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なぜ地球の風景だけこんなに美しいのか、ユニークな地質のひみつ

  • 2023年11月15日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

なぜ地球の風景だけこんなに美しいのか、ユニークな地質のひみつ

 2023年9月25日付けで科学誌「ネイチャー」に発表された論文によると、科学者たちは最近、月の裏側で驚くべきものを発見した。衰えて長い間活動を停止していた火山性カルデラの地下に、異常に熱い場所があったのだ。

 このホットスポットは、花崗岩(かこうがん)に含まれる放射性元素によって温められていた。そして、驚きだったのは、花崗岩の放射線ではない。地球の花崗岩からも少しは放射線が出ている。衝撃的だったのは花崗岩の存在自体だ。

 御影石とも呼ばれる花崗岩が地球に大量にあるのは、地球に水が存在し、プレートテクトニクスが活発なおかげだ。だが、月にはこのどちらも存在しない。

 実際、太陽系の隣人たちについて私たちが知っていることからすると、地球は地質学的にかなりの変わり者だ。

 地球では普通に存在するが、他の惑星では珍しい岩石は花崗岩だけではない。そうした岩石がなくなると、地球の美しい景観は失われてしまう。ベトナムのハロン湾にある石灰岩の柱や、富士山のような成層火山、あるいは石英砂丘のようなものでさえ、他の惑星で見つけるのは難しい。ここでは、私たちの地球の風景がなぜユニークなのか、その地質学的な理由を解説してみたい。

マグマのリサイクル――花崗岩など

 マグマ(地表に噴出したものは溶岩と呼ばれる)からできる火成岩は、太陽系では特別なものではない。月や火星、水星、金星、さらには木星の小さな衛星イオの表面は、すべて圧倒的に火山性だ。しかし、普通のマグマが花崗岩を作ることはない。なぜなら、マグマのリサイクルという過程が必要だからだ。

 惑星の内部で作られたばかりのマグマは通常、花崗岩ではなく、玄武岩と呼ばれる黒っぽい岩石を形成すると、米テネシー大学の惑星地球科学者であるハリー・マクスウィーン氏は言う。花崗岩は、冷えて固まったマグマの一部が何度も溶けたり固まったりを繰り返した末にできると考えられている。

 花崗岩の主な成分は石英だ。石英は溶け始めると液化し、残った固体から分離する。すると、それが様々な種類の花崗岩あるいは花崗岩に似た岩石になる。これらの岩石が、地球の大陸地殻の大部分を構成している。

 地球では、このマグマのリサイクルは通常「沈み込み帯」で起こる。沈み込み帯とは、海洋地殻が大陸地殻の下に滑り込み、下降するにつれて熱せられる場所だ。湿った岩石は溶けやすいため、沈み込みによって地中に水が流れ込むと、地殻が溶けやすくなる。

次ページ:大量に存在する水の力

「プレートテクトニクスと水でできている地球は、花崗岩を常に簡単に作ることができます」と、米アリゾナ州にある非営利団体「惑星科学研究所」の惑星科学者マシュー・シーグラー氏は言う。「ですが、他の惑星にはプレートテクトニクスと水がありません」

 水星や金星、火星、そして木星の火山衛星にさえ、玄武岩は多いが、花崗岩がほとんど存在しないのはこのためだ。地球以外の惑星の火山が、富士山よりもパンケーキのように見える傾向があるのも同じ理由による。溶けた玄武岩は再生マグマよりも流れやすく、火星のオリンポス山のような広い「楯状」火山に広がる。

水が結びつける――砂岩など

 地球を太陽系の中でもユニークな存在にしているのは、大量に存在する水だ。水は岩石を溶かすのに役立つだけでなく、岩石同士を固く結びつけるのにも役立っている。

 砂岩のような堆積岩は、既存の岩石が砕け散って破片となり、それが積み重なって固まるとできる。圧力はこの過程を助けるが、それだけでは十分でない。「一緒になりつつある異なる粒子を固く結びつけるには、水が必要です」と、米ライス大学の火星地質学者キルスティン・シーバック氏は言う。

 これが地球以外の惑星において堆積岩が珍しい理由だ。とはいえ、地球以外の惑星においても堆積岩は存在する。リュウグウやベンヌのような小惑星はがれきの山であり、本質的には宇宙の奇妙な礫岩(れきがん、堆積岩の一種)だと、米カリフォルニア工科大学の惑星科学者ベサニー・エルマン氏は言う。

 火星には、より温暖で湿潤だった過去の時代の名残として、目もくらむほど多様な堆積岩も存在する。火星の堆積岩のほとんどは、古代の川や湖、砂丘に堆積した堆積物を水が固く結びつけてできあがった。

 それでも、「私たちが最も慣れ親しんでいる地球の堆積岩が、全体的に地球に特有なものなのは、花崗岩のおかげです」とシーバック氏は言う。

 例えば、砂岩だ。地球の砂は白いことが多いが、砂岩はたいてい花崗岩の主な成分である石英で構成されている。一方で、火星の砂岩の成分はまったく異なる。

 化石を除けば、石英を多く含む砂岩は、想像しうる限りおそらく最も地球特有の岩石の一つだと、マクスウィーン氏は言う。こうした砂岩を形成するには、プレートテクトニクスと侵食、そして水が必要なのだ。

生命が生み出す――石灰岩など

 もちろん、地球をユニークなものにしている特徴は、プレートテクトニクスと水だけではない。私たちの母なる星は、生命を宿した唯一の惑星でもある。そして、それがわかる岩石がある。石灰岩だ。

 石灰岩は、炭酸塩を豊富に含む白い岩石で、海洋生物、特にサンゴ礁に生息する生物の殻や亡骸が海底に堆積するとできあがる。石灰岩が地球上で一般的にみられるのは、生命が大量にいるおかげなのだ。

次ページ:熱と圧力で変化する岩石

 生命がいると石灰岩の形成がとても速まるため、「地質学者でさえ、石灰岩ができるには生命が必須だと考えてしまうことが時々あります」とシーバック氏は言う。しかし、生命が存在しなくても、石灰岩のような炭酸塩を多く含む岩石はできる。重要な材料は、二酸化炭素と、浅くて温かい場所にあって、酸性度があまり高くない水だ。どちらも昔の火星には存在した。

 それゆえ、かつては温暖で湿潤だった火星は、炭酸塩を見つけるには太陽系で二番目に適した場所だ。しかし、炭酸塩を大量につくりだした生命は存在せず、「地球の海の水を抜いた場合と同じような大量の石灰岩を見ることはできません」とエールマン氏は言う。

 地球近傍小惑星ベンヌや準惑星ケレスなどの小惑星でも、炭酸の鉱物は少し発見されている。

熱と圧力で変化する――大理石など

 大理石も宇宙で見つけるのはとても難しい。その理由は、大理石が石灰岩から形成されるからだけではない。大理石は変成岩であり、極度の熱と圧力のもとで、溶けることなく新たなものになるからだ。

 地球では、変成作用は通常地下深くでゆっくりと起こる。深部の高い圧力と熱が岩石や鉱物を変化させ、黒煙がダイヤモンドに、石灰岩が大理石になる。対して、地球以外では、変成岩は一般的に隕石が衝突した一瞬に形成される。

「岩石は非常に高い圧力と温度にさらされますが、それはほんの一瞬です」とマクスウィーン氏は言う。

 火星では衝撃による変成作用がよく起こっている一方で、地球より少し低温で穏やかな変成が火星で起こっている証拠もある。エールマン氏らの研究チームは以前、火星の変成岩を特定した。その変成岩は高温の地下水が地下で岩石を循環した際に、つまり比較的低温・低圧のプロセスで形成された可能性があると氏は考えている。

 一方、金星の表面は鉛を溶かすほど高温で、地表の岩石のほとんどが変性しているはずだと、マクスウィーン氏は考えている。しかし、その大気の圧力は、地球の地下わずか数キロメートルにさえ及ばない。

 最終的には、十分深く掘削できれば、どの惑星でも変成岩を見つけられるだろうと、マクスウィーン氏は言う。しかし、地球は特別だ。プレートテクトニクスのおかげで、内部と地表の岩石は常に入れ替わっており、地球特有の珍しい地質学的レパートリーがどんどん広がっている。

 地球では、「岩石を地表に運び、地表の岩石を内部に戻して変性させる」という効率的な方法があると、マクスウィーン氏は言う。「他の惑星にはそのようなプロセスが一切ないのです」

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