スマートフォンを眺めている時間が長すぎるという自覚がある人は少なくないだろう。米国の場合、ソーシャルメディアを眺めて過ごす時間は大人で1日に平均2時間以上、10代の若者はその2倍の時間をTikTokやInstagramなどのプラットフォームに費やしている。
ソーシャルメディアの弊害は米公衆衛生局長官などの専門家に指摘されており、現在、SNSから離れる方法を模索する人たちが増えている。実際、Googleでの「social media detox(ソーシャルメディア・デトックス)」という言葉の検索数は、ここ数カ月間で60%増加した。
SNSから離れることに、ほんとうに何か益はあるのだろうかと疑問に思う人もいるかもしれない。だが、研究によると、SNS断ちは脳と心に驚きの効果をもたらすという。
多くの人は、自分がSNSのスクロールにあまりに多くの時間を費やしていると感じている。その懸念は、オックスフォード大学出版局の2024年の「今年の言葉」に「ブレインロット(脳腐れ、オンライン上の低品質なコンテンツを過剰に摂取することによる知的能力の劣化の意)」が選ばれたことにも表れている。とはいえ、節制を実践するのは簡単ではない。
若者31人を対象に、2週間のソーシャルメディア・デトックスが健康に与える影響を調べた論文を2023年12月に学術誌「Behavioral Sciences」に発表したペイジ・コイン氏は、ソーシャルメディアのデトックスに関しては、万人に効果のある解決策は存在しないと語る。
重要なのは、普段のソーシャルメディアの消費量を減らすための現実的な目標だ。「ソーシャルメディアから完全に離れたいと思う人もいれば、ソーシャルメディアに費やす時間を半分に減らしたいと思う人もいるでしょう」
できるだけ長い期間、ソーシャルメディアを断つことが望ましく、少なくとも4週間は継続してほしいと、米スタンフォード大学医学部の精神科医で依存症治療の専門家のアンナ・レンブケ氏は言う。
しかし、たとえ短い期間であっても、SNS断ちは精神衛生の改善に効果があることが証明されている。
2022年に学術誌「Body Image」に発表された、10〜19歳の少女65人を対象とした研究からは、ソーシャルメディアから3日間完全に離れると、自尊心と自己への思いやりが向上し、自分の体に対するイメージが改善することが示された。
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ソーシャルメディアから数週間離れるにせよ、日々の利用量を減らすにせよ、最も難しいのは最初の数日を乗り切ることだと、コイン氏とソーシャルメディア・デトックスに関する研究を共同で行ったサラ・ウッドラフ氏は述べている。
しかし、そうした不快な感情に耐えることによって、脳がリセットされ、渇望と消費のサイクルがストップする。じきに渇望が起こらなくなれば、一日を楽に過ごせるようになる。
「参加者は、日が経つにつれ、思っていたよりもデトックスは簡単だと感じるようになっていきました」とウッドラフ氏は言う。「いったんリズムに乗ってしまえば、ほとんどの人がデトックスを楽しめるようになります」
ソーシャルメディア消費を1日30分に制限した2週間のデトックスを終えるころには、以前と比較して、生活の満足度が向上する、ストレスレベルが低下する、睡眠が改善されるといった精神衛生上の改善があったと、大半の参加者が報告した。
困難な時期を乗り越えるうえでは、デトックス仲間を持つことが助けになる。先の10代の少女を対象とした研究において、執筆者である米コロラドカレッジの心理学教授トミ・アン・ロバーツ氏は、参加者に対し、実験の期間中はメッセージアプリ「WhatsApp」のグループを通じて特定の人と毎日互いに連絡を取り、支え合うよう求めた。
「実験中、少女たちは疎外感や取り残されることへの恐怖を感じていましたが、その経験をほかの人たちと共有することで、そうした感覚は軽減されました」
SNSを一時的に離れることのメリットはまた、自分とSNSプラットフォームとの関係をより客観的に見られるという点にもある。
「この機会を利用して、一歩下がって状況を見直し、自分がSNSで何をしているのか、それが自分にとって有益なのかどうかを、より明確に意識できるようになります」とウッドラフ氏は言う。「たとえば、その日のうちにやるべきことをすべてこなせているか、SNSのせいで直接人と会う機会を逃していないかといったことを考えられるようになるのです」
デトックス期間を終えたあとは、強迫的で過剰な消費に戻ってしまうのを防ぐガードレールを設けることが重要だと、レンブケ氏は言う。「自分とSNSとの間に、物理的・精神的なバリアを築くことをおすすめします。たとえばスマホを寝室に持ち込まない、通知を切るといった対策です」
専門家らは、年間を通じてSNSのデトックス期間の予定を組み、バランスのとれたSNS利用を維持するよう推奨している。
「SNSを完全に排除することはできません」とウッドラフ氏は言う。「しかし、ときどき休憩をはさむことで、自分をリセットして、自分がSNSをどのように利用しており、それがどのような感情をもたらしているのかを改めて評価することができるでしょう」