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北極海にすむ巨大深海ザメをカリブ海西部で発見か、初

  • 2022年8月5日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 サメの大半は生態が謎に包まれている。ニシオンデンザメ(Somniosus microcephalus)も例外ではないが、このサメについて最近わかってきたことは、驚くべき事実ばかりだ。

 北極圏に暮らすニシオンデンザメは400年以上も生きることができ、目に寄生する生物のせいでしばしば視力を失うことがこの数十年で判明した。また、主食は魚やイカだが、ウマ、トナカイ、さらにはホッキョクグマなど、哺乳類の死骸も食べることが知られている。

 最新の驚きは2022年春、既知の生息域から何千キロも離れたカリブ海西部でニシオンデンザメが発見されたことだ。このサメについては何が起きてもおかしくないと科学者たちは学んでいたが、それでも、この発見は衝撃的だった。

「驚いただけでなく、興奮しました」と米フロリダ国際大学の博士候補生であるデバンシ・カサナ氏は語る。カサナ氏はベリーズの漁師たちとともにイタチザメのタグ付けを行っていたとき、ニシオンデンザメを偶然捕獲した。この発見は7月15日付けで学術誌「Marine Biology」に発表された。

 カサナ氏はサメの同定に必要なDNAサンプルを採取できなかったが、写真を見たサメの専門家たちは、ニシオンデンザメである可能性が極めて高いと考えている。この予想外の遭遇は、かつて北大西洋の氷海に限定されていると信じられていたニシオンデンザメの生息域について議論を起こすものだ。

驚きの遭遇

 遭遇の現場は、世界で2番目に長いサンゴ礁からほど近いベリーズの南岸沖だ。イタチザメを調べるため、カサナ氏は一部水没した環礁、グローバーズ・リーフの沖にある深海にはえ縄を仕掛けていた。当日、天候は荒れ模様で、一行は予定していた引き上げを諦めようと思っていた。しかし、その後、仕掛けを上げることにした。

「何か重いものが掛かっているとすぐにわかりました」とカサナ氏の研究を手伝う漁師のヘクトル・マルティネス氏は振り返る。はえ縄の巻き上げ機が限界近くまで踏ん張りながら、獲物を引き上げようとした。2時間に及ぶ格闘の末、ついにサメが姿を現した。

 サメと対面したカサナ氏らは、自分たちが何を目にしているのかよくわからなかった。「あの個体が水面に現れたとき、皆の経験に基づく知恵を結集しても、何という種なのかわかりませんでした」

 カサナ氏は当初、世界中の深海に生息するカグラザメかもしれないと考えた。そして、博士課程の指導教官で米フロリダ州モート海洋研究所・水族館でも研究を率いるデミアン・チャップマン氏に写真を送ったところ、カグラザメではないと言われた。チャップマン氏によれば、ニシオンデンザメである可能性が高いという。

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生息域は予想以上に広い?

 ニシオンデンザメは体長7メートル、体重1.5トンにもなる大きなサメだ。アザラシや魚、イカを捕まえることが知られているが、むしろ好物は死肉で、海底に行き着いた大型哺乳類の死骸を食べる。

 また、ニシオンデンザメは最近、世界で最も長生きする脊椎動物の称号を与えられた。推定400年以上も生きることができ、2016年には、グリーンランド沿岸で272歳の個体が発見された。

 ニシオンデンザメは北極海最大のサメで、北極海に年間を通じて生息する唯一のサメでもある。個体数はよくわかっていないものの、減少傾向にあると考えられており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「危急種(vulnerable)」に分類されている。浅瀬で目撃されることもあるが、水深約2200メートルの深海に暮らすことも可能で、マイナス2℃からプラス7℃の水温に耐えることができる。

 ニシオンデンザメを含むオンデンザメは、冷たい海に適応したサメのグループだ。エネルギーを節約するためにゆっくり動き、組織には凍結防止剤に似た化学物質が多く含まれ、水分が凍るのを防いでいる。これらの適応により、極寒の北極海でも暮らすことができるのだ。

 そのため、ベリーズで発見されるのは予想外だった。ただし、オンデンザメは何度か赤道付近で目撃されている。

 熱帯でニシオンデンザメが記録されるのは「とても価値がある」と、北極圏の漁業の専門家で自然保護団体オーシャンズ・ノースに所属するブリン・ディバイン氏は話す。

「極地から離れた場所の分布についてはほとんど何もわかっていません。このような観察から、私たちはこのサメのことを学んでいます(中略)が、この種については、解明されていない領域がまだ残されています」

 北極圏からは遠く離れているが、カリブの深海も非常に冷たい。これらの動物にとっては、十二分に適した環境のようだ。実際、ニシオンデンザメを含むオンデンザメは世界中の深海に生息している可能性があるとカサナ氏は述べている。しかし、目撃情報はごくわずかだ。

「Sharks of the World(世界のサメ)」の著書があり、サメの生態を研究するデイブ・エバート氏は「カリブの深海については、あまり詳しくわかっていません」と話す。「この学生がサメのスナップショットを撮影できたのは幸運でした。そうでなければ、私たちが存在を知ることはなかったでしょう」

 あの日、捕まえたのは狙っていたサメではなかったが、カサナ氏はその存在を記録できたことを喜んでいる。

 ベリーズ政府は最近、(グローバーズ・リーフと周辺の深海を含む)3つの環礁をサメの保護区にすると宣言した。

「あのような別世界の生き物と出会うことができて、私たちはとても興奮しています」とカサナ氏は語り、今回の発見が「グローバーズ・リーフの海域に暮らす未発見の生き物の保護につながる」ことを期待していると言い添えた。

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