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太陽の光に隠れて見えない小惑星、地球衝突のリスクは?

  • 2022年8月6日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 太陽系の中心をかすめ、太陽の光に隠れ、ときに地球などの岩石惑星に接近する不思議な小惑星群がある。その中でも最もよく知られているのが、2年前に発見された小惑星「アイローチャクニム(ꞌAylóꞌchaxnim) 」。米国カリフォルニア州の先住民パウマの人々の言葉で「金星の女の子」を意味する名前だ。

 アイローチャクニムは、これまで知られているなかで唯一、常に金星の公転軌道より内側にある小惑星だ。地球からは非常に見えにくい位置にあり、地球上の生命を脅かす可能性がある。

 天文学者は、地球の公転軌道より外側にある危険な小惑星はほとんど発見できたと考えている。しかし、地球軌道の内側にある小惑星を見つけるのは難しい。こうした小惑星は、地球から見たときに太陽の光の中にあるため、望遠鏡で見ることができないからだ。それでも近年、天文学者たちは、太陽が地平線のすぐ下にあるタイミングに小惑星のかすかな輝きを探し出すことに成功し始めている。

 地球に近い軌道を回る「地球近傍小惑星」の多くは、内部太陽系(地球や火星といった岩石惑星がある太陽に近いエリア)では長生きできない。惑星と衝突したり、灼熱の太陽の犠牲になったり、外側に弾き飛ばされたりする運命にあるからだ。しかし、ほとんど研究されていないこの小惑星群の中には、危険なものもあるかもしれない。

「こうした小惑星は、ほとんどの時間を地球軌道より内側で過ごしますが、地球軌道を横切ることもあります。そのときが危険なのです」と米カーネギー科学研究所の天文学者スコット・シェパード氏は説明する。「小惑星は太陽の方向からやってくるので、地球からその接近を見ることができないのです」。シェパード氏は、7月21日付けで学術誌『サイエンス』にこれらの小惑星についての論文を発表した。

薄明時の小惑星探し

 これらの小惑星は、惑星軌道との位置関係によって分類される。常に地球軌道の内側を回る小惑星は「アティラ群」と呼ばれ、そのうち金星軌道の内側を回るものは「バティラ群」と呼ぶことが提案されている。理論的には常に水星軌道の内側を回る小惑星も存在している可能性があり、これには「バルカン群」という名前が提案されている。

 地球軌道の内側を回る小惑星を発見し、研究するためには、通常とは異なる方法をとらなければならない。地球軌道の外側を回る小惑星を探すなら夜空の最も暗い部分に望遠鏡を向ければよいが、内側を回る小惑星を探す場合は、夜明けや夕暮れ時に、太陽が隠れている地平線のすぐ上に望遠鏡を向ける。望遠鏡は10分〜20分間薄明かりを見つめ、太陽の光を反射する、小さな動く点を探す。

「太陽の近くの小惑星を観測するためにはいろいろな条件を満たしている必要があり、非常に難しいのです」とシェパード氏は言う。「観測は太陽が地平線のすぐ下にあるときに行わなければなりませんが、このときの空は非常に明るいのです。また、地平線のすぐ上に望遠鏡を向けるので、ふだんより多くの大気の中を通ってきた光を見ることになります」

 大気は画像をぼやけさせるので、小惑星のかすかな輝きを解像するのは通常よりも困難になる。さらに、天気が悪ければ、つかの間の観測の機会はすぐに消え去ってしまう。

 それでも天文学者たちは、2つの望遠鏡を駆使して小惑星を探している。シェパード氏のチームは、チリのセロ・トロロ汎米天文台のダークエネルギーカメラを、もう1つのチームは、米国のパロマー天文台にある掃天観測施設ZTFを使っている。チリの望遠鏡の口径は4メートルで、ZTFの口径1.22メートルの望遠鏡よりも大きいため、より暗い天体を見つけることができるが、視野は狭くなる。一方、ZTFの望遠鏡は毎晩全天を観測しているので、明るさが変動する天体を探しやすい。

「すばらしい観測装置です」と、ZTFチームのメンバーである米カリフォルニア工科大学のジョージ・ヘロウ氏は言う。「一晩の観測で数万から10万のアラートが出ます」と言う。「視野が非常に広いため、天候や大気の条件が良ければ、薄明の20分間にかなりの範囲の空を観測できます」

次ページ:記録破りの小惑星

 ZTFはこれまでに地球軌道の内側を回るアティラ群小惑星をいくつか発見している。地球軌道を横切る小惑星も、1週間に1個程度のペースで発見している。なかには月よりも近くまで接近してくる小惑星もあるが、深刻な懸念を抱くほどの大きさや近さではない。

 地球近傍小惑星のほとんどは、直径が数十メートルから100メートルまでの大きさだ。2013年にロシアのチェリャビンスク上空で爆発し、窓ガラスを粉々にしたり建物に被害を与えたりした直径20メートル弱の隕石から、1908年にロシアのツングースカ上空で爆発して2150平方キロの樹木をなぎ倒した隕石までのサイズが多いとヘロウ氏は言う。

 ZTFを使った薄明時の観測で見つかった最も重要な小惑星は、最初のバティラ群小惑星である「アイローチャクニム」だ。

記録破りの小惑星

 2020年初頭に発見されたアイローチャクニムの直径は約1.5キロで、惑星に衝突すればかなりの打撃を与える大きさだ。そして天文学者は、おそらく実際に惑星に衝突するだろうと予想している。

 地球近傍小惑星の起源と運命を研究している米ワシントン大学のサラ・グリーンストリート氏は、アイローチャクニムが今後どうなるかを予想した。

 最も可能性の高いシナリオによると、アイローチャクニムは数百万年後に金星に衝突するという。太陽の周りをぐるぐる回っているうちに、水星の重力と太陽の光によって軌道が乱れて外側に押し出され、ついには金星に衝突してしまうという。

 シェパード氏らが発見した小惑星「2021 PH27」も、将来、金星と衝突する可能性がある。この小惑星の直径は1キロ以下で、既知のどの小惑星よりも太陽に近いところを回っている。軌道は非常に細長く、水星軌道の内側に入ることもあるが、金星軌道の外側に出ることもあるため、アティラ群小惑星とされている。

 アイローチャクニムと同様、2021 PH27の軌道も、水星や金星との重力相互作用などによって乱されている。シェパード氏の予想によれば、2021 PH27は約1000年後に金星に接近するが、その相互作用によって小惑星の軌道がどのように変化するかはわからないという。

「地球近傍小惑星の動きは混沌としています」とグリーンストリート氏は言う。「しょっちゅう、こづかれたり弾き飛ばされたりしているのです」

次ページ:かすかな光を探し続けて

 この複雑さは、科学者が地球近傍小惑星を研究することが重要だと考える理由の1つになっている。しかし、これらの小惑星がそもそもどのようにして太陽の近くにあるのかを理解することも重要だ。

針に糸を通すような

 多くの科学者は、地球近傍小惑星は、火星と木星の間にある小惑星帯で誕生したと考えている。しかし、小惑星帯を離れた小惑星が太陽の近くに落ち着くのは容易ではない。

 グリーンストリート氏は、「小惑星がここに到達するためには、偶然の相互作用がいくつも重なる必要があります」と言う。「長い旅です」

 木星との重力相互作用は、小惑星を内側にも外側にも押し出す可能性がある。内側に押し出された小惑星が火星に接近し、渦巻き状に太陽に近づいてゆく軌道に入る可能性はあるが、その可能性は非常に低いと考えられている。

 シェパード氏は、「火星との相互作用では、基本的には外側に押し出されます。そこからさらに木星と相互作用したらゲームオーバーです。太陽系からはじき出されるか、いずれかの惑星と衝突することになるでしょう」と言う。

 しかし、これらの地球近傍小惑星が、まだ誰も見たことのないバルカン群に由来しているのでないかぎり、そのすべてが針に糸を通すような、ありそうもない絶妙な経路でここに来たことになる。小惑星が地球にもたらすかもしれないリスクを定量化するためには、そのうちの何個が小惑星帯からの旅を生き抜いてきたかを理解する必要がある。

 科学者たちは、地球軌道を横切る小惑星のうち、1つの大陸を壊滅させる可能性のある直径1キロ以上のものは24個よりも少ないだろうと推測している。2021 PH27はその1つで、シェパード氏によると、ほかにも6個ほどわかっているという。金星軌道の内側を同程度の大きさの小惑星が回っている可能性もあるが、おそらくその数はもっと少なく、現時点で発見されているのはアイローチャクニムだけだ。発見は困難だが、惑星存亡の危機をもたらすほどではないような小さい小惑星はもっとたくさんあるかもしれない。

 グリーンストリート氏は、科学者たちが最初に見つけたのがアイローチャクニムだったのは意外ではないと言う。なぜならこの小惑星はかなり大きいからだ。「とはいえ、この小惑星が望遠鏡による調査が始まってから比較的すぐに発見されたことは、予想以上に多くの地球近傍小惑星が存在している可能性を示しています」

 科学者たちは今後もZTFとチリの望遠鏡で薄明を見つめ、地球近傍小惑星の存在を示すかすかな光を探し続ける。シェパード氏のチームは、別の望遠鏡も使って、これらの小惑星の特徴や組成を明らかにしようとしている。グリーンストリート氏らは、現在チリで建設中のベラ・ルービン天文台が、さらなる事実を明らかにしてくれることを期待している。

 NASAも、地球近傍天体の探査に特化した宇宙望遠鏡「NEOサーベイヤー」の計画を進めている。2020年代の終わりまでに打ち上げられるこの望遠鏡の目的は、太陽に近い宇宙空間を見つめ、より多くの地球近傍小惑星を発見することだ。NEOサーベイヤーは、まぶしい太陽光に隠れて私たちを不意打ちする天体がないように、地上の望遠鏡よりもさらに注意深く空を見張ってくれるはずだ。

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