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夫婦の寝室は分けるべきか、仲を円満にする「睡眠離婚」のコツ

  • 2024年5月27日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

夫婦の寝室は分けるべきか、仲を円満にする「睡眠離婚」のコツ

 米国睡眠医学会が2023年3月に実施したアンケート調査によると、米国人の3分の1以上が、パートナーと寝室を分ける「睡眠離婚」を選択している。俳優のキャメロン・ディアス氏や司会者のカーソン・デイリー氏などの有名人を含め、睡眠の質を優先させるために別々のベッドや部屋で寝るカップルは増えている(編注:日本では、 2011年に学術誌「日本建築学会計画系論文集」に掲載された論文によると、別室で眠る夫婦は約22%であり、結婚から調査時までに別室就寝の経験がある夫婦は3分の1を超えたという)。

「夫婦は一緒に寝るもの、という固定観念に、私たちはとらわれてしまっています」と話すのは、『A Sleep Divorce: How to Sleep Apart, Not Fall Apart(睡眠離婚:別々に寝て別れを防ぐには)』の共著者のニール・スタンリー氏だ。

 ベッドや寝室を分けることによって、相手のいびきや不眠、就寝スケジュールの違い、繰り返す寝返りなど、よくある睡眠を妨げる要因を減らし、疲労や夫婦関係の悪化を避けられる。以下では睡眠離婚というトレンドについて、またそれが健康にもたらし得る利点について、知っておくべきことを紹介しよう。

「夫婦で同じベッドに」の盛衰

 古代ローマには、夫婦のベッドである「lectus genialis」と呼ばれる概念があったが、これには実用的な意味も、象徴的な意味もあった。ローマ時代の夫婦は、親密な会話や触れ合いのために、しばしば家の中のプライベートな空間にベッドを1つ置いていた。しかし、寝るためのベッドはそれぞれ別にあることが珍しくなかった。

 中世の時代、居住空間は共有物としての性質を持つようになり、夫婦専用のベッドはあまり見られなくなった。富裕層は、家が大きかったため家族一人ひとりが個室を持てたが、貧困家庭では1台のベッドを共有したり、火の気に近い部屋で一緒に寝たりしていた。

 ルネサンス期になると、夫婦専用の部屋が増えてきたが、特に王族や貴族は夫と妻が別々の寝室を持つことも珍しくなかった。

 ビクトリア朝時代には夫婦同床が流行したが、19世紀後半になると再び、医学専門家がベッドや寝室を分けることを勧めるようになる。『A Cultural History of Twin Beds(ツインベッドの文化史)』の著者であるヒラリー・ハインズ氏は、同書のなかで、「当時の専門家は、ベッドを分けることが最も健康的な選択肢だと考えていた」と書いている。

 米ニューヨークの医師ウィリアム・ウィティ・ホールや代替療法施術師のエドウィン・バウワーズといった著名な人物も、シングルベッドの健康上の利点を強調していた。ホールは、「広く、清潔で、明るい部屋にシングルベッドを1台」置くことを勧め、バウワーズは、「1人ずつ別々のベッドで寝るのは、1人ずつ別々の皿で食事をするのと同じくらい大切」と主張した。

次ページ: ベッドの共有がむしろ関係悪化になる恐れも

 1920年代には、2台(ツイン)のベッドが富とファッションの象徴になっていたが、1950年代になると、また2人でダブルベッド1台を共有するようになる。第二次世界大戦後はマスターベッドルーム(夫婦共有の主寝室)という考え方が固定化し、ベッドを別にすることは結婚生活が破綻しているしるしと見られるようになった。

 昨今では、健康全般のなかで睡眠が持つ役割についての意識が高まり、夫婦別々に寝る習慣が再び戻ってきている。

ベッドの共有がむしろ関係悪化になる恐れも

 ベッドを1つにすることが精神的なつながりと親密さを向上させると考える夫婦もいれば、それほどこだわらない夫婦もいる。

 ニュージーランドにある「ベター・スリープ・クリニック」の臨床責任者で睡眠心理学者のダン・フォード氏は、夫婦であっても独りで寝た方が快適だと感じる理由はたくさんあると話す。相手がいびきをかいたり、10人に1人は悩まされているという慢性的な不眠症だったりする場合もある。

「お互いの体内時計が大幅にずれていて、ベッドに入りたいタイミングが異なる夫婦もいます。それならば、相手の睡眠を邪魔しないように別々のベッドで寝た方がましだと感じるのです」と、フォード氏は言う。

 2024年1月8日付で学術誌「Current Biology」に発表された米ミシガン大学による研究は、一緒に眠ることで睡眠の質が損なわれ、関係の悪化につながる恐れがあることを示している。さらに、米カリフォルニア大学バークレー校の研究者が2022年8月に学術誌「PLOS Biology」に発表した研究では、十分に睡眠がとれていないと、他者に優しくしようとする行動が減るという結果が出ている。

 米国人教師のタミ・シャダックさんは、夫の睡眠時無呼吸症候群のせいで寝不足の日々を過ごしていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行中、咽頭炎にかかったため別の部屋で寝ることにした。それ以来、元の寝室には戻っていないという。

「睡眠は睡眠です。意識がない時に相手と仲を深めることはできません。親密さは、起きている時間に経験する膨大な一瞬一瞬のなかで作られるものです」

 睡眠離婚を成功させる鍵は、どちらか一方の部屋を「予備の部屋」と呼ぶのではなく、それぞれが独立した「自分の部屋」を持つことだと、スタンリー氏は言う。「自分の好きなように部屋を飾り、寝具も自分の好みのデザインでそろえるといいでしょう」

 また、別々のベッドで寝ることは、夫婦関係の強さとは関係ないと指摘する。「まったく普通のことです。睡眠離婚は、懲罰ではありません。お互いのために最善の形をとるということです」

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