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コロナ、インフル、風邪などの後に咳だけ長く残るのはなぜ?

  • 2024年2月1日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

コロナ、インフル、風邪などの後に咳だけ長く残るのはなぜ?

 風邪をひいた後や、インフルエンザ、RSウイルス、新型コロナウイルスに感染した後、ほかの症状は治まったのに、いつまでも咳(せき)だけ残っていてつらかった経験はないだろうか? あるなら、それはあなただけではない。咳は、体からウイルスがいなくなってから何週間も続くことがある。

 咳が治らないと言って病院に来る患者が、最初に調子が悪くなったのは8週間も前だった。そのようなことがしばしばあると、米テキサス大学サウスウェスタン医療センターで感染症を研究する内科医のマイケル・シロー氏は話す。「こうした人々からはもうウイルスは検出されません。それでもまだ咳をしているのです」

 米国では2023年末から2024年の初めにかけてインフルエンザ、RSウイルス感染症、新型コロナウイルス感染症の患者が急増した。米疾病対策センター(CDC)によれば、呼吸器の不調を訴えて医療機関を受診する患者の数は今も多い(編注:国立感染症研究所のデータによれば、日本ではインフルエンザが2023年8月から12月にかけて増え、新型コロナが2023年11月下旬から増加傾向にある)。

 呼吸器ウイルス感染症から回復した人がしつこい咳に悩まされる理由は、まだ厳密には解明されていない。しかし、ウイルス感染が気道の神経に影響を及ぼすしくみについての研究から、新たな手がかりが得られつつある。

そもそも咳とは何なのか?

「咳とは、有害なガスや水、誤嚥(ごえん)した食べ物のかけらなどの危険から気道を守るために起こる重要な反射です」と、英クイーンズ大学ベルファストの呼吸器専門医で研究者のローカン・マクガービー氏は言う。

 咳反射は気道を支配する神経によって引き起こされる。これらの神経には、冷たい空気からトウガラシの辛み成分であるカプサイシンまで、あらゆる物質に反応する受容体タンパク質が分布している。受容体が刺激されると、その刺激が迷走神経を介して脳に信号を送り、私たちは咳をしたくなる。

 そこから脳は、咳をするかしないかの指令を気道に送り返す。ある程度は意識的にコントロールできる咳もあるのは、この脳を通る回り道があるからだ。

 科学者たちは、咳の引き金となるさまざまな刺激を明らかにしているが、呼吸器ウイルスに感染している間や、感染後何週間もたっているのに咳を引き起こす生物学的な詳しいしくみについては、まだ意見が一致していない。

 咳が出るのは喉の粘液を取り除くためであることは明らかだ、と思われるかもしれないが、ウイルスが自分をまき散らすために咳反射を引き起こしている可能性もある。実際、多くの感染症では痰(たん)を伴わない「乾いた咳(空咳)」が出る。結局のところ咳が出るのは気道をきれいにするためだったとしても、感染症にかかっている間、私たちの神経が具体的に何を感知して咳を引き起こしているのかは説明できないままだ。

「本当にわからないのです」と、米南フロリダ大学の電気生理学者であるトーマス・テイラー・クラーク氏は言う。「確実にわかっているのは、ウイルス感染は炎症を起こすということだけです」

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感染症は気道の神経を過敏にする

 気道に炎症が起こると、気道の神経が過敏になり、刺激に対して過剰に反応するようになることが研究により示されている。1つの仮説は、感染後のしつこい咳は、体からウイルスがいなくなった後も神経が過敏なままであるために起こるというものだ。

「気道の神経が過敏になっていると、例えば深呼吸をしたり、電話で話したり、笑ったり、寒い屋外に出たりといった有害でもなんでもないことで、一時的に咳が出てしまうことがあるのです」とマクガービー氏は言う。

 研究者たちはすでに1990年の時点で、モルモットをインフルエンザ様ウイルスに感染させると、気道の神経の感受性が高まって、人間のように咳をすることに気づいていた。感染させたモルモットは、カプサイシンなどの刺激物にさらされると、健康なモルモットよりも激しく咳をするが、これも人間と同じだ。

 科学者たちは現在、特定の物質に対する過敏性を、気道の神経にある受容体と関連づけるようになっている。

 2016年には、モルモットをインフルエンザ様ウイルスに感染させると、気道の特定の神経に、カプサイシンなどの刺激に反応する「TRPV1」という受容体タンパク質が余分に作られることが研究で明らかになった。モルモットや実験室で培養したヒト細胞を用いたほかの研究でも、呼吸器ウイルスに感染したときにTRPV1などの受容体タンパク質が多く作られることが報告されている。

 2017年のある研究では、紫外線で不活化したウイルスを投与した場合にも、実験室で培養したヒト細胞で、TRPV1などの受容体タンパク質が多く作られることが示された。

病院に行くタイミングは?

 呼吸器ウイルスに感染した後の咳は、通常2〜3週間で治る。シロー氏とマクガービー氏は、咳が8週間以上続くようであれば病院に行くべきだと言う。咳のほかに、発熱、息切れ、血の混じった痰、体重の減少などがある場合にはもっと早く受診するほうがよい。

 オーストリア、ウィーン医科大学の呼吸器専門医であるウカシュ・アントニエビッチ氏も、呼吸器ウイルスへの感染後2〜3週間咳が出るのは正常だと言う。咳が8週間以上続く場合は「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼ばれるが、そこまで待たずに受診してよい場合もあるという。

「骨の病気などない30歳前後の若い人が、咳が原因で肋骨を骨折することもあります。咳はそれほど強い反射です。そして、とても痛いです」とアントニエビッチ氏は言う。「咳が1カ月も続くようなら、医師の診断を仰ぐべきでしょう」

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