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新型コロナウイルスが引き起こすうつに要注意、後遺症でも発症

  • 2022年11月7日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

新型コロナウイルスが引き起こすうつに要注意、後遺症でも発症

 新型コロナウイルス感染症から回復した後も、気分が落ち込んだり、疲労感、無気力感、不安感、そのほかの精神的不調を訴える米国人は、数百万人に上ると推定されている。

 560万人超が登録する米国退役軍人省の医療データベースを調べたところ、新型コロナウイルスに感染した人は、症状が治まった後に精神的な問題を抱えるリスクが高いことが明らかになった。この調査は、2022年2月16日付けの医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に掲載された。

 その共著者で、米ミズーリ州にあるセントルイス・ワシントン大学臨床疫学センター長のジヤド・アル・アリー氏は、次のようにコメントしている。「この国は、パンデミックとロックダウンの混乱による精神的問題を抱えています。特にコロナに感染してしまった人は、大変な思いをしています」

 2022年6月21日付けで学術誌「CNS Drugs」に掲載されたレビュー論文によると、新型コロナウイルスに感染した人の35%が、回復後にうつの症状を訴えたという。感染によって数日〜数週間にわたって日常生活が奪われたことによる精神的苦痛もあるかもしれないが、それだけではなさそうだ。

 あまり知られていないが、新型コロナに限らず、ウイルスに感染した後に、炎症性変化などの生物学的な要因でうつ病を発症するという現象がある。そしてこの論文でも、主に免疫系の炎症がうつを引き起こしており、コロナ患者のうつへの早めのケアとさらなる研究が重要だと指摘している。

 うつの症状は通常、「新型コロナウイルス感染症を発症してから2〜3カ月後に現れ、数カ月間続くようです。どんな人が一時的な症状で済むのか、それとも長期化するのかは予測できません」と、米テキサス大学サウスウェスタン医療センターうつ病研究・臨床治療センターの創立者兼センター長を務めるマドゥカー・トリベディ氏は言う。

ウイルス感染によるうつのリスク

 ウイルス感染症とうつ病の関係は以前から指摘されていたものの、広く認知され、理解されるようになったのはここ数十年のことだ。2016年に医学誌「Brain, Behavior, and Immunity」に発表された研究によると、過去30〜180日の間にインフルエンザにかかった人は、新たにうつ病を発症するリスクが、そうでない人と比べて57%も高かった。また、伝染性単核球症の原因となるヘルペスウイルス科のEBウイルスなどでも、同様のことが起こりうると専門家は指摘する。

 アル・アリー氏の調査では、新型コロナの最初の陽性判定から30日後に不安症を発症するリスクは35%、一時的なうつ状態に陥るリスクは39%高いことがわかった。それに伴って抗うつ剤や、睡眠薬や抗不安薬として使われるベンゾジアゼピン系向精神薬の使用も増加していた。

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 ほかにも、2022年4月号の医学誌「Journal of Neurology」の調査では、新型コロナに感染してから8カ月後も疲労感を訴える患者の間で、高いレベルの無気力感や不安感を抱く人が多いことが明らかになった。2022年5月号の医学誌「The Lancet」に発表された研究では、ヨーロッパの6カ国で、新型コロナに感染したが入院はしなかった患者の心の健康状態を追跡した結果、回復後何カ月もうつ症状に悩まされる人の割合が高いことがわかった。特に、コロナで床に臥せっていた人ほどその傾向が顕著だった。

新型コロナウイルスはどのようにうつを引き起こすのか

 新型コロナウイルスがどのようにしてうつ症状を引き起こすのかについて正確なことはまだわかっていない。だが、いくつかの仮説がある。アル・アリー氏は、ウイルスが脳に炎症を引き起こし、中枢神経系で炎症分子を作り出す免疫細胞のミクログリア細胞を活性化させているのではないかという。「炎症は、情緒や感情を制御する脳の領域に影響を与えます」

 また、ウイルスが血管の内膜を攻撃したために、脳に血液と酸素が十分に供給されなくなり、感情を制御する脳の領域に障害が起こる可能性もあるとアル・アリー氏は付け加えた。

 第3の仮説は、ウイルスが腸内細菌叢を乱してしまうのではないかというものだ。その結果、気分の制御に関わる、脳を含めた全身の神経シグナルのレベルが変わる。「はっきりしていることは、ウイルスがメンタルヘルスに与える影響は想像の産物ではなく、生物学的な現象であるということです」と、アル・アリー氏は指摘する。

 そうは言うものの、心理的要素が全く働いていないわけではない。新型コロナによる長期間にわたる隔離と孤独感も、「コロナ後うつ(post-COVID depression)」に影響していると、米メイヨー医科大学の精神科医プラベシュ・シャーマ氏は指摘する。「なぜ自分が? と思う人は少なくありません。そこから悪い方へ悪い方へと考えてしまい、日常生活にまで影響を及ぼすようになります」。これが負のスパイラルを生み、うつ状態にはまり込む要因となる。

 さらに問題を複雑にしているのは、コロナ後うつにかかる人が、周囲の理解を得られないことだと、臨床心理士のドーン・ポッター氏は指摘する。「症状が治まったのになぜ元気にならないのかと、家族からも思われています」。ポッター氏は、クリーブランド・クリニックで長期的なコロナ後遺症、いわゆる「ロングCOVID」に苦しむ人々のための支援グループを運営している。「そういった人たちは、いつ症状が治まるのか、何が回復に効くのかがわからず、不安を抱えています。それに、またコロナに感染するかもしれないという恐れもあります」

コロナ後うつになりやすい人は? 男女で違いも

 新型コロナウイルス感染症は比較的新しい疾患であるため、この問題に関する研究もまだ多くはないが、専門家は、うつ病や不安症の既往歴がある人は、コロナ後うつにかかるリスクが高いと考えている。「臨床の現場では、以前うつ病にかかったことがあるものの、コロナ前には改善していたり、元々それほど深刻ではなかったのに、コロナ後に再びうつ病を発症したり、症状が悪化したという患者さんをよく見ます」とポッター氏は言う。

 ほかにも小規模な研究だが、感染前から強いストレスがあった人、肥満、ぜんそく、高血圧、糖尿病などの合併症を抱えていた人、そして新型コロナで重症化した人も、コロナ後うつにかかりやすいという結果が、2022年1月に医学誌「Journal of the Academy of Consultation-Liaison Psychiatry」に発表されている。

 長期のコロナ後遺症の一つとしてうつ病を発症することもある。この場合、記憶力、思考力、集中力に関する問題、気分の変化、疲労感のほか、薬やお金の管理に必要な整理能力の低下といった状態がだらだらと続く。

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 専門家たちはコロナ後うつに関して明確な性差は見られないと言うが、2022年1月に医学誌「Journal of Psychiatric Research」に掲載された調査結果では、イタリアで新型コロナから回復した人のうち、男性の方が6カ月後に高いレベルの不安感とうつ症状を示す傾向にあり、しかも12カ月後にはそれがさらに悪化していた。一方女性はというと、うつ症状が最も重かったのは感染直後で、6カ月後にはかなり回復し、その後12カ月後までずっと快方に向かっていた。

 男性の方が炎症性免疫反応が強いため、コロナに感染した脳や体に後々まで炎症を残してしまうのではないかと考えられている。また、精神的な問題に関しては女性の方が男性よりも専門家の助けを求める傾向にあると論文の著者らは考察している。

コロナ後うつをなるべく防ぐには

 コロナ後うつが自然に回復するケースもあるが、だからといってそれまで何もせずに苦しみ続ける必要はない。「コロナのせいだからと言って放置しないでください。思ったよりも長期化してしまう場合もありますから」と、トリベディ氏は言う。

 精神的にも感情的にも楽になるためには、定期的に体を動かしたり運動をするといい。トリベディ氏によると、運動には抗炎症効果と抗うつ効果があるという。また、友人や家族と連絡を取り合ったり、地域で行われている支援グループに参加するなど、社会とのつながりを持つようにしよう。

 そして、健康的な食生活を実践する。果物、野菜、豆、ナッツ、未精製の穀類、魚、オリーブオイルが豊富な地中海料理は、うつ病の低リスクと関係しているという研究が2021年11月に学術誌「The International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に発表されている。加えて、2019年9月に学術誌「PloS One」に、健康的な食生活を取り入れると、わずか3週間でうつ症状が改善し始めるという研究結果が発表された。

 良い睡眠をとる環境づくりも重要だ。ポッター氏は、「睡眠の問題とうつ病は深く関連しあい、互いに影響を与え合っています」という。質の悪い睡眠は気分に悪影響を与え、うつ病は睡眠の質を悪化させる。「よく眠れるようになれば、気分も良くなります」

 そのためには、良い入眠習慣を身に付けるといいと、ポッター氏は勧める。寝る前には部屋の明かりを暗くし、デジタル画面を避け、同じ時間に寝起きする。これらを毎日実践し、一貫した睡眠サイクルを維持する。

 ただし、生活習慣の改善だけでなく、症状の深刻さによってはセラピーを受けるとより効果的かもしれない。特に、認知行動療法(CBT)は、否定的な思考パターンをより肯定的な思考に変えていく助けをする。米ミシガン州立大学の整骨医で、子どもと思春期の精神医学を専門とするジェド・メイガン氏は、行動活性化というアプローチを提案する。これはCBTに組み込まれることも多いが、目標を設定し、何か気分を向上させるような行動を促すという療法だ。

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