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“妖精”ペンギンを突然襲い始めたカラス、経緯は謎、広がる恐れも

  • 2024年2月2日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

“妖精”ペンギンを突然襲い始めたカラス、経緯は謎、広がる恐れも

 オーストラリア南部に位置するフィリップ島の砂浜に、壊れた笛の音のような悲鳴が響き渡る。声の主は、体長わずか30センチ、体重1.4キロのコガタペンギン(Eudyptula minor)。地下に掘った巣穴からひなを盗み出そうとするミナミコワタリガラス(Corvus mellori)と戦っているのだ。

 襲撃の前、カラスは数日かけてコガタペンギンの巣穴を観察する。2羽1組になって、大きな方が親ペンギンの気をそらしている間に、小さな方が巣穴の上から穴を掘り、卵やひなを盗み出す。研究者らが観察していると、親ペンギンを崖から追い落として巣穴を襲ったカラスもいたという。そこまでひどくないにしても、親ペンギンが疲弊してあきらめるまで何時間もしつこく追い回すのだと、鳥類保護団体「バードライフ・オーストラリア」のカスン・エカナヤケ氏は言う。

 別名フェアリー(妖精)ペンギンとも呼ばれるコガタペンギンの巣穴をカラスが襲い始めたのは、比較的最近のことだ。1970年代にオーストラリア本土からフィリップ島にやってきたカラスが、自分たちの体とほぼ同じ大きさのコガタペンギンを捕食し始めていることに研究者たちが気付いたのは、20年ほど前だった。

 今ではペンギンもカラスも、この戦いに勝つために新たな戦略を編み出しつつあり、研究者たちも、ペンギンの数に影響が出る前にカラスの攻撃をやめさせる方法はないかと知恵を巡らせている。

 コガタペンギンは、オーストラリア南部の海岸一帯とニュージーランドに分布し、特に絶滅の危機にさらされているわけではない。なかでもフィリップ島の集団が最大で、繁殖期のペンギンが4万羽以上生息している。しかし、島の生態系は繊細なバランスをかろうじて保っており、わずかな変化で崩れる恐れがある。

「私たちが知る限り、ほかの地域にすむコガタペンギンの集団は同じようなカラスの攻撃を受けていません」と話すのは、オーストラリア、メルボルンにあるディーキン大学の野生生物・保全生物学准教授で、この現象を研究しているマイク・ウェストン氏だ。「つまり、これを学習したカラスの集団がフィリップ島にいるということです。この行動がほかの地域にも広がる可能性は十分にあります」

見落とされてきた捕食者

 かつて、フィリップ島のペンギンにとって最大の脅威は外来種のキツネだった。3000羽以上のペンギンが犠牲となったが、駆除に取り組んだおかげで2015年にキツネは島から姿を消した。

 しかし、カラスの場合、そう簡単にはいかない。

 ミナミコワタリガラスは「野生生物の捕食者としては、これまでほとんど注目されてきませんでした」と、ウェストン氏は指摘する。都市の環境に上手に適応し、様々な動植物を食べ、驚くほど高い知能を持つ彼らの脅威に対抗するのは極めて難しい。彼らが数を増やしている理由も、こうした特性によって説明がつく。

 そして、さらに問題をややこしくしているのは、そもそもなぜカラスたちがコガタペンギンを捕食し始めたのかも、どのようにしてその行動が広がったのかも、誰にもよくわからないことだ。

次ページ:他の種へのリスクも

 2021年4月に学術誌「Biological Invasions」に発表された論文は、ミナミコワタリガラスがコガタペンギンを獲る行動が、遺伝よりも社会的学習によって身につくことを示している。しかし、わからないことはまだ多い。

「何か革新的なことが起こって、集団全体に広がったと考えられます。カラスはとても賢いです。仲間がパズルを解いているのを見ただけで学習するカラスがいることも知られています」と、論文の著者の一人であるウェストン氏は言う。

 2013年には、エカナヤケ氏とウェストン氏のグループが観察していたコガタペンギンの巣穴の約61%がミナミコワタリガラスの攻撃を受け、破壊されていたことがわかった。ところが、それからわずか2年後には、攻撃された巣穴の割合は約34%にまで減っていた。ペンギンたちがカラスの攻撃に備えて巣穴を守ることを学んだためだろうと考えられる。この調査結果は、2022年10月に学術誌「Marine Ornithology」に発表された。島に生息するペンギンの数は、2015年以来安定している。

 バードライフ・オーストラリアのローラ・タン氏の調査によると、実際にはカラスによる被害件数は年によって上下するという。ほかの食べ物が不足した年には、ペンギンの巣穴が狙われやすくなる。

他の種へのリスクも

 ウェストン氏とタン氏のチームはさらに、ミナミコワタリガラスの糞のなかにコガタペンギンのDNAが含まれているかどうかを調べた。これによって、島に生息するカラスの間でペンギンの捕食がどれほど広がっているかを、よりよく把握できるかもしれないと考えたためだ。

 この手法は、研究者が期待したほど役立つものではなかったが、それまで考えらえていたよりも多くの鳥類や哺乳類をカラスが捕食していたことは明らかになった。この論文は、2023年12月6日付けで学術誌「IBIS: International Journal of Avian Science」に発表された。

 ということは、ミナミコワタリガラスが増えればコガタペンギンだけではなく、ほかの種、特に地下に巣穴を作るほかの鳥類への脅威にもなると、タン氏は指摘する。

「私が驚いたのは、カラスが捕食する種の多さです。その柔軟性には本当に感心させられます」とウェストン氏は話す。

 ミナミコワタリガラスはさらに、鋭いくちばしで家畜の目を突いたり、獲物を刺し殺して食べることも知られている。

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