴槽に温泉が湧き出るさまを見ることができる。浴場は紀元70年ごろに建てられたもので、ホログラムやローマ時代の服装をした役者による歴史の解説によって過去の様子がよみがえる。出口付近の噴水から湧き出る、硫化物の匂いがして、鉄さびの味がする温泉をひとすすりするのをお忘れなく。

5. 散歩しよう

 オースティンは郊外に出るのが好きで、中心部から南に20分ほど歩いたところにある木々の生えた丘、ビーチェン・クリフによく出かけた。頂上にはアレクサンドラ・パークの展望スポットがあり、バースを引きで見た有名な景色が広がっている。

 歩いて向かう道のりには、「ヤコブのはしご」として知られる急な上り階段がある。少し楽をするなら、バスに乗っていき、4.4ヘクタールほどの公園を歩こう。

6. 温泉に入ろう

 ローマン・バスにはもう入浴できないが、「サーメ・バース・スパ」に行けば温泉を楽しめる。目玉は間違いなく露天風呂であるルーフトップ・プールだ。温度は33.5℃ほどでのんびりでき、バース寺院のゴシック様式の塔など、町並みと空の景色を楽しめる。混む可能性があるので、できれば週半ばの午前中に訪れたい。

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