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コロナ感染が野生動物で拡大中、新たな感染源ができる恐れも

  • 2023年1月17日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

コロナ感染が野生動物で拡大中、新たな感染源ができる恐れも

 新型コロナウイルスはヒトの間だけで流行していると考えられがちだ。だが実際には、このウイルスは飼育下の動物や野生動物にも感染することがある。しかも、感染した動物の種類や数は増えている。

 米農務省は、これまでに100匹以上のイエネコやイエイヌのほか、飼育されているトラ、ライオン、ゴリラ、ユキヒョウ、カワウソ、ブチハイエナから新型コロナウイルスが検出されたと報告している。米国の動物園では、ビントロング(クマネコ)、ハナグマ、ピューマ、フェレット、スナドリネコ、オオヤマネコ、マンドリル、リスザルについて、それぞれ1件の陽性が記録されている。

 一方、米国内で陽性が確認されたことがある野生動物は、米農務省によるとミンク、ミュールジカ、オジロジカの3種だけだという。米国外では、野生のオグロマーモセット、アラゲアルマジロ、ヒョウの感染が確認されている。

 しかし、野生動物の新型コロナ検査は頻繁に行われるものではない。最近の研究では、新型コロナが影響を与えている種はもっと多い可能性があることが明らかになりつつある。「野生動物への感染は、これまで考えられていたよりはるかに広い範囲で起きていると思います」と、米バージニア工科大学の疾病生態学者ジョゼフ・ホイト氏は言う。

 新型コロナウイルスはどのようにして広範な動物種に感染し、どのような影響を及ぼすのだろうか?

コロナの標的になるタンパク質はすべての哺乳類にある

 新型コロナウイルスがヒト以外の動物にも感染できる大きな理由は、「ACE2(受容体)」という複雑なタンパク質にある。ACE2はすべての哺乳類にあり、血圧をはじめとする生理機能の調節で重要な役割を担っている。新型コロナウイルスはこのACE2を感染の足がかりにする。

 ヒトをはじめとする多くの哺乳類の上気道や副鼻腔にはACE2が分布していて、体内に入った新型コロナウイルスのスパイクタンパク質がACE2に結合し、宿主細胞に侵入する。

 ACE2の構造は、他の類似のタンパク質と比較して、種間の違いが比較的小さいと、米エール大学のウイルス学者クレイグ・ワイレン氏は説明する。とはいえ、小さくても違いはあるため、科学者たちは当初、感染する可能性が極めて低い哺乳類もいるだろうと考えていた。

 しかし、感染しにくいと考えられていた動物でも簡単に感染してしまうことが明らかになると、科学者たちの考えも変わってきた。今では、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は多くの哺乳類のACE2に結合でき、構造の小さな違いは感染の妨げにはならないと考えられている。

「(新型コロナウイルスのスパイクタンパク質と)ACE2は完璧にマッチしなければダメなわけではないようです」と、宿主と微生物の相互作用を研究している米ペンシルベニア大学医科大学院のリック・ブッシュマン教授は言う。

 新型コロナウイルスへの感染のしやすさを決定する要因はACE2の他にもたくさんありそうだが、その詳細はまだほとんどわかっていない。

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動物の間で広がる感染

 新型コロナウイルスが野生のミンクとオジロジカに感染して広まることはすでにわかっている。どちらの動物についても、このウイルスがヒトから動物へ伝播し、再びヒトに伝播した例が少なくとも1件確認されている。ペットのフェレットやゴールデンハムスターの間でも容易に広まるようだ。

 先に挙げた動物以外にも、野生のシカシロアシマウス、アライグマ、キタオポッサム、トウブハイイロリス、シロアシマウス、シマスカンクなどにも新型コロナウイルスに感染したと考えられる例があることが、2022年11月7日に査読前の論文を公開するサーバー「bioRxiv」に公開された研究論文で特定されている。

 この論文の著者であるカーラ・フィンキールステイン氏とホイト氏、保全生物学者のアマンダ・ゴールドバーグ氏は、キタオポッサムが新型コロナウイルスに感染した証拠を初めて見つけたときに驚いたという。

 ここまで遠縁の哺乳類に「ヒトの新型コロナウイルスが感染できるとは思っていなかったので、これは心配だと思いました」とフィンキールステイン氏は言う。ゴールドバーグ氏は「オポッサムとヒトは生物学的に大きな違いがあります」と補足した。

 オポッサムは有袋類で、ミツバチほどの大きさの子を産み、子は母親の育児嚢(いくじのう)と呼ばれる袋の中にある乳頭から乳を飲む。哺乳類の多くは有胎盤類であり、有袋類とは1億5000万年以上も前に分岐している。

 研究チームは、新型コロナウイルスがオポッサムに感染するのであれば、多種多様な哺乳類に感染する可能性があると考えた。そして実際に、米バージニア州南西部の都市部に生息する6種の野生動物が、かなりの割合で新型コロナウイルスに対する抗体を持っていることを確認した。さらに、これらのうちの2種と、アカギツネやボブキャットなど他の4種の動物でPCR陽性(感染を示唆するものだが確証にはならない)を確認した。

 2022年12月10日に「bioRxiv」に投稿された別の論文でも、米ニューヨーク市で捕獲して抗体を検査したところ、ドブネズミの16.5%に新型コロナウイルスに感染した形跡があることが明らかになった。また、エール大学の博士課程学生のレベッカ・アーネスト氏の研究によると、米コネチカット州の野生のシロアシマウスでも、小さな割合だが新型コロナに感染した形跡が見られたという。

感染経路の謎

 しかし、シカなどの野生動物は、どのようにしてヒトの新型コロナウイルスにさらされたのだろうか?

 この疑問に対する答えはまだ出ていないが、いくつかの説がある。野生動物がヒトの出したゴミや排水に触れたり、ヒトが排出したウイルスを近くで吸い込んだりすることによって感染した可能性がある。あるいは、イヌやネコなどのペットや飼育下のシカがウイルスを持っていて、野生動物がこうした動物と接触したときにウイルスをうつされた可能性もある。

 とはいえ、「実際のところは誰にもわからない、と誰もが思っているのではないでしょうか」とブッシュマン氏は言う。

次ページ:ほとんど無視されてきた問題

 どのような経路にせよ、オジロジカは頻繁に新型コロナウイルスにさらされている。2021年に発表された研究では、米国北東部のシカの3分の1以上が新型コロナウイルスにさらされたことが示唆されている。また、新型コロナウイルスがヒトからシカに少なくとも4回伝播したことを明らかにした論文もある。さらに別の論文では、カナダでシカからヒトへの新型コロナ感染が1件起きたことが報告されている。

 動物の新型コロナ感染が問題になる理由の1つは、動物がウイルスの「病原巣」(感染源)となりうることだ。動物の間で流行が続いている間に新たな変異を獲得し、再びヒトに伝播したときにさらに感染が広がりやすくなっているおそれがある。

「感染する種が増え、そこで感染が広がることは望ましいことではありません」とアーネスト氏は言う。

ほとんど無視されてきた問題

 新型コロナウイルスは、野生動物に対して隠れた動物版エピデミック(地域的な大流行)を引き起こせるほどの能力があり、その影響はほとんど見通せないとフィンキールステイン氏は言う。

 感染した動物は軽症に見えることが多いが、ウイルスのさまざまな変異株が動物たちにどのような影響を与えるかは専門家にもわからない。感染した動物が死に至ることもある。新型コロナウイルスに感染したミンクは小さな割合ながら命を落とすようだ。米ネブラスカ州のリンカーン子ども動物園では3頭のユキヒョウが新型コロナの合併症で死亡している。

 ワイレン氏は、実際のところ新型コロナに感染した野生動物にどの程度の症状が出ているのかはわからないと警告している。氏は、チンパンジーのサル免疫不全ウイルス(SIVcpz)がヒトに伝播してヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)に変化した例を挙げる。SIVはチンパンジーに感染してもごく軽い症状しか引き起こさないと長らく思われていたが、研究により、感染したチンパンジーは最終的にエイズに似た状態になり、寿命が短くなる場合があることが判明している。

 ホイト氏は、ウイルスが野生動物に及ぼす影響を生態系のレベルで研究するのは非常に難しいと言う。「新型コロナが野生動物にどのような影響を与えるのかを、私たちはまだ知りません。この問題は、これまでほとんど無視されてきたからです」

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