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第二次大戦の米軍「血の第100爆撃隊」がドラマに、本気で再現

  • 2024年2月12日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

第二次大戦の米軍「血の第100爆撃隊」がドラマに、本気で再現

 第二次世界大戦中、連合国軍による対ナチス総攻撃を支援した米第8空軍の第100爆撃隊が、「ブラッディ・ハンドレッズ(血の第100部隊)」と呼ばれるようになったのにはわけがある。彼らは上空7600メートルを編隊飛行して危険な日中の爆撃作戦を遂行し、多くの死傷者を出した悲運の部隊だった。

 その第100爆撃隊に属していた個性豊かな兵士たちの物語を9話にわたるドラマシリーズで描いた『マスターズ・オブ・ザ・エアー』が、1月26日よりApple TV+で配信されている。ゲイリー・ゴーツマン氏、トム・ハンクス氏、スティーブン・スピルバーグ氏が製作総指揮を務め、共同製作者のジョン・オーロフ氏が脚本も担当した。

 実話を基にしたドナルド・L・ミラー氏による同名の本をドラマ化するのは、自身が初めて脚本を手掛けた『バンド・オブ・ブラザース』と比較しても大変な作業だったと、オーロフ氏は語る。総製作費2億5000万〜3億ドル(約370億〜440億円)と推定される本作は、『バンド・オブ・ブラザース』と『ザ・パシフィック』に続くシリーズ第3弾とされている。

 歴史的に正確な脚本を書くという任務を引き受けたオーロフ氏は、1年かけて30冊以上の本や雑誌、日記を読み、アーカイブや口述記録をあさり、大西洋両岸の基地や飛行場、博物館を訪れた。その結果、記録とほとんど違わない「あらゆる段階においてこれまで以上に野心的なドラマ」が完成したと自信をのぞかせる。

 そのオーロフ氏が、出演者のアンソニー・ボイル氏、ネイト・マン氏、カラム・ターナー氏らとともにナショナル ジオグラフィックのインタビューに応じ、ドラマの裏話を語ってくれた。

爆撃機の再現度

 空中戦を描く際に絶対に欠かせないのは、飛行機だ。「空飛ぶ要塞」と呼ばれた第100爆撃隊のボーイングB-17を外から内まで完璧に再現することが、製作のなかで最も重要な部分だったと、共同製作者のデビッド・コーツワース氏は言う。オーロフ氏も、B-17を登場人物の一人のように感じていた。

 第二次世界大戦中におよそ1万2000機製造されたB-17だが、現在も飛行可能な機体はわずかしか残っていない。そして、そのいずれもドラマには使用されていない。そんな爆撃機隊を再現するには、少しばかりの創造力と、CGI技術の助けを借りる必要があった。

 製作チームは、ドラマのために2機のB‐17のレプリカを一からつくり上げた。1機は自走し、もう1機は牽引して動かすことができたが、2機とも飛ぶ機能は備えていなかった(こちらは特殊効果に頼った)。とはいえ、激しい撮影に耐えるだけの強度は必要だった。

次ページ:「ドラマの世界に完全に没入することができました」

 両端の幅が30メートルにもおよぶ翼を構造的に強固にするのが特に大変だったと、オーロフ氏は言う。ある時、レプリカがバランスを崩し、「普通のセットの仕掛け」も「映画の魔法」も効かなかったことがあった。機体を水平に保ち、折れることなく柔軟にしなる翼を作るには、ボーイング社の実際の建造ガイドラインに従う必要があった。

 そのほか、B-17の機首やコックピット内部だけのレプリカも製作した。

 航空士なのに飛行機酔いしてしまうハリー・クロスビー少佐を演じたボイル氏は、現場でのバーチャルプロダクションやCGIに加え、計器盤の最も小さなスイッチから高度計に至るまですべて忠実に再現されたコックピットの模型に感嘆した。「おかげで、ドラマの世界に完全に没入することができました」

 出演者たちはその細かさに実際の作戦の重要性を実感するとともに、全体の77%が命を落とし、負傷し、行方不明になり、戦争捕虜になったという第100部隊に対して敬意の念を抱いたという。

リアルな人物と衣装

 主要な登場人物のモデルとなった人々は全員すでに他界していたため、『バンド・オブ・ブラザース』のときのように、物語の詳細や背景について本人にインタビューした映像を挿入することはできなかった。

 それでも、「出演者たちは実際の人物と全く変わらないくらいリアルです。私たちはこれらの実話を同じように繊細に、敬意をもって、誠実に扱いました」と、オーロフ氏は話す。

 ターナー氏は、ほかの出演者とともに2週間のブートキャンプに参加したことが特に印象に残っていると話す。毎日のように軍服を着て、共演者のオースティン・バトラー氏と並んで、元海兵隊員で軍事技術アドバイザーのデイル・ダイ氏による講義や訓練を受けたり、厳しい出題に答えたりした。

 衣装合わせも、細部にまで気が使われた。アカデミー賞の受賞歴がある衣装デザイナーのコリーン・アトウッド氏は、このドラマで衣装合わせを何回行ったのかオーロフ氏から問われると、「3000回に達したところで数えるのをやめました」と答えた。

 アトウッド氏のチームは、古い飛行服の研究から試作品の実験まで、広範なリサーチを行い、実物に最も忠実な防弾ヘルメット、ゴーグル、羊皮の飛行服を作り上げた。

 戦時中、第8空軍の制服が少しずつ変化していったことや、腕時計の仕上がりが人によって違っていたことなども考慮された。ドラマのセットでは、羊皮のつなぎやヒートスーツを着て作戦の準備をする役者たちの姿が見られた。

次ページ:過去にタイムスリップしたかのようなセット

 嘔吐の受け皿に使われたヘルメットや、シャツのしわの入り方など、何気ない細部のこだわりが、自分の演じている人物のどこか気弱な性格を思い出させてくれたと、ボイル氏は話す。

 身長188センチで肩幅の広いターナー氏は、つなぎの上に防弾ジャケットと救命胴衣を着こんで狭いB-17に押し込まれるのはきつかったが、実際の兵士が経験した苦痛と比較すれば大したことはないと感じたという。

過去にタイムスリップしたかのようなセット

 撮影の一部は、戦時中に第100爆撃隊の拠点があった英国のソープ・アボッツ基地に建てられたセットで行われた。

 当時の風景をできる限り正確に再現するため、指令本部、病院、教会、将校クラブ、食堂、管制塔など、3カ月以上かけて英国に16のセットが建てられた。また、ヨーロッパ大陸に唯一残っていた古い暗号機を探し出してきて、ドラマの背景に使用した。現場に足を踏み入れたオーロフ氏は、過去にタイムスリップしたようだったと語る。また、戦時中子どもだったという地元住人がセットを訪れて、涙を流していたという。

 現場では、役者、セットの装飾担当者、衣装係が、爆撃機の機首に描かれたノーズアートと呼ばれるイラストから制服のバッジに至るまで、専門家からアドバイスを受けた。

 将校クラブのセットでは、バーの棚にコカ・コーラのボトルや年代物のバー用品が並べられた。マン氏によると、タバコのライターも、ソープ・アボッツに近いノリッジの町で当時実際に空軍兵に売られていたものをそっくりそのまま再現したのだという。

 当時の書類や写真も、本物が使用された。第1話の作戦実行前に行われたミーティングの場面で、爆撃の目標と対空砲台の航空偵察写真がプロジェクターで映し出されていたが、これは1943年に実際に兵士たちが見ていたであろう写真と同じものだ。

 ハリウッドの大物や特殊効果を使い、莫大な予算をかけたとは言え、事実をねじ曲げた部分はほぼないとオーロフ氏は話す。

「ドラマのなかで、左から3番目の爆撃機の4番目のエンジンにロケット弾が当たる場面がありますが、あれも実際に、あの作戦であの通りに起こったことです。それを、私たちは非常に重視しました」と氏は言う。このドラマは、事実に基づいているというだけでなく「事実そのものなのです」

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