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凍結して冬を越すカエル、解凍後に元気に生きていられる理由

  • 2022年11月24日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

凍結して冬を越すカエル、解凍後に元気に生きていられる理由

 筆者が大学生だったとき、教授が授業中にある実演をしてクラスに衝撃を与えた。教授は、まだ生きているのにガチガチに凍ったアメリカアカガエルを私たちに見せると、突然、それを壁に投げつけた。粉々に砕けたのを見て、誰もが息をのんだ。

 教授はすぐに種明かしをした。実は、投げたのはカエルではなく、すり替えた氷の塊だった。大げさな演出のためだという。ともあれ、教授が説明したかったのは次のことだ。アメリカアカガエルは冬を越すために、実際に氷のように固く凍る。そして、春になると解凍されて動き出すのだ。

 アメリカアカガエルは、地球上の“凍る動物”の中で、最もよく研究されているものの一つだ。秋に気温が下がると、木の葉の中に身を隠し、心臓や脳などあらゆる部分が完全に停止してしまうまで体を凍らせる。

 ほぼ死んだような状態から生き返る動物は、このカエルだけではない。昆虫では、幼虫のときに凍結と解凍を経験するものが何千種もいるし、ニシキガメの仲間にも凍結できるものがいる。そして、緩歩動物のクマムシは、完全に水分を失うことで極寒でも生き延びる。

「凍結するのは、生息地を北方や標高の高いところに広げるためです」と、凍結耐性を研究しているカナダ、カールトン大学のケネス・ストーリー教授(生化学)は言う。「凍結することができれば、地球上でよりよいニッチ(生態的地位)を手に入れることができるのです」

糖類がカギ

「アメリカアカガエルが跳び回っていると、外側から氷ができ始めます」とストーリー氏は言う。「皮膚が少し凍って、それから氷が静脈や動脈を通じて体の中に広がっていくのです」

 そこからさらに奇妙なことが起きる。アメリカアカガエルの目はくもり、脳は凍り、氷が心臓に血液を押し戻し、やがて心臓も岩のように固まる。

 この凍結過程には生化学的に大きな変化が必要だ。アメリカアカガエルのマイクロRNA分子は、細胞の代謝を再編成することで、細胞を損傷から守る。臓器と細胞の外側に氷がゆっくりと形成されると、同時に、肝臓はグルコース(ブドウ糖)を大量に産生する。このグルコースが細胞の内部を含むあらゆるところに浸透することで不凍液のような働きをし、細胞の縮小と死滅を防いでいるのだ。

 そして春になって「太陽が照りだし、土がぬかるむと、アメリカアカガエルは解凍されます」とストーリー氏は言う。

 凍結の程度は様々で、アラスカ州にいるアメリカアカガエルはマイナス20℃まで、ノースカロライナ州のものはマイナス22.5℃まで耐えられる。しかし、同じ凍結メカニズムは、ほかのカエルや昆虫、その幼虫でも観察されている。

 一方で、大量の糖に頼らずに凍結する動物もいる。2022年10月8日付けで学術誌「Science of the Total Environment」に掲載された新たな研究によると、フチドリニシキガメの子ガメは、アメリカアカガエルよりも大幅に少ないグルコースで済むように、マイクロRNAが代謝を再編成することがわかった。そして、成体になると凍結するよりむしろ呼吸を止める。成体は水中の泥の中で冬眠し、最長で4カ月間呼吸なしで生き延びることができる。

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「凍って冬越し」のデメリット

 水を凍らせずに氷点下に冷却することを「過冷却」という。しかし、自然界では、特にヒトの臓器にとって過冷却にはリスクがあると、米ハーバード大学医学部の助教授シャノン・テシエ氏は言う。氏は自然界における冬眠状態をヒトの臓器移植に応用する方法を研究している。

 氷を形成するには、氷の核となる物質(核形成剤)が必要で、ちりやコレステロール分子くらい小さなものもその役割を果たす。つまり、核をなくして氷の結晶の形成を防ぐことができれば、動物たちは氷点下まで冷えても血液を液体の状態で保てるわけだ。

 ただし、それはあくまで仮定の話。非常に制御された実験室以外では、私たちの世界は核形成剤であふれているとテシエ氏は言う。ホッキョクジリスは、結晶を形成する核になりそうなものをすべて排除することにより、凍結を免れていることがわかっている。しかし、だからといって極限まで過冷却するわけではない。もしそうした場合、少しでも外力や核形成剤が侵入すれば、ホッキョクジリスは凍ってしまい、生き返ることはないだろう。

「臓器を液体の状態で維持することには多くの利点があります」とテシエ氏は言う。「しかし、常に偶発的な氷の形成リスクがあるとしたら、それは対処すべき問題です」

 そのため、寒冷地に生息する多くの種は、血液の凍結温度を下げるのに役立つタンパク質や糖類を生み出すことで、氷を形成することなく体温を0℃以下まで下げることができるようになった。一部の海産魚は不凍タンパク質を、多くの昆虫は糖類を用いている。

 同じ目的を達成するために、昆虫によって様々な方法を進化させてきた。ゴールフライ(虫こぶをつくるミバエ科の一種)の幼虫は冬に氷点下になると固く凍り、暖かくなると解凍する。24時間のうちに凍結と解凍が起こることもある。一方で、ゴールモス(虫こぶをつくるハマキガ科の一種)の幼虫は昼も夜も液体の状態のままだとストーリー氏は言う。

乾燥させるために水分を取り除く

 クマムシは、地球上で最も過酷な環境に生息する微小な無脊椎動物だが、細胞内の水分が凍結するのを防ぐために、単純だが独創的な方法を編み出した。それは、水分を排出するという方法だ。

 ヒトにはそれができない。もし人間が体内の水分の5%でも失ったら死んでしまう。しかし、クマムシはほぼ完全に乾燥するまで水を排出する。脳が停止し、8本の脚を引っ込め、寒さを乗り切るのだ。

「ですから、クマムシを液体窒素に突っ込んでも死なないのです」とストーリー氏は言う。

 しかし、クマムシはすぐに回復する。水を与えると、クマムシは私たちが生命として認識している状態に戻る。

 自然界の極限状態を生き抜くアメリカアカガエルなどの動物は、医療、特に臓器移植の世界で活用できると、テシエ氏は言う。例えば、ヒトの心臓は体外では約4時間しか機能できない。

「このように時間が限られているため、輸送面などの段取りで制約が生じます」とテシエ氏は言う。「そこで、グルコースを大量に使うアメリカアカガエルの仕組みを利用し、肝臓や心臓などの臓器をまるごと凍らせて仮死状態にし、安全に生き返らせてから移植しようとしているのです」

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