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親を亡くしたゾウは高ストレス? 否、仲間がいれば大丈夫

  • 2022年7月20日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

 親を亡くしたゾウは、そうでないゾウに比べて大きなストレスを抱えているのではないか? アフリカ、ケニアで野生のゾウを調査する研究チームは、そんな仮説を立てた。 

 母子の絆がストレスを和らげることは、これまでにもネズミやモルモット、フィンチ(鳥)などで証明されていると、米サンディエゴ動物園とコロラド州立大学の博士研究員で、今回の研究を率いたジェナ・パーカー氏は言う。

 ゾウには高度な社会性があり、家族の絆も強い。また、孤児となったゾウは母親と一緒にいるゾウよりも死亡率が高いことが調査で判明したことから、孤児ゾウのストレス値が高いであろうと予測したのだ。

 しかし、調査した結果は意外なものだった。実際には、おば、いとこ、きょうだいといった家族がいるかぎり、孤児ゾウとそうでないゾウで、ストレスホルモンのレベルに違いはみられなかった。また、たとえ孤児であっても、同年代の仲間と一緒にグループで生活しているゾウは、そうでないゾウよりもストレスが低かった。つまり、仲間との絆がとても重要になるようだ。

「ゾウは8歳か9歳くらいまで、母親から10メートル以上離れることはほとんどありません。だから、孤児のゾウのほうがストレスホルモンのレベルが高いだろうと考えたのです」とパーカー氏は話す。

 7月14日付けで学術誌「Communications Biology」に発表された今回の研究成果は、この地域のゾウが人間との衝突や干ばつによる脅威にさらされている中、仲間同士の強い結びつきがゾウの生存に役立っている可能性を示すものだ。アフリカゾウの一種であるサバンナゾウは、国際自然保護連合(IUCN)によって2021年に「絶滅危惧種(Endangered)」に指定されている。2021年の調査によると、ケニアには約3万6000頭のゾウが生息している。

 今回の知見は、親を亡くしたゾウの保護施設でも活用できる可能性がある。たとえば、絆が育まれた大きなグループ単位で野生に帰すということも考えられるかもしれない。

ゾウの糞からストレスを測定

 パーカー氏が今回の研究を始めたのは2015年のこと。そのころ、ケニアのサンブル国立保護区では、数年にわたって密猟が増加していた。

 ゾウが殺されると、そのゾウとつながりがあるすべてのゾウに影響が及ぶ。そこで研究者たちは、密猟によるゾウへの間接的な影響を調べようと考えた。つまり、母親が密猟の犠牲になったとき、子どもの社会的および生理的な健全性にどのような影響が生じるのかということだ。

 研究グループが最初に調べたのは生存率だ。調査の結果、サンブルでの孤児ゾウの生存率はそうでないゾウよりも低いことがわかった。次に、生存している孤児ゾウに注目し、そのストレスを調査することにした。

 調べたのは、ゾウの糞のグルココルチコイド代謝物(ストレスに応じて体内で生成される物質)の濃度。「これは無害な調査なので、ストレスホルモンを調べる優れた方法です。ただ糞をするのを待って、それを集めればいいだけですから」とパーカー氏は言う。

次ページ:ゾウの糞を496回にわたって集めた

 一般に、ストレスホルモンのレベルが高ければ、ストレスが高いことになる。ただし、一つのサンプルで高い値が出ても、それだけで断定はできない。「たまたまその日、ライオンに遭遇していた可能性もあるからです」とパーカー氏は言う。

 そこで、パーカー氏らは2015年から2016年にかけて37頭の若いメスのゾウの糞を496回にわたって集めた。そのうち25頭が孤児で、12頭がそうでないゾウだ。孤児ゾウが母親を失ったときの平均年齢は5歳だった。

 研究グループにとって、孤児ゾウのストレスが母親のいるゾウよりも高くなかったことは意外だったが、グループの絆が重要な役割を果たしているらしい点は、驚きではなかった。

 パーカー氏は、フリーダとロスコという2頭の孤児ゾウを思い出すという。「フリーダは左耳を、ロスコは右耳をケガしていました。まるで一緒にいれば健康な両耳を得られるとでもいうように、この2頭はいつも一緒だったのです」

 今回の研究結果は、これまでのアフリカゾウの社会生活に関する調査とも一致するという。「母親を失ったゾウは、同年代の仲間との関わりが増えます」とパーカー氏は言う。ゾウの社会は年功序列式で、たとえば食べものに関しては、高齢のゾウほど優位な立場にあるようだ。しかし、同年代のゾウは基本的に対等な立場にある。

ゾウにはゾウが必要

 パーカー氏は、ケニア北部にあるゾウの孤児保護施設「レテティ・ゾウ・サンクチュアリ」で行われている若いゾウのリハビリやゾウを野生に帰す取り組みに携わっている。

 パーカー氏の心の中には、いつもそこで暮らすゾウたちの姿があったという。今回の研究成果は、リハビリしたみなしごゾウたちを同じくらいの年齢の大きなグループで放せば、うまく野生に帰せる確率が上がるかもしれないことを示しているからだ。

 パーカー氏は、密猟によって深刻な被害を受けたグループなど、別の母集団でも同じことを調べたいと考えている。

 IUCNのアフリカゾウ専門家グループに所属する野生生物学者キャサリン・ゴブシュ氏は、今回の研究には関与していないが、同じゾウのグループが厳しい干ばつや密猟といった強いストレス要素に直面したときのことを調べるのもおもしろいだろうと述べている。

 ゴブシュ氏は、「重要なことは、ゾウにはゾウが必要だということです」と言う。「仲間がいるからこそ、母親を失うといったような最悪の事態が起きても、元気に生き延びるための新たな道を見つけられるのです」

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